129 / 328
教師1年目
元旦
しおりを挟む
「どうした、ライヤ。随分疲れているようじゃが」
「はは、そう見えます?」
元旦。
王家の長子として王様への挨拶を行うアンの隣。
眠れずに定評のある目つきの悪さに拍車がかかったライヤ。
「家に帰してくれれば解決するので、あまり気にしないでもらって……」
「そうか、なら深くは聞くまい」
「お父様、新年を無事に迎えられたこと。ここにお慶び申し上げます」
「うむ、昨夜はよく休めたか」
「久しぶりにしっかりと休養をとれたと思います」
「何よりだ」
「聞いたわよ、ライヤ君。昨日の口上は大層格好良かったそうね♪」
「口上……?」
王妃の言っていることがわからず、ライヤは首をかしげる。
「もう、照れちゃって。アンのことが一番大事だって見得を切ったって聞いたわよ!」
「!?」
その話をしたのは昨晩も夜遅くの事。
エリアルがわざわざ報告に行くとも思えないし、アンとヨルはその時から部屋を出ていない。
どうやってそのことを知ったというのだ……。
「私もその場に居合わせたかったわー」
「ライヤってばすっごく格好良かったのよ!」
「えぇ、メイドから聞いた話だけでもわかるわ。孫の顔を見れるときも遠くないわねー」
メイドという単語に反応し、後ろを振り向くライヤ。
ライヤの視線に気づいたアンお付きのメイドがどや顔をする。
「いい仕事をしました!」という顔。
あのメイドとは後で話をつける必要がありそうだ。
「……まぁ、その程度のこと言えないようならこの場にも来てませんよ」
「乗り気じゃなかったって聞いたけど?」
「そりゃ、この場に王女と一緒に現れたなんてまた反感を買うだけですから」
「でも、来たのね」
「そりゃ、望まれましたから」
「窓から逃げようとしてたじゃない」
「ナンノコトカナ」
「カタコトになってるじゃない」
横からの圧の視線が凄い。
「まぁまぁ、アン。ライヤ君は一般人なのよ? こんな場に引っ張り出されたらそれは逃げ出したくもなるわ」
「お母様はライヤを一般人と思っているので?」
「……それは違うわねぇ」
「なら問題ないでしょう」
論理が飛躍しすぎだろう。
「この場はただの新年のあいさつの場だ。よって、これは独り言である」
和気あいあいとしたムードは王様が話しだしたことによって引き締まる。
「王国は今年中、遅くても来年には戦争状態に入るだろう。アンにはまたかなりの負担をかけることにもなるだろう。その時にアンを支えてくれるものがいれば、嬉しいと思う」
その独り言に、ライヤは大きく首を垂れる。
必ず。
言葉にせずともその意思は確かに王へと届いていた。
「……また会ったな」
「お恥ずかしい限りで……」
挨拶の順番にして4番後。
ライヤの姿がまた玉座の間にあった。
「お父様、お母様。新年あけましておめでとうございます」
「えぇ、ウィルも明けましておめでとう。でも、隣の……」
「先生ですから♪ 一緒に来ていただきました」
「そうなの……」
流石の王妃も困惑している。
遡ること1時間半ほど前。
「じゃあ、俺帰って寝るから」
「えぇ、なんで眠れてないのかわからないけど、睡眠不足はきついから、ゆっくり寝なさいよ」
お前のせいだよ、とはとても言えない。
「じゃあ、行くか」
「はい」
外でヨルの名前を呼ぶことは無い。
「あら、先生と……」
「ウィル?」
丁度挨拶のための準備に来たのだろう。
ウィルが待機部屋に入っていくところだった。
勘が良いウィルはその場をパッと見て状況を察したのだろう。
トトっと歩いてきて、ライヤを摑まえる。
「先生、私と一緒に挨拶に行きましょう?」
「いや、俺今から帰って寝るところで……」
「少しくらいダメですか……?」
「うっ……」
ウルウルと見上げてくるウィル。
「ウィル、ライヤに迷惑でしょう」
「アン姉さま。迷惑かどうかは先生が決めることです。それに、先生が寝不足なのはアン姉さまが原因では?」
「さぁ、どうかしらね」
バチバチと廊下で行われる王女2人の姉妹喧嘩。
「さぁ、その腕を離しなさい」
「嫌ですー!」
「わかったわかった、挨拶だけなら行くから……」
そろそろ有力貴族たちから順に順番待ちを始めるだろう。
こんな王女同士が喧嘩しているところなど見られていいはずがない。
事情はどうあれ、これにかこつけて勢力構築を目論むに違いない。
他の時期ならまだしも、これから他国と戦争が控えている時期にすることじゃない。
「苦労をかけているな……」
「まぁ、この程度なら……」
先ほどよりも目つきがまた悪くなったライヤに王様も同情を禁じ得ない。
「ウィル、お前のことだから先生に迷惑をかけていることは少ないだろう。勉学も熱心に取り組んでいると聞く。学園にも慣れただろう。これから成長することを願っている」
「もったいないお言葉です」
「……これもまた独り言なのだが」
「……」
「ウィルは周りに遠慮しすぎる。それもまたこの子の良いところなのだが、損をしているところもある。その辺りに気が付く者が近くにいてくれればと思う」
再び深く、首を垂れるライヤ。
この場に来たことで王の独り言を聞いてしまうという重責を背負った気もする。
「はは、そう見えます?」
元旦。
王家の長子として王様への挨拶を行うアンの隣。
眠れずに定評のある目つきの悪さに拍車がかかったライヤ。
「家に帰してくれれば解決するので、あまり気にしないでもらって……」
「そうか、なら深くは聞くまい」
「お父様、新年を無事に迎えられたこと。ここにお慶び申し上げます」
「うむ、昨夜はよく休めたか」
「久しぶりにしっかりと休養をとれたと思います」
「何よりだ」
「聞いたわよ、ライヤ君。昨日の口上は大層格好良かったそうね♪」
「口上……?」
王妃の言っていることがわからず、ライヤは首をかしげる。
「もう、照れちゃって。アンのことが一番大事だって見得を切ったって聞いたわよ!」
「!?」
その話をしたのは昨晩も夜遅くの事。
エリアルがわざわざ報告に行くとも思えないし、アンとヨルはその時から部屋を出ていない。
どうやってそのことを知ったというのだ……。
「私もその場に居合わせたかったわー」
「ライヤってばすっごく格好良かったのよ!」
「えぇ、メイドから聞いた話だけでもわかるわ。孫の顔を見れるときも遠くないわねー」
メイドという単語に反応し、後ろを振り向くライヤ。
ライヤの視線に気づいたアンお付きのメイドがどや顔をする。
「いい仕事をしました!」という顔。
あのメイドとは後で話をつける必要がありそうだ。
「……まぁ、その程度のこと言えないようならこの場にも来てませんよ」
「乗り気じゃなかったって聞いたけど?」
「そりゃ、この場に王女と一緒に現れたなんてまた反感を買うだけですから」
「でも、来たのね」
「そりゃ、望まれましたから」
「窓から逃げようとしてたじゃない」
「ナンノコトカナ」
「カタコトになってるじゃない」
横からの圧の視線が凄い。
「まぁまぁ、アン。ライヤ君は一般人なのよ? こんな場に引っ張り出されたらそれは逃げ出したくもなるわ」
「お母様はライヤを一般人と思っているので?」
「……それは違うわねぇ」
「なら問題ないでしょう」
論理が飛躍しすぎだろう。
「この場はただの新年のあいさつの場だ。よって、これは独り言である」
和気あいあいとしたムードは王様が話しだしたことによって引き締まる。
「王国は今年中、遅くても来年には戦争状態に入るだろう。アンにはまたかなりの負担をかけることにもなるだろう。その時にアンを支えてくれるものがいれば、嬉しいと思う」
その独り言に、ライヤは大きく首を垂れる。
必ず。
言葉にせずともその意思は確かに王へと届いていた。
「……また会ったな」
「お恥ずかしい限りで……」
挨拶の順番にして4番後。
ライヤの姿がまた玉座の間にあった。
「お父様、お母様。新年あけましておめでとうございます」
「えぇ、ウィルも明けましておめでとう。でも、隣の……」
「先生ですから♪ 一緒に来ていただきました」
「そうなの……」
流石の王妃も困惑している。
遡ること1時間半ほど前。
「じゃあ、俺帰って寝るから」
「えぇ、なんで眠れてないのかわからないけど、睡眠不足はきついから、ゆっくり寝なさいよ」
お前のせいだよ、とはとても言えない。
「じゃあ、行くか」
「はい」
外でヨルの名前を呼ぶことは無い。
「あら、先生と……」
「ウィル?」
丁度挨拶のための準備に来たのだろう。
ウィルが待機部屋に入っていくところだった。
勘が良いウィルはその場をパッと見て状況を察したのだろう。
トトっと歩いてきて、ライヤを摑まえる。
「先生、私と一緒に挨拶に行きましょう?」
「いや、俺今から帰って寝るところで……」
「少しくらいダメですか……?」
「うっ……」
ウルウルと見上げてくるウィル。
「ウィル、ライヤに迷惑でしょう」
「アン姉さま。迷惑かどうかは先生が決めることです。それに、先生が寝不足なのはアン姉さまが原因では?」
「さぁ、どうかしらね」
バチバチと廊下で行われる王女2人の姉妹喧嘩。
「さぁ、その腕を離しなさい」
「嫌ですー!」
「わかったわかった、挨拶だけなら行くから……」
そろそろ有力貴族たちから順に順番待ちを始めるだろう。
こんな王女同士が喧嘩しているところなど見られていいはずがない。
事情はどうあれ、これにかこつけて勢力構築を目論むに違いない。
他の時期ならまだしも、これから他国と戦争が控えている時期にすることじゃない。
「苦労をかけているな……」
「まぁ、この程度なら……」
先ほどよりも目つきがまた悪くなったライヤに王様も同情を禁じ得ない。
「ウィル、お前のことだから先生に迷惑をかけていることは少ないだろう。勉学も熱心に取り組んでいると聞く。学園にも慣れただろう。これから成長することを願っている」
「もったいないお言葉です」
「……これもまた独り言なのだが」
「……」
「ウィルは周りに遠慮しすぎる。それもまたこの子の良いところなのだが、損をしているところもある。その辺りに気が付く者が近くにいてくれればと思う」
再び深く、首を垂れるライヤ。
この場に来たことで王の独り言を聞いてしまうという重責を背負った気もする。
0
あなたにおすすめの小説
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる