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しおりを挟む「三日だよ!!もう三日も来てないよ!!やっぱり何かあったんじゃ…」
机に項垂れシュロがブツブツとボヤいている。
「体調でも崩したんじゃないか?あいつは元気が取り柄の様だったが」
交換される事のないバスケットに目をやる。中身は空っぽのままだ。
「オーランドだって心配なくせに!!事ある毎にバスケット眺めちゃって!!早くルイちゃんの安否を確かめてきて!!俺、気になって仕事が手につかないよ」
「お前が仕事をサボるのは元からだ。しかし…」
一人で食堂を切り盛りしてると聞く、体調が悪いと何かと不便だろう。それに、バスケットがあると目に入り気になる。仕事に身が入らないのも確かだ…。はぁー。これも騎士団としての勤めだと内心言い訳をして席を立つ。
「ルイに返してくる」
ルイが営む食堂に行く道中、果物を買い、空のバスケットに入れる。体調が悪くても果物ぐらい食べられるだろう。段々と食堂が近づくにつれて、周りの店の店主や住民からの視線を感じるようになった。見られている…。確かにこの地区は俺の巡回地区ではないが…俺が来るのが珍しいのか?だが、目に入る住民は、不安、戸惑い、恐怖といった感情を纏っている。なんだ?何なんだ?居心地が悪く、少し足を早めた時、パン屋の店主に呼び止められた。
「あのッ!!すっ、すみません、オーランド様。もっもしや…ルイちゃんに御用ですか…?」
やけに黒目がうろうろと忙しなく動いている。やましい事でもあるのか?しかし、それなら何故俺に話しかけてくる…。
「あぁ。バスケットを返しに来た」
「あの…それなんですが…お預かりする様にルイちゃんから頼まれてまして…」
店主が申し訳なさそうに手を差し伸べでくる。疑問が頭の中に渦巻く。食堂までは目と鼻の先なのに何故だ?何故、店主がバスケットを引き受けるのだ?
「?ルイはそんなに体調が良くないのか?」
「いっ、いえ!良くないといいますか…なんといいますか…」
「どういう事だ?はっきり言え」
店主の煮え切らない態度に内心イラつき、つい早口で捲し立て、威圧してしまう。
「ひっ!いっ居ないんです!!ルイちゃんはもう…この街には居ないんです…」
居ない…?どういう事だ?目で次の言葉を急かす。
「連れて行かれちまって…」
店主の話はこうだ。ルイは狸の老夫婦から店を譲り受けた。しばらくすると、金貸しがやって来て、この店は借金がある、早く返済しろと迫った。到底信じられない、だが、借用書がある。後には貴族がついてると脅されれば、一般市民は従うしかない。莫大な借金に対しての無理な返済期限。そして、支払えない時は、ルイの体で金を返せと…。
「ルイちゃんは頑張ったんですがね…全然足りなくて…ぐっ…酷いやり方ですよ。代替わりした店を狙って嵌めるんです。ルイちゃんの前にも目をつけられた店がありましてね…奴隷落ちしたと聞きました…」
悔しそうな店主の言葉を最後まで聞くことなく、急いで騎士団の詰所に帰る。歩く速度は段々と早くなり、そして巨体を揺らし、息を切らすほど早く駆ける。
ドォン!!
扉が壊れても気にしない。それどころではない。心臓が激しく波打ち、上手く言葉が出てこない。
「はぁはぁ、シュロ…!!」
いつも通り、机に突っ伏し寝ているシュロに向かい必死に言葉を紡ぐ。
「シュロッ…。頼みが…頼みがある」
それから一週間後、シュロから一枚の紙を手渡された。
┈┈┈┈ 蜜月の館
馬車で3日程かかる街にある高級娼館の名だった。
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