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第6話 【アラン側のお話】

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 僕はアラン・ドラン。
 16歳、男、冒険者をやっている。
 ただの荷物持ちだけど、一応は勇者パーティーの一員だ。
 というのも、幼馴染のジャスティスがその勇者なおかげなんだけど。

 で、僕は今、その勇者ジャスティスからついに追放を言い渡された。
 僕は追放されてしまったら、行くところなんかないのに……!
 それに、パーティーメンバーのユリシィは、僕にとってあこがれの女の子だ。
 だから絶対に、追放なんてされたくない。
 それなのに、僕をここで追放するだって……!?
 そんな、僕が今までどれだけ役に立ってきたと思っているんだ……!?

 そして、荷物を返すように言われている。
 おっかしいなぁ……ジャスティスのことだから、てっきりそんなこと忘れて、僕を追い出すと思っていたんだけど。
 なんだか今日のジャスティスはらしくないというか……まるで人が変わったみたいだった。

 いつもの調子なら、さっきの時点で「この糞野郎!」とかっていって、僕を攻撃してきたはずだ。
 ジャスティスはちょっとヤバいところがある奴だ。
 正直、勇者じゃなかったら危険人物って感じ。
 怒ると我を忘れるし、酒癖も悪い。
 それなのに――。

「じゃあ、そういうわけだからアラン。荷物を全部返してくれるか……?」

 ジャスティスは、僕にそう優しく言ってきた。
 とても信じられないことだ。
 あのジャスティスが、僕にそんな声で語り掛けるだなんて……。
 僕は、いやジャスティスは、頭でも打ったのだろうか……?
 これはなにか裏があるに違いないぞ……。

「え……? で、でも……」

 僕は恐怖し、うろたえる。
 そして、ジャスティスから身を庇うようにして、後ろに下がった。
 ここは強気にならないと、決してジャスティスにアイテムボックスを見せるわけにはいかない。
 なにをされるか、わかったもんじゃないんだから。
 そんな僕のようすを見て、

「いや、アランの分は残しておいていい。新しいパーティーを見つけるまでの生活費も必要だろうから、それも補償する。だから、せめて俺たちが預けているものは、返してくれ」

 ジャスティスはそう言った。
 絶対におかしい。
 あのジャスティスが、そんなまともなことを言うはずがない。
 僕のことなんて、バカにして、ゴミのように思っているくせに。
 こんなことは今までなら、あり得なかった。

「どうした? アラン、荷物を返してくれるだけでいいんだ」

 ジャスティスはさらに、優しい声色でそう言ってきた。
 不器用な笑顔と相まって、不気味すぎる……!
 こわいこわいこわい……!
 なんなんだ、コイツは……!

「う、嘘だッ!!! ジャスティス、君はそんなことを言って、また僕を騙す気なんだろう!?」
「は……? いや、そんなつもりはないが……」

 僕はもう、騙されないぞ……!
 今までも散々、ジャスティスには意地悪をされて来た。
 直接的になにかをしてくるわけじゃないのが、彼の巧妙なところだ。
 いつも、まるで僕のほうが悪いみたいに、周りを扇動する。
 生まれ持ったカリスマ性で、みんなを惑わすんだ。
 僕はそんなジャスティスのことが、心底嫌いで苦手だった。

 それでも、そんな彼だからこそ、幼馴染の僕が隣で見張っていないといけないと思っていた。
 まあ、僕のアイテムボックスの能力を買って、彼がどうしてもと言ったのも大きかったけど。
 そうだ、初めから、彼は僕のアイテムボックス目当てだった。
 もしかしたら、アイテムボックスを開いたが最後、僕の能力ごと奪われるかもしれない。
 ジャスティスのことだから、それくらいはしてきてもおかしくないはずだ。
 なにか特殊な罠を考えているに違いない。

「ジャスティス、君はそう言って、僕にアイテムボックスを開かせて、荷物を根こそぎ奪い取る気なんだろう!? 君の考えそうなことだ! それで、僕を一文無しで追放しようってことなんだろう……!? わかってるんだからな! その手にはのらない!」

 僕がそう強気にでると、ジャスティスは明らかに顔をしかめた。
 ほら、やっぱりだ、図星なんだ……!

「なあ、アラン。お願いだから落ち着いて聞いてくれよ。話し合おう?」

 ジャスティスはそう言って、詰め寄ってくる。
 こわい、こわい……!
 でも、逃げちゃダメだ。
 逃げちゃダメだ。
 逃げちゃダメだ!!!!

「ち、近づくな! 力づくで奪おうったって、そうはいかないぞ! 僕だって、やるときはやるんだ……!」
「えぇ…………?」

 もしかしたら、僕はここでジャスティスに殺されるかもしれない。
 でも、それでも立ち向かわなきゃいけない……!
 ここが僕にとっての、人生の分岐点だ!
 今まで怖かったけど、ここぞというときには、ちゃんと抵抗しなくっちゃ……!

「うおおおおおお! 僕は、負けないぞ! もう君のいいなりになんかならない!」

 僕はポケットから、ナイフを取り出した。
 ジャスティスには絶対に、敵わないけど、丸腰よりはましだ。
 僕は一切攻撃魔法なんか使えない。
 でも、ジャスティスは攻撃も防御も、世界トップクラスの実力だ。
 だけど、だからといって何もしないではいられないじゃないか……!
 僕だって、ドラン家の長男なんだから!

「いや、マジで落ち着けって……」

 ジャスティスは、ついに僕の肩に触れてきた。
 なにか、魔法で小細工をしようというのだろうか……!?
 いつもそうだ、他の仲間にバレないように、僕になにか術式や暗示を仕掛けてくる。
 そうやって、僕の評判をこっそり落とし、自分はいい人の振りをしている。
 それが、ジャスティス・ヘヴンという男だった。
 触られたら、終わる……!

「うわああああ! やめろやめろ! 僕を殺そうっていうのか!?」
「は……?」
「ジャスティス、君にはなにも渡さないぞ……!」
「いや、待て待て……暴れるな!」

 ジャスティスは暴れる僕を止めようと、さらに近づいてくる。
 ヤバい……!
 この目は本気だ……!
 今まで彼がこんな優しい目をしたことはない……!
 まるで、駄々っ子をあやす母の目だ。
 そうか、僕を殺すときくらいは、そういう目をするんだな。
 それで許されるとでも思っているのかコイツは……!
 そうだ、これは獣を屠殺するときのような、慈悲深い目だ。
 僕は、確実に殺される――!

 そう思ったとき、身体が勝手に動いていた。

「ジャスティス! 僕に触れるなああああああ!!!!」
「え…………?」

 ――グサ。

 なんと、僕の持っていたナイフが、ジャスティスの腹に刺さった。
 刺さってしまった。
 え……?
 なんで……?
 勇者ジャスティスは、常に魔力を身体にまとっているはずだ。
 だから、決して普通の刃は通らない。
 それなのに……どうして……!?
 僕は混乱して、パニックになる。

「え…………あ…………ジャスティス…………ちが…………僕は、そんなつもりじゃ…………」

 僕はたまらず、その場から逃げ出した。

「あ、ちょっと……! 待ちなさい!」

 マチルダが追いかけてくるけど、僕はあっという間に逃げ去る。
 追いかけても無駄なことは、マチルダもよく知っているだろう。
 僕は、荷物持ちとして戦場を生き残るために、逃げ足だけは誰よりも速かった。
 それだけが、僕につかえるスキルだと言ってもいい。
 戦闘は、からっきしだめなのだ……。

「くそ……! なんでだ……! やっちまった!」

 路地に逃げ込んだ僕は、汗まみれで泣いていた。
 手には、血が付いている。
 僕は……逮捕されるのだろうか……?

「は……! まさか……!」

 僕は、ある可能性に気づいてしまった。
 もしかして、ジャスティスが刺されたのは、わざとなんじゃないのか……!?
 そうだ、きっとそうに違いない。
 彼のことだ、これは巧妙に仕組まれた罠なんだ。
 だって、あのジャスティスがなにもなしに刺されるわけないじゃないか。

「はは……僕はまんまとしてやられたわけか……」

 これで、僕は殺人未遂と窃盗の犯人ってことになる。
 ジャスティスたちからだけでなく、社会からも責められるだろう。
 そう、賢いジャスティスは、僕を社会的に抹殺することに成功したのだ。
 自らは手をくだすことなく……。

「くそ……終わった……」

 ああ、僕も、なにか別の人生を歩めたらなぁ……。
 どこで間違ってしまったんだろうか。
 僕の人生にはヒロインもなく、特殊な才能もない。
 もしもこれが物語だったら、僕は登場人物Gってところだろう。
 そう、きっと主人公はジャスティスだ。
 賢くてみんなから愛される英雄ジャスティス。

「僕……なんのために生きてるんだ……」

 僕はその場に、座り込んでしまった。
 これから、どうしよう――。
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