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しおりを挟む本日は休息日なり。つまり週に2日あるお勉強がない日なのです。週5で勉強とか詰め込みすぎだろ。いや、当たり前なのか。週休3日で仕事した方が効率がいいって話も聞いた事あるし、今度ヘラと交渉してみようかな?
手元にある小説のページをパラパラ捲っていると、読んでいる本がもう終わりに近い事に気付いた。そうだ!!ガイの部屋を訪ねてみよう!!ヘラに今からガイの部屋を訪ねることは可能かと聞くと、少し待っていて下さいと部屋を出て行った。
思いのほか早く戻ってきたヘラに、ガイはお昼以降は予定が空いている事を教えて貰った。やったね。今日はガイに構ってもらおう!ついでに面白そうな小説も貸してもらおうかな。
昼食を終えガイの部屋に向かう途中、またもや嫌な奴に会ってしまった。キース侯爵…。こいつはゲームの中では殆ど出てこなかったが、会話では何度か登場した覚えがある。シオンと同じく完全獣人差別主義だ。
何故そんな幸薄なキャラを覚えているのか?それはこのキースがめちゃくちゃイケおじだから。整った目鼻立ちに清楚感ある身なり。引き締まった体型も良き。髪型もオールバックが似合いイケオジの魅力が増している。がこんなおじ様に攻められたらシオンになる前の俺ならばイチコロだろう。今はガイしか眼中にないけどね。目の保養、目の保養っと。
「これはこれは、シオン様ではございませんか」
人の良さそうな笑みを浮かべ距離を縮めてくるキース。キャー!!イケオジがすぐ側に…。ドキドキが止まらないよ。そう思ったのも一瞬で、俺のテンションはキースの発言により急降下する。
「シオン様とあろうお方が、そのような粗暴な者を従者に置くとは…なんとお可哀想な…。良ければ私がもっとあなたに相応しい者を紹介させていただきますよ」
胸に手を当て演技がかった仕草で嘆く。役者顔負けだな。俺に差し伸べられたキースの手に視線が動く。今までのシオンならばすぐにこの手を取ったであろう。俺も記憶喪失だとバレない為にはこの手を取るべきなんだ。でも可愛いヘラを手放したくないと心が叫んでいる!!
「いいんだよ。ストレス発散でも使えるし、でも、もし飽きたら君に紹介を頼もうかな?心配してくれてありがとう。君は優しいね」
ふわりと微笑むめば、勿体なきお言葉をと微笑み返しで去っていく。すれ違いざまヘラに対して軽蔑するような目線を送っていた。残された俺とヘラ。静寂に包まれた廊下。非常に気まづいです。
だってだってだよ?侯爵だし蔑ろに出来ないじゃないですか?貴族社会ってややこしいし、誰と繋がってるかわからないしさ…。バイト先だって人間関係には苦労したんだから貴族社会なんてもっとドロドロしてヤバイでしょ…。しかし、まぁ…ヘラに嫌な思いをさせた事は間違いない。チクチクと針で刺されたみたいに胸が痛む。
「ゴメン!!上手い返しが出来なくて…ヘラに嫌な思いさせた…本当にゴメンなさいッ!!」
頭を深く下げた姿勢で謝り倒す。ヘラは悲しんだかもしれない、心を傷付けてしまったかもしれない。以前の名前を聞いた時の顔が頭に浮かぶ。もうあんな辛そうなヘラの姿は見たくない。何も話さないヘラに、唇を噛み締め言葉を待ち続けた。暫くの沈黙の後、ヘラが口を開く。
「シオン様。簡単に頭を下げてはいけません。私が罰せられてしまいます」
「うぇっ!!謝ってるだけなのに罰せられちゃうの?!」
「もう少し王族の一員だと自覚して欲しいものです」
やれやれとポーズを取り、何事もなかったかのように歩き出したヘラに遅れを取らぬよう、急いで少し後ろに並んだ。怒ってないの?感情が悟られやすいしっぽをヘラは滅多な事では動かさない。だから感情を正確に汲み取ることが出来ない。ヘラの笑顔なんて指で数えれるぐらいしか見た事ないかも…。そう考えると今だって…本当は俺と一緒に居るのが嫌なもかもしれない…。
何故疑わなかったのだろう。ヘラとの距離が少しずつ広がり俺は完全に歩みを止めた。シオンが以前、言葉の暴力でヘラの心を抉るほど痛めつけていた事は何となく察していた。ガイの時にも思ったが、人の印象は中々変わらないものだ…。ヘラが無理してたら嫌だな。もしそうならば俺から解放してあげた方が良いのかな…。
「シオン様?」
俺の様子を不審に思ったヘラが近づいてくる。だらりと垂れたしっぽが目に入った。
「あのさ…もし…もしだよ…俺の従者が嫌なら…その、従者辞めてもいいよって言ったら…どうする?」
狡い質問だ。決定権を相手に委ねる。自分では怖くて決められないから。見つめていたヘラの足がゆっくりと距離を縮めると、ぽふっと頭の上に何かが乗った。
「ふぇ?」
「シオン様。私は貴方にお仕え出来る事を光栄に思います。毎日が充実してとても楽しいですよ。これからも貴方の為に尽くしたいと考えております。だからその様な顔をなさらないでください」
優しく微笑みながら、頭の上に乗せていた手を俺の頬に添え包み込んでくれた。俺の顔と同じくらいの大きさもある手に自分の手を添え眼を閉じる。そうか…何度逃げ出しても捕まえてくれるこの手。何処に逃げようと隠れようと必ず見つけ出してくれる。呆れたように、時には怒りながら。気付いていなかったのは俺だ。ちゃんと信頼関係が築けていたじゃないか。ゴメンなヘラ。ゴメン。そして、ありがとう。
「俺もヘラが良い。ヘラじゃないと嫌だ…」
小さな笑い声が聞こえ、勿体なきお言葉ですと頬をひとなでして目的地に歩き出した。今度は俺の手を繋いで…。まるで子供扱いだな。そう思いながらもふもふの手を握り返した。あぁ、こんな時でさえ美しい毛並みだとサワサワしてしまう俺は本当にダメな奴だ。
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