2 / 14
二話
しおりを挟む
「知らない男とセックスしてくれっ!」
私――七瀬《ななせ》 佐奈《さな》は目の前で土下座をしている彼氏を見下ろす。
「えぇ…」
ベッドの上に座る私は困惑を隠せず、口から無意識に声が出る。
事の発端は、数十分前に遡《さかのぼ》る。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
高校一年の時から交際をしていた彼氏――草薙《くさなぎ》 誠《まこと》が真剣な口調で「大事な話がある」と電話があり、私は「結婚話かな?」と期待してマンションで待っていたら彼は数十分後に来た。
部屋に案内して「外、寒かったでしょー?今コーヒー出すねー」とキッチンに行こうとすると、「話したい事があるんだ」とベッドに座らせられる。
数回深呼吸している彼を「?」と首を傾げて見ていると急に土下座をして、
「知らない男とセックスしてくれっ!」
と言い放ち、額《ひたい》をカーペットに押し付けて頭を下げる。
結婚話だと思っていた佐奈にとって予想外の展開で動揺が隠せない。
何で?私が?知らない男と?セックス?
訳がわからない。
これは夢なのでは?と彼に気付かれないように自らの太ももをつねるが痛い。夢ではないようだ。
なんて言えばいいのか分からない佐奈は無言を貫く。
静寂した時間が続いていると、誠が頭を上げる。
「俺たちセックスしても上手くいかないよな?結局、俺の方が萎えてしまって」
確かに私たちは性行為をするのが上手くはない。どれが上手くて何が上手くないの線引きは分からないが、最後まで出来ない私たちは多分上手くない方だろう。
私はされるがままなので、私自身は別に何もしないので上手くもないし下手でもない。
どちらかと言うと彼氏の方に問題がある。
行為中の私は気持ちが昂《たかぶ》りイキそうな時、彼はいつもあと一歩の所で電池が切れるのだ。
そして切れた後は戻る事はなく、行為が自然消滅して終わるのだ。
でも何で私が知らない人とセックスをしなければならないのだ?
ここで私は口を開く。
「そ、それはそうだけど、何で私が知らない人とセックスしないといけないの?おかしいよ」
「さ、最後まで聞いてくれ、佐奈。お、俺、寝取りモノがす、好きなんだ。寝取りモノを見た時は最後まで実行する事が出来るんだ。だ、だから、佐奈が一回寝取れた後に、俺たち二人でセックスすれば最後まで出来る気がするんだ」
彼は彼なりに気にしていたんだ、と言うのが私の率直な感想だ。
だが、その解決方法はあまりにも酷く容認は出来ない手段だった。
「い、一回でいいんだ。頼む、佐奈」
彼氏がみっともなく私に土下座をする姿を見て、可哀想な気持ちになる。
他の人から見ても歪んでいるだろう。私から見ても歪んでいるのだから。
でも、そんな彼氏を私は愛おしくも思ってしまう。
気持ち八割は「いいよ」となっていたが、残り二割の不安と恐怖が邪魔をし、「考えさせて」と彼に告げる。
この後、楽しくコーヒーを飲み合うような空気にはなれそうにないので、彼には帰ってもらった。
玄関で彼を見送って扉を閉めた私は、冬で冷え切った無機質な扉に背中を押し当てる。
これは夢では?と再度、自分の頬を引っ張るが夢ではない事を改めて再確認した佐奈だった。
私――七瀬《ななせ》 佐奈《さな》は目の前で土下座をしている彼氏を見下ろす。
「えぇ…」
ベッドの上に座る私は困惑を隠せず、口から無意識に声が出る。
事の発端は、数十分前に遡《さかのぼ》る。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
高校一年の時から交際をしていた彼氏――草薙《くさなぎ》 誠《まこと》が真剣な口調で「大事な話がある」と電話があり、私は「結婚話かな?」と期待してマンションで待っていたら彼は数十分後に来た。
部屋に案内して「外、寒かったでしょー?今コーヒー出すねー」とキッチンに行こうとすると、「話したい事があるんだ」とベッドに座らせられる。
数回深呼吸している彼を「?」と首を傾げて見ていると急に土下座をして、
「知らない男とセックスしてくれっ!」
と言い放ち、額《ひたい》をカーペットに押し付けて頭を下げる。
結婚話だと思っていた佐奈にとって予想外の展開で動揺が隠せない。
何で?私が?知らない男と?セックス?
訳がわからない。
これは夢なのでは?と彼に気付かれないように自らの太ももをつねるが痛い。夢ではないようだ。
なんて言えばいいのか分からない佐奈は無言を貫く。
静寂した時間が続いていると、誠が頭を上げる。
「俺たちセックスしても上手くいかないよな?結局、俺の方が萎えてしまって」
確かに私たちは性行為をするのが上手くはない。どれが上手くて何が上手くないの線引きは分からないが、最後まで出来ない私たちは多分上手くない方だろう。
私はされるがままなので、私自身は別に何もしないので上手くもないし下手でもない。
どちらかと言うと彼氏の方に問題がある。
行為中の私は気持ちが昂《たかぶ》りイキそうな時、彼はいつもあと一歩の所で電池が切れるのだ。
そして切れた後は戻る事はなく、行為が自然消滅して終わるのだ。
でも何で私が知らない人とセックスをしなければならないのだ?
ここで私は口を開く。
「そ、それはそうだけど、何で私が知らない人とセックスしないといけないの?おかしいよ」
「さ、最後まで聞いてくれ、佐奈。お、俺、寝取りモノがす、好きなんだ。寝取りモノを見た時は最後まで実行する事が出来るんだ。だ、だから、佐奈が一回寝取れた後に、俺たち二人でセックスすれば最後まで出来る気がするんだ」
彼は彼なりに気にしていたんだ、と言うのが私の率直な感想だ。
だが、その解決方法はあまりにも酷く容認は出来ない手段だった。
「い、一回でいいんだ。頼む、佐奈」
彼氏がみっともなく私に土下座をする姿を見て、可哀想な気持ちになる。
他の人から見ても歪んでいるだろう。私から見ても歪んでいるのだから。
でも、そんな彼氏を私は愛おしくも思ってしまう。
気持ち八割は「いいよ」となっていたが、残り二割の不安と恐怖が邪魔をし、「考えさせて」と彼に告げる。
この後、楽しくコーヒーを飲み合うような空気にはなれそうにないので、彼には帰ってもらった。
玄関で彼を見送って扉を閉めた私は、冬で冷え切った無機質な扉に背中を押し当てる。
これは夢では?と再度、自分の頬を引っ張るが夢ではない事を改めて再確認した佐奈だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる