36 / 85
誘惑
しおりを挟む
※ゼロ視点※
エルとデートしたその日の夜、エルのあどけない寝姿を見つめて前髪に触れた。
軽く口付けを落として聞こえるか聞こえないか小さな声で「行ってきます」と囁き、寝室を後にした。
今日はヤマトと夜の見回りをする事になっていた。
人通りの多いところは新人騎士が担当して、危険な人通りが少ない場所は俺達上級魔法使いが担当する事にしている。
いくら騎士とはいえ何でもやらせるわけにはいかない、自分の力でどうにか出来るものだけをやらせている。
命に関わる事だし、中には魔法使いに立ち向かえない人間もいる。
騎士が魔法使いか人間かを判断するのは難しいだろう、見た目は普通の人達と何も変わらない。
だから犯罪を犯している魔法使いに会ったらまず、人間の騎士だと思われないやり方を教えている…使い魔ペットの魔法を使ってカモフラージュとかな。
それをする事で相手は魔法使いだと思い込み警戒して攻撃してこないだろう。
人間だと分かれば武器を持たない無防備同然だから、相手が魔法使いならとても危険だ。
その間に魔導通信機で俺達に応援を頼んで駆けつける。
人通りが多いなら他の誰かが通報する可能性もあるからスムーズに捕まえられる。
それに人が多いところでやる犯罪者は小物が多い、なんせ捕まえてくださいと言っているようなアホが多いからな。
逆に人が滅多に来ない路地裏とかは殺人や密売などにはちょうどいい場所だ。
そんなところにいる奴は使い魔ペットの脅しなんて全く効かないだろう。
必ずと言っていいほど襲ってくるだろう。
だからそんな場所は俺やヤマトや他の上級魔法使い達が担当している。
表の酒屋がある広場は人の笑い声や灯りが周りを照らしている。
しかし裏に入ると灯りは届かず薄暗くて、声もあまり届かなくなる。
寂れた裏路地を、リアカが発明したという光魔法を閉じ込めた丸いボールを手に持ち辺りを明るく照らした。
カツカツと足音を響かせながら歩いていると、後ろから不満げな声が聞こえた。
「いてて、本気で殴る事ないじゃんかぁ」
「…うるさい、お前が俺がいない間にエルに妙な事してるからだ」
「妙な事って、ただお話しただけじゃん!嫉妬深い男は嫌われちゃうよ?」
「………もう一発その自慢の顔にめり込ませてやろうか」
「うそうそごめんって!今度酒奢るからさ!」
「それより二度とエルに近付くな」
「うーん、それは無理!」
足を止めて、後ろを振り返るついでに拳を前に突き出した。
俺が殴ってくるのを予想していたからか軽く避けられて眉を寄せる。
エルは優しいから嫌でもコイツにも優しく接するから俺が代わりに殴り飛ばしていた。
今のは脅しに近い行為だったから本気で殴ろうとはしていない。
リアカはエルは好みではないからまぁいい、しかしヤマトの好みはさっぱり分からない。
今までもこれからもヤマトの好みなんてこれっぽっちも気にならないが、エルの周りをうろうろされるのは気に入らない。
何しているのかは分からないが、絶対に良からぬ事だと確信しているから見回りの前に話し合いという名の拳をぶつけた。
これはエルに近付いたらどうなるか思い知らせただけだ。
殴られるだけマシだと思え、エルを泣かせたらいくら副騎士団長とはいえ殺してる。
俺はエルが絡むと鬼にも仏にもなる自信がある。
…それほどエルを愛しているんだ。
ヤマトは全然反省していない様子だった…反省していたら俺を煽る事は言わないだろう。
ヘラヘラと笑うヤマトに向かってもう一度拳を振り上げようとしたら、静かだった裏路地に突然悲鳴が響き渡った。
俺達はすぐに声の聞こえた方向に走ると、そこにいたのは尻餅を付いて壁に追い込まれている男と黒いローブを深く頭に被っている人物だった。
「た、助けてくれ…ほんの出来心なんだ…俺は悪くない!」
「……」
「つ、罪をちゃんと償うから命だけはっ…」
必死な様子で男が黒いローブの人物に話しかけているが、黒いローブの人物は全く聞く耳を持たずに一歩一歩ゆっくりと近付いて追い込んでいく。
手を男に向かって向けていて、魔力が流れる波動を感じて黒いローブの人物が魔法を使う前に俺が先に黒いローブの人物の腕に触れた。
触れた部分からはパキパキと徐々に凍っていき、身動きが取れなくする。
やっと俺達に気付いた二人は、俺と後ろにいるヤマトを交互に見ていた。
男は俺達の服装を見て騎士団だと気付いて慌てて逃げようと立ち上がろうとした。
「はっ、離せっ!!」
「はいはい、まずはさっき吐いた罪について聞いてから判断するよ」
逃がさないとヤマトがすぐに男の後ろに回り込んで、指先から小さな電流を首筋に流して気絶させた。
男を支えるヤマトを見て、俺も黒いローブの人物を拘束しようと手を動かす。
まだ何もしていないとはいえなにかしてからだと遅すぎる、この男との関係を聞く必要がある。
さっきは明らかな殺意を感じた、簡単に野放しにするわけにはいかない。
そう思って凍らせた腕を後ろに引っ張ると、黒いローブの底にある顔と目が合った。
まだ幼い顔立ちの少年、エルと同じくらいの年齢だろうが…その瞳はボーッとしていて光を感じない不気味さがあった。
「お前、あの男とどういう関係だ?答えろ」
「我らはレギ様の名のもとに存在している、傀儡」
俺の質問の答えになっていない、傀儡?どういう意味だ。
それにレギとは誰だ?コイツはそのレギというヤツに命令されてやっているのか?
ヤマトがなにか言っている声が聞こえたが遠くから聞こえているから俺には届かない。
さっきまで近くにいたのに不思議だと感じたが、この少年から目が離せなくなっていた。
生気のない瞳に俺を映して、ニヤリと笑っていた。
なんだ、その顔は…そんな顔で俺を見るな。
「貴方は何故そちら側にいるんですか?貴方はこちら側にいるべきだ」
「…な、に」
「その力は我ら義賊集団に相応しい」
ひんやりした手が俺の手に重なる、まだ拘束していなかった方の手だろう。
不愉快だと頭では分かっているのに自分の体ではなくなったかのように体が動かなくなる。
義賊集団…コイツがその一味なら捕まえなくてはならない。
なのに何故俺はこの男に好き勝手体を触らせているんだ?
頬に冷たい手の感触が這っている。
俺は義賊に入るべきだとまるで洗脳のように何度も繰り返している。
……確かに俺は義賊に対して共感する部分があって、義賊が悪いものだと思っていない。
でも、義賊なんかに入ったらエルを危険な道に引き込む事になる。
ダメだ、俺は…
男は俺から手を離してゆっくりと瞳を閉じた。
ドサッと体が地面に倒れる音を聞いて、さっきまで動かなかった体が自由になった。
「何ボーッとしてんの?大丈夫?」
「……あ、あぁ」
手のひらに電気をまとったヤマトが倒れた男を拘束具で縛り上げる。
俺は自分の手のひらを見つめて、男を運ぶため手を伸ばした。
前にも感じた苦しい感覚はとても危ないものだと冷や汗を掻いた。
あの時はエルがいたからすぐに元に戻れたが、今もまだ少し苦しい感覚を覚えている。
俺の闇の力が俺の意思関係なく引き出されたように感じた。
この義賊達はただ魔法使いに恨みを持ち断罪しているだけなのではないのか?
いったいコイツらは何者で何を目的としているんだ?
手のひらを見ると、氷の魔法を使っていたのに黒い煙が現れていた。
手を握るとその煙はすぐに消えてなくなった。
ヤマトが止めなければきっと俺はまた呑まれていたかもしれない。
あの日以来、こんな事はなかったのに…いったいなにが起きてるんだ?
俺を見つめるヤマトの視線に気付かず、城の中で話を聞くために二人を運んだ。
エルとデートしたその日の夜、エルのあどけない寝姿を見つめて前髪に触れた。
軽く口付けを落として聞こえるか聞こえないか小さな声で「行ってきます」と囁き、寝室を後にした。
今日はヤマトと夜の見回りをする事になっていた。
人通りの多いところは新人騎士が担当して、危険な人通りが少ない場所は俺達上級魔法使いが担当する事にしている。
いくら騎士とはいえ何でもやらせるわけにはいかない、自分の力でどうにか出来るものだけをやらせている。
命に関わる事だし、中には魔法使いに立ち向かえない人間もいる。
騎士が魔法使いか人間かを判断するのは難しいだろう、見た目は普通の人達と何も変わらない。
だから犯罪を犯している魔法使いに会ったらまず、人間の騎士だと思われないやり方を教えている…使い魔ペットの魔法を使ってカモフラージュとかな。
それをする事で相手は魔法使いだと思い込み警戒して攻撃してこないだろう。
人間だと分かれば武器を持たない無防備同然だから、相手が魔法使いならとても危険だ。
その間に魔導通信機で俺達に応援を頼んで駆けつける。
人通りが多いなら他の誰かが通報する可能性もあるからスムーズに捕まえられる。
それに人が多いところでやる犯罪者は小物が多い、なんせ捕まえてくださいと言っているようなアホが多いからな。
逆に人が滅多に来ない路地裏とかは殺人や密売などにはちょうどいい場所だ。
そんなところにいる奴は使い魔ペットの脅しなんて全く効かないだろう。
必ずと言っていいほど襲ってくるだろう。
だからそんな場所は俺やヤマトや他の上級魔法使い達が担当している。
表の酒屋がある広場は人の笑い声や灯りが周りを照らしている。
しかし裏に入ると灯りは届かず薄暗くて、声もあまり届かなくなる。
寂れた裏路地を、リアカが発明したという光魔法を閉じ込めた丸いボールを手に持ち辺りを明るく照らした。
カツカツと足音を響かせながら歩いていると、後ろから不満げな声が聞こえた。
「いてて、本気で殴る事ないじゃんかぁ」
「…うるさい、お前が俺がいない間にエルに妙な事してるからだ」
「妙な事って、ただお話しただけじゃん!嫉妬深い男は嫌われちゃうよ?」
「………もう一発その自慢の顔にめり込ませてやろうか」
「うそうそごめんって!今度酒奢るからさ!」
「それより二度とエルに近付くな」
「うーん、それは無理!」
足を止めて、後ろを振り返るついでに拳を前に突き出した。
俺が殴ってくるのを予想していたからか軽く避けられて眉を寄せる。
エルは優しいから嫌でもコイツにも優しく接するから俺が代わりに殴り飛ばしていた。
今のは脅しに近い行為だったから本気で殴ろうとはしていない。
リアカはエルは好みではないからまぁいい、しかしヤマトの好みはさっぱり分からない。
今までもこれからもヤマトの好みなんてこれっぽっちも気にならないが、エルの周りをうろうろされるのは気に入らない。
何しているのかは分からないが、絶対に良からぬ事だと確信しているから見回りの前に話し合いという名の拳をぶつけた。
これはエルに近付いたらどうなるか思い知らせただけだ。
殴られるだけマシだと思え、エルを泣かせたらいくら副騎士団長とはいえ殺してる。
俺はエルが絡むと鬼にも仏にもなる自信がある。
…それほどエルを愛しているんだ。
ヤマトは全然反省していない様子だった…反省していたら俺を煽る事は言わないだろう。
ヘラヘラと笑うヤマトに向かってもう一度拳を振り上げようとしたら、静かだった裏路地に突然悲鳴が響き渡った。
俺達はすぐに声の聞こえた方向に走ると、そこにいたのは尻餅を付いて壁に追い込まれている男と黒いローブを深く頭に被っている人物だった。
「た、助けてくれ…ほんの出来心なんだ…俺は悪くない!」
「……」
「つ、罪をちゃんと償うから命だけはっ…」
必死な様子で男が黒いローブの人物に話しかけているが、黒いローブの人物は全く聞く耳を持たずに一歩一歩ゆっくりと近付いて追い込んでいく。
手を男に向かって向けていて、魔力が流れる波動を感じて黒いローブの人物が魔法を使う前に俺が先に黒いローブの人物の腕に触れた。
触れた部分からはパキパキと徐々に凍っていき、身動きが取れなくする。
やっと俺達に気付いた二人は、俺と後ろにいるヤマトを交互に見ていた。
男は俺達の服装を見て騎士団だと気付いて慌てて逃げようと立ち上がろうとした。
「はっ、離せっ!!」
「はいはい、まずはさっき吐いた罪について聞いてから判断するよ」
逃がさないとヤマトがすぐに男の後ろに回り込んで、指先から小さな電流を首筋に流して気絶させた。
男を支えるヤマトを見て、俺も黒いローブの人物を拘束しようと手を動かす。
まだ何もしていないとはいえなにかしてからだと遅すぎる、この男との関係を聞く必要がある。
さっきは明らかな殺意を感じた、簡単に野放しにするわけにはいかない。
そう思って凍らせた腕を後ろに引っ張ると、黒いローブの底にある顔と目が合った。
まだ幼い顔立ちの少年、エルと同じくらいの年齢だろうが…その瞳はボーッとしていて光を感じない不気味さがあった。
「お前、あの男とどういう関係だ?答えろ」
「我らはレギ様の名のもとに存在している、傀儡」
俺の質問の答えになっていない、傀儡?どういう意味だ。
それにレギとは誰だ?コイツはそのレギというヤツに命令されてやっているのか?
ヤマトがなにか言っている声が聞こえたが遠くから聞こえているから俺には届かない。
さっきまで近くにいたのに不思議だと感じたが、この少年から目が離せなくなっていた。
生気のない瞳に俺を映して、ニヤリと笑っていた。
なんだ、その顔は…そんな顔で俺を見るな。
「貴方は何故そちら側にいるんですか?貴方はこちら側にいるべきだ」
「…な、に」
「その力は我ら義賊集団に相応しい」
ひんやりした手が俺の手に重なる、まだ拘束していなかった方の手だろう。
不愉快だと頭では分かっているのに自分の体ではなくなったかのように体が動かなくなる。
義賊集団…コイツがその一味なら捕まえなくてはならない。
なのに何故俺はこの男に好き勝手体を触らせているんだ?
頬に冷たい手の感触が這っている。
俺は義賊に入るべきだとまるで洗脳のように何度も繰り返している。
……確かに俺は義賊に対して共感する部分があって、義賊が悪いものだと思っていない。
でも、義賊なんかに入ったらエルを危険な道に引き込む事になる。
ダメだ、俺は…
男は俺から手を離してゆっくりと瞳を閉じた。
ドサッと体が地面に倒れる音を聞いて、さっきまで動かなかった体が自由になった。
「何ボーッとしてんの?大丈夫?」
「……あ、あぁ」
手のひらに電気をまとったヤマトが倒れた男を拘束具で縛り上げる。
俺は自分の手のひらを見つめて、男を運ぶため手を伸ばした。
前にも感じた苦しい感覚はとても危ないものだと冷や汗を掻いた。
あの時はエルがいたからすぐに元に戻れたが、今もまだ少し苦しい感覚を覚えている。
俺の闇の力が俺の意思関係なく引き出されたように感じた。
この義賊達はただ魔法使いに恨みを持ち断罪しているだけなのではないのか?
いったいコイツらは何者で何を目的としているんだ?
手のひらを見ると、氷の魔法を使っていたのに黒い煙が現れていた。
手を握るとその煙はすぐに消えてなくなった。
ヤマトが止めなければきっと俺はまた呑まれていたかもしれない。
あの日以来、こんな事はなかったのに…いったいなにが起きてるんだ?
俺を見つめるヤマトの視線に気付かず、城の中で話を聞くために二人を運んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,661
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる