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しおりを挟む「マリア、君との婚約を、破棄させてもらう」
びり、と破られた婚約証書を叩きつけられたその瞬間、私は前世の記憶が戻った。そして思った。あ、私、悪役令嬢になってる、と。マリア・ランベールもとい東条真理は前世で高級ソープ嬢であった。そしてその太客のうちの一人に後ろから刺されて死んだ。薄れゆく意識の中で私はまあ仕方ないか、とその死にざまに納得していた。なんせ私を刺したその客は店に通うために240万の借金をして、親が残した遺産も家も全部残らず失ってしまったのだ。それにも関わらず、私を手に入れることはできなかった。そりゃ刺したくもなる。うんうん、と頷きたくなるほどに客に同情した。だが私は結局死ぬ間際、そして転生した今もその客の名前が思い出せなかった。客が多すぎて途中で名前を覚えられなくなり、結局全員「旦那様」と呼んでいたからだ。一般的に風俗嬢は客を「お兄様」と呼ぶ。しかし、私の客は私と本気で結婚したがる客ばっかりだったので「旦那様」のほうが喜ばれたのだ。
そういうわけで私は転生し、悪役令嬢として生を受けたようだ。前世の記憶がなく、ただのマリアだったときの記憶もしっかりある。だから私は婚約者の少し後ろで醜い笑みを浮かべた女が私をはめたことをしっかりと理解している。彼女の名前はベラ・メルシエ。私の父より一つ位の低い貴族の令嬢だ。容姿は中の上、といったところか。綺麗な目をしているものの、少し小鼻が大きく、芋臭い印象だ。アカデミーでの魔術・剣技・座学の成績においてすべて私より下である。そんな顔も頭もよくない女が私をはめたというのは腹立たしい事実であり、記憶が戻る前のお人好しで人を疑うことを知らない純粋な小娘マリアに内心舌打ちをした。気付くチャンスはいくらでもあった。攻撃魔法の手合わせをしてほしいと言われ、ベラに当たらないように打った魔法にわざと手を触れさせた時、階段で呼び止められ、近寄ってきたベラが誰かを確認してから足を踏み外したとき、お茶会をした時に明らかにわざとティーカップをひっくり返しドレスを汚したとき、他にもいくらでもある。今思い返してみるとベラは半年ほど前からこういったことを繰り返している。どう考えても計画的な犯行である。哀れなマリアはそれらを全てベラのかわいいおっちょこちょいだと信じて疑わなかった。マリアはベラを同い年の、かわいい妹のように思っていたのだ。ベラはマリアと出会ったミドルスクールのころ、大人っぽくて賢くて強くて美しいマリアのことを憧れの目で見て、同い年なのに「マリア姉さま」と呼び、雛のように後ろをついて来ていた。マリアもそれを嬉しく思って、ベラのことを一等可愛がっていた。それなのに、憧れが嫉妬へと変わったのはいつだったのか。マリアが優れた魔法式を発明して表彰されたときか、女学生の憧れであった美しい令息シンディ・ガルシエと恋に落ち、結ばれ、そして婚約をしたときか。いつかはわからない。しかし、明確にベラはマリアに嫉妬の炎を燃やし、そして美しく魅力的な婚約者を奪い取った。
婚約を破棄された私は今後、貴族たちの間で笑いものにされるであろう。世間体を気にする両親は私との縁を切るかもしれない。そうなったら私は女の学生の身一つで一人で生きていかなくてはならなくなる。きっと無一文で放り出されはしないだろうが、屋敷を追われ、頼るあてもなく街を彷徨うことになる。そして、私が知っている悪役令嬢の末路はどれも処刑や追放。つまりこの世の終わりである。このままでは私も同じ道をたどることになる。そんなのはごめんだった。せっかくせこせこ働かなくても毎日お茶を飲んでにこにこしていれば安泰な身分に転生できたのだ。死ぬにしてももっとこのニート生活を満喫してから死にたい!そして、私は思ったのだ。こいつら全員抱いて落してしまえばいい、と。それは私の得意分野、いや専門分野であった。
私はそのための算段をある程度頭の中で立て、まずはこのシンディ・ガルシエで前世でのノウハウがこの異世界でも通用するのか試してみることにした。そしてそのためにまずは、右目から、つ、と一筋の涙を流し、これをもってマリア・ランベールの、そして東条真理の、性と愛と欲に塗れた異世界人攻略セックス無双劇が幕を上げた。
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