猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの

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「はぁ…」

意気消沈気味にドアをそっと開けると、そこにはエールが立っていた。顔には沢山泣いたのてあろう。涙が乾いた痕跡が出来ていた。何か声を掛けないと…そう思うのに喉が張り付いて声が上手く出せない。

「おかえり…」

獣人の俺でなければ聞き取れなかっただろう。消え入りそうな声だった。やってしまった…。エールはどんな気持ちでひとりぼっちで家で待っていたのだろう。俺が帰ってこないと思ったかもしれない。不安で押しつぶされそうだったに違いない。心臓を鷲掴みにされる思いだ。いてもたってもいられなくて小さな身体を力強く抱き締めた。

「ごめんな…。俺、何があっても絶対に…!!絶対にエールの傍に居るから!!」

後妻候補がなんだって言うんだよ!!俺が猫パンチかましてやるよ!!可愛いエールは俺が守る!!


季節は過ぎ、鮮やかだった木々の葉は、寒い冬を迎え散り落ち、木々はホウキのようトゲトゲしくなった。朝も凍えるほど寒い…。暖かい布団から抜け出すことは出来ず、俺と同じく寒いのが苦手なのか、寝ぼけて擦り寄ってくるエールで暖をとり、二度寝に突入するのが日課だ。

冬の森では食べる物がほとんどない。では、どうやって食料を確保しているのか?それはだ…エールの父親であるデュオが定期的に持って来てくれるからだ。お金持ちそうだし、わざわざこんな森の中まで自分で持ってこなくても人を寄越せばいいだろうと思い、断ろうとしたが、やっぱり止めた。


自分の子供を心配しない親は居ないからなー。離れている分少しでも時間が作れたら逢いに来ている。あまりにも頻繁に会いに来るもんだから、そろそろ連れて帰るか?と聞けば、そうじゃないと。まだ無理なんだと、濁した返事しか貰えない。何に手間取ってんだよ!!忙しいとか言う割には差し入れに来るし…猫の手が借りたい程忙しいなら俺が手伝ってやるよ!!そのまま伝えれば、嬉しいよと手を握られた。この人何かスキンシップが多いんだよな…。話す距離も近いし…。もしかして…パーソナルスペース狭いのかな。なら無意識か…まっ、しょーがないな!!


そんなこんなで日々はあっという間に過ぎていく。丸坊主の木々からは新芽が芽生え、太陽の日差しも日に日に強くなっていく。春の到来だ。


外に出てゆっくりと大きく深呼吸をし、気持ちを整える。はぁー今日もいい天気だ。こんな日は何かワクワクして新しい出会いがありそうな予感に心が躍るのだが今日は違う。春は別れの季節でもあるのだ。この日がきてしまった。ついにデュオがエールを迎えに来る日が。


この世界に来て出来た初めての友達。一生会えなくなるわけではないけど、少しの期間とはいえ、一緒に暮らしていたんだ。おひとり様生活が上級者の俺でも、寂しくないと言えば嘘になる。エールに出会った泉の淵に腰を降ろす。ぼーっと水面を見つめ、色々な事を思い出し切なくなった。久しぶりに自分のしっぽを抱きしめてみた。小さい頃は、寂しいと自分のしっぽを抱えたもんだ。懐かしい。


遠くの方で草を踏み倒す複数の足音が聞こえてきた。ついに来たか。重い腰を上げてまだ寝ているだろうエールの元に戻った。



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