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春休み
宣戦布告
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「アン王女」
「何かしら?」
「2番隊がこちらに近づいてきます」
「何なら一番遠くなかったかしら」
「そう記憶しております」
王都を発って数十分後。
先に出発したはずのカムイ率いる2番隊が1番隊を待ち受けていた。
「カムイが私たちを待つ心当たりはある?」
「いえ、何も」
アンはクソでかため息を一つ。
「何かやらかすにしろ、こんな王都に近いところではやらないでしょ。ライヤ、聞いてきて頂戴」
「やだよ。俺があいつ苦手なの知ってるだろ」
「……」
ニコニコと有無を言わさぬ笑みを浮かべるアン。
アンとてライヤがカムイを得意としていないのは知っているが、そんなことよりも自分が話したくないといった様子。
「それで、何の御用でしょう」
「俺はアン姉さまと話しに来たんだが?」
長い髪をかき上げ、全くライヤを相手にしないカムイに頬を引きつらせながらも、話を続ける。
「そのアンからは俺が話を聞いてくるように言われてるんだが?」
「ふん、不遜なことだ」
いきなり口調が砕けたライヤにカムイの周りの者は仰天する。
何より、カムイが何も言わないことに対して。
平民が舐めた態度をとっているのだ。
普段なら問答無用で処罰すると言っても不思議ではない。
だが、実は2人の間では格付けが完了している。
ライヤが8年生、カムイが7年生の時。
つまり去年のことになるが、王城に不本意ながら出入りしていたライヤにカムイが決闘を挑んだという事があった。
当時は既に決着がついていたとはいえ、平民ごときが戦争で結果を残したというのが信じられない。
本音では気に食わない、というのが発端であった。
遂に王族で2人目と事を構えることになったライヤだが、その時はアンを挟み、正面から格付けを済ませたのだ。
そこでライヤには身分関係なく先輩としての態度をとることを許されている。
「要件は単純だ。一つ勝負をしないかと思ってな」
「勝負?」
「あぁ、簡単だ。この戦争でどちらの部隊がより活躍できるかというものだな」
「一番難しいだろ。その判定は誰がするんだよ」
「判定が難しいほどの差ならば同等としよう。だが、明らかに差が生まれる場合があるだろう? その時のことを言っているのだ」
「なるほど。じゃあ、何のためにやるんだ?」
「馬鹿かお前は。どちらが次期国王に相応しいか示すために決まっているだろう」
「馬鹿はお前だ。そんなことしなくともアンはもうほとんど放棄しているだろ」
「それでもアン姉さまの戴冠を望む声があることはお前も承知しているだろう」
実際そんな声があるのはライヤも知っている。
だが、言っている本人たちですら本気にしていないほどに荒唐無稽な話だ。
アンの奔放さは国民の知るところなのだから。
「確かに伝えたからな」
言いたいことだけ言ってカムイは去っていった。
「そうやって他人と比べることしかできないからお前は馬鹿だって言ってるんだよ」
「そ、カムイの考えそうなことね」
概要をアンに伝える。
「それで、なんて答えたの?」
「答える間もなく帰っていったよ」
「なら、なんて答えるつもりだったの?」
「『自分の都合で国民の命を賭けのために使う奴が国王になれるはずがないだろ馬鹿が』って……」
「言わなくて良かったわ……」
珍しくライヤが暴走気味で、アンが止める側である。
「ライヤがそこまで嫌うなんて本当に珍しいわよね」
「自慢じゃないが、この人生で嫌いな人間はあいつくらいだ」
「本当に自慢にならないわ」
ライヤがこっちの世界にきてから感じたのは努力の大切さ。
日本にいた頃は惰性で生きていた人間は数多くいた。
最低限の事さえしていれば国が保証してくれていたのだ。
だが、こちらは違う。
多くの人間が1日1日を全力で過ごし、努力を怠っていない。
ライヤの感覚に合った世界だと言えた。
そしてそんな世界だからこそ、生まれ持った立ち位置に胡坐をかいて他人にしか理由を求めないカムイには良い印象を抱けなかったのだ。
女癖が悪いというのがとどめである。
「それで、どうするのよ」
「どうするって?」
「受けるの?」
「受けるも何も、もう返答できないし。勝手に向こうがなんかやるんだろ。こっちはこっちでやるべきことをやるだけだ」
「ライヤさんって怖いところもあるんですね……」
話が落ち着いたところでヨルが言う。
「普段のやる気ない様子しか知りませんでしたから、少し驚きました」
「私もライヤが本気で怒っているところは一度しか見たことないけど、怖いわよー」
言うまでもなく、カムイと戦った時である。
「あの時のライヤは凄かったわよ。あのカムイが何もさせてもらえなかったから」
当時、既に実戦を経験しているライヤとカムイの差はそれほどまでだった。
既に7年生でS級であるカムイには流石のライヤも苦戦するとアンも思っていたのだが。
「初見殺しの技を何重にも嵌めて叩き潰したものね」
それ以降、流石のカムイも表立ってライヤに逆らえなくなったのは当然の運びであった。
「何かしら?」
「2番隊がこちらに近づいてきます」
「何なら一番遠くなかったかしら」
「そう記憶しております」
王都を発って数十分後。
先に出発したはずのカムイ率いる2番隊が1番隊を待ち受けていた。
「カムイが私たちを待つ心当たりはある?」
「いえ、何も」
アンはクソでかため息を一つ。
「何かやらかすにしろ、こんな王都に近いところではやらないでしょ。ライヤ、聞いてきて頂戴」
「やだよ。俺があいつ苦手なの知ってるだろ」
「……」
ニコニコと有無を言わさぬ笑みを浮かべるアン。
アンとてライヤがカムイを得意としていないのは知っているが、そんなことよりも自分が話したくないといった様子。
「それで、何の御用でしょう」
「俺はアン姉さまと話しに来たんだが?」
長い髪をかき上げ、全くライヤを相手にしないカムイに頬を引きつらせながらも、話を続ける。
「そのアンからは俺が話を聞いてくるように言われてるんだが?」
「ふん、不遜なことだ」
いきなり口調が砕けたライヤにカムイの周りの者は仰天する。
何より、カムイが何も言わないことに対して。
平民が舐めた態度をとっているのだ。
普段なら問答無用で処罰すると言っても不思議ではない。
だが、実は2人の間では格付けが完了している。
ライヤが8年生、カムイが7年生の時。
つまり去年のことになるが、王城に不本意ながら出入りしていたライヤにカムイが決闘を挑んだという事があった。
当時は既に決着がついていたとはいえ、平民ごときが戦争で結果を残したというのが信じられない。
本音では気に食わない、というのが発端であった。
遂に王族で2人目と事を構えることになったライヤだが、その時はアンを挟み、正面から格付けを済ませたのだ。
そこでライヤには身分関係なく先輩としての態度をとることを許されている。
「要件は単純だ。一つ勝負をしないかと思ってな」
「勝負?」
「あぁ、簡単だ。この戦争でどちらの部隊がより活躍できるかというものだな」
「一番難しいだろ。その判定は誰がするんだよ」
「判定が難しいほどの差ならば同等としよう。だが、明らかに差が生まれる場合があるだろう? その時のことを言っているのだ」
「なるほど。じゃあ、何のためにやるんだ?」
「馬鹿かお前は。どちらが次期国王に相応しいか示すために決まっているだろう」
「馬鹿はお前だ。そんなことしなくともアンはもうほとんど放棄しているだろ」
「それでもアン姉さまの戴冠を望む声があることはお前も承知しているだろう」
実際そんな声があるのはライヤも知っている。
だが、言っている本人たちですら本気にしていないほどに荒唐無稽な話だ。
アンの奔放さは国民の知るところなのだから。
「確かに伝えたからな」
言いたいことだけ言ってカムイは去っていった。
「そうやって他人と比べることしかできないからお前は馬鹿だって言ってるんだよ」
「そ、カムイの考えそうなことね」
概要をアンに伝える。
「それで、なんて答えたの?」
「答える間もなく帰っていったよ」
「なら、なんて答えるつもりだったの?」
「『自分の都合で国民の命を賭けのために使う奴が国王になれるはずがないだろ馬鹿が』って……」
「言わなくて良かったわ……」
珍しくライヤが暴走気味で、アンが止める側である。
「ライヤがそこまで嫌うなんて本当に珍しいわよね」
「自慢じゃないが、この人生で嫌いな人間はあいつくらいだ」
「本当に自慢にならないわ」
ライヤがこっちの世界にきてから感じたのは努力の大切さ。
日本にいた頃は惰性で生きていた人間は数多くいた。
最低限の事さえしていれば国が保証してくれていたのだ。
だが、こちらは違う。
多くの人間が1日1日を全力で過ごし、努力を怠っていない。
ライヤの感覚に合った世界だと言えた。
そしてそんな世界だからこそ、生まれ持った立ち位置に胡坐をかいて他人にしか理由を求めないカムイには良い印象を抱けなかったのだ。
女癖が悪いというのがとどめである。
「それで、どうするのよ」
「どうするって?」
「受けるの?」
「受けるも何も、もう返答できないし。勝手に向こうがなんかやるんだろ。こっちはこっちでやるべきことをやるだけだ」
「ライヤさんって怖いところもあるんですね……」
話が落ち着いたところでヨルが言う。
「普段のやる気ない様子しか知りませんでしたから、少し驚きました」
「私もライヤが本気で怒っているところは一度しか見たことないけど、怖いわよー」
言うまでもなく、カムイと戦った時である。
「あの時のライヤは凄かったわよ。あのカムイが何もさせてもらえなかったから」
当時、既に実戦を経験しているライヤとカムイの差はそれほどまでだった。
既に7年生でS級であるカムイには流石のライヤも苦戦するとアンも思っていたのだが。
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