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1巻
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しおりを挟む1 急成長したんですが……?
ある日の冒険者ギルドにて。
「無能付与術師アレン・ローウェン、貴様はこのパーティを追放だ」
そう言い放ったのは、剣士であるナメップ・ゴーマン。
僕の所属する冒険者パーティ、『月蝕の騎士団』のリーダーだ。
「一応、理由を聞いてもいいかな……?」
「はぁ? そんなことも言われなきゃわからねえのか? つくづく無能だな」
僕の問いに一度ため息をついて、ナメップは続けた。
「いいか、お前は成長が見られねえ。だから追放だ。俺たちは今や一流の冒険者にまで成長した。その中で雑魚なままなのはお前だけ。文句は言わせねえぜ?」
「そ、そんな……!」
確かにナメップの言う通り、僕はみんなに比べて弱いままだ。
だけどそれは、付与術師の性質上、仕方ないことでもある。
付与術師はその名の通り、味方を強化して戦わせるジョブだ。
自分で戦うわけじゃないから、どうしても自身の能力の成長は、遅くなってしまう。
「普通はさぁ、これだけ時間があればもっと成長してるはずでしょ? それなのにアレンはまったく……」
「くっ……エレーナまで……」
追い打ちをかけるように僕を罵ったのは、魔法使いのエレーナ・フォイルだ。
彼女の言う通り、僕はいまだに弱い付与術しか使えない。
おまけに魔力量も少ないままだから、付与をかける回数にもかなり制限がある。
「で、でも……! 僕は必死に成長しようと努力してきた……! だから……!」
「うるせえ! それだけ努力しても成長しねえから、無能なんだろうが!」
「う……」
「俺たちは何もしなくてもちゃんと強くなってるのによぅ! 言い訳すんじゃねえ、カス!」
僕はこれでも一応、みんなが休んでいる間にも修業をしていた。
確かに、才能の違いを感じてしまうことはあった。
でも、必死に努力しても、遊んでいる彼らに追いつけないなんて……
僕はあれだけ頑張っていたのに……本当、世の中は理不尽だ。
「それに、そもそもあなたみたいな素人同然の付与術師なんていらないんですよ」
「えぇ……!?」
僕の存在を真っ向から完全に否定してきたのは、賢者のマクロ・クロフォードという男だ。
「自分は戦わずに後ろで見ているだけなんて、卑怯者のすることですよ」
「そ、そんな……それが付与術師なのに……」
「あなたの微々たる強化を得たところで、我々にはなんの足しにもなりません」
「っく……」
みんな今まで言わなかっただけで、ずっとそう思ってきたんだな……
僕は悲しくて涙が出そうになる。
これでも一応、みんなとは長い付き合いだ。
みんな初心者から始めて、ともに成長してきた仲間だった。
その成長に、僕は置いていかれてしまったわけだけど……
「ということだ、アレン。もうお前の成長を待ってられないんだわ。おとなしく田舎に帰んな」
ナメップはそう言って、僕をドンと押した。
「うぅ……!」
僕はそれだけで吹き飛ばされ、倒れてしまう。
すごい力だ。
まるで何かに強化されているかのような……普通の人間はいくら鍛えても、ここまでの力は得られないだろう。
それだけナメップの才能と成長がすさまじいってことだ。
そりゃあ、僕の成長の遅さに嫌気がさすのも頷ける。
「オイオイ、ちょっと押しただけだぜ? それで倒れられてもなぁ。まったく、非力な男だぜ」
ナメップは倒れた僕を見て嘲笑った。
「さぁ、こんな雑魚はもう放っておいて、行きましょう? 私、お腹がすいたわ」
「お、そうだな」
エレーナはナメップの腕に手を絡ませた。
ああ……彼女も僕よりナメップのような強い男がいいんだ……
「それに、お前の代わりに、新しい付与術師も用意したからなぁ! 魔術師学校首席のエリート付与術師だ! お前のようなゴミの成長を待たなくても、元から優秀なやつを雇えばいいんだわ! しかもそいつは女だからなぁ! いろいろと使えるぜ!」
「っく……魔術師学校首席……!? そ、そんな人を……」
本当に悔しくて、情けない。
でも、僕はいくら努力しても成長できなかったんだから、仕方がない。
物語の世界とは違って、現実はこうも厳しいものなのか。
「くそ……! 僕も成長したい……! そしていつかみんなを見返してやりたい……!」
――こうして、僕はパーティを追放されてしまった。
だが、僕たちはとんでもない勘違いをしていたことに、後から気づくことになる。
まさか僕のしていた付与術こそが、彼らを成長させていただなんて――
――――――――――――――――――
名前 アレン・ローウェン
職業 付与術師
男 16歳
攻撃力 22
防御力 27
魔力 95
魔法耐性 77
敏捷 43
運 32
スキル一覧
・攻撃力強化(微)
・防御力強化(微)
・魔力強化(微)
・属性強化(微)
・耐性強化(微)
・魔法耐性強化(微)
・敏捷強化(微)
・運強化(微)
――――――――――――――――――
◇
「ん……あれ……?」
朝、チュンチュンという鳥の声と共に目覚めた僕は、誰もいないことに驚く。
「そっか……僕、追放されたのか……」
昨日はあれから、宿に帰って死んだように眠ってしまった。
さすがに仲間から嫌われるのは、精神的にもこたえる。
「なんで僕の強化はこんなに弱いんだ! くっそおおお!!」
僕は怒りに任せて壁を殴りつけた。
――ドン!
「いったぁ……!」
しかし、自分の手を痛めただけで、なにも起こらない。
今の僕は、それほど非力だった。
「悔しい……! よし、でも負けないぞ! もっと修業して、みんなを見返してやるんだ!」
その日から僕は、付与術の修業を始めた。
これまでにも強くなる努力は続けていた。
休む仲間たちに付与をかけ続け、彼らが寝ている間にも僕は修業し続けていたんだ。
しかし、それで強くなったのは彼らだけだった。
とうの僕は、一向に強くならないまま……
「なにが悪いんだろう……? なにか根本的な理由があるはずだ!」
僕は一から自分を鍛えなおすことにした。
これまでとは違って、自分に強化をかけてみることにする。
今までは、自分を強化するなんて、考えもしなかった。
自分を強化しようとすると必要な魔力が余分に多くなるし、もともとの能力値が低い僕を強化するよりも、みんなを強化したほうが、効率がいいからだ。
それに、僕が自分に付与術を使おうとすると、なぜかマクロが執拗に止めてきた。
だけど、今はもう僕一人しかいない。
「戦うのは得意じゃない。けど、やるしかない……!」
僕一人でも、強くならなくちゃいけないんだ!
弱い付与術しか使えない僕が冒険者にこだわるのには、理由があった。
それは、田舎の実家で待っている、病気の妹の存在だ。
妹のサヤカを食わせるためにも、僕は大金を稼がなくちゃならない。
そして冒険者がお金を稼ぐといえば、クエストだ。
「とりあえず、スライム狩りから始めるか」
まさか自分でモンスターを狩ることになるなんて、思ってもみなかった。
素の能力が低かったからこそ、僕は付与術師の職を選んだんだ。
きっと才能のない僕が、一人で強くなっていくには時間がかかる。
スライムから始めて、徐々に強いモンスターを倒していかなきゃならない。
だけど、あきらめるわけにはいかないんだ。
古巣を追い出されたばかりの僕に、新しい仲間を求めようという気は、まだ起きなかった。
◇
とりあえずスライム狩りのクエストを受けて、草原までやってきた。
手ごろな剣も武器屋で購入し、戦う準備はばっちりだ。
自分に付与をかけて、剣を握る。
「【攻撃力強化(微)】――!」
――シュン!
唱えると、軽快な音とともに僕の身体にわずかな光が差す。
「よし、これで少しは戦える……かな?」
そしてスライムに向かって攻撃……!
何度か攻撃を当てると、ようやくスライムを倒すことができた。
「ピキー……!」
「なんとか倒せるって感じか……」
我ながら、自分の弱さに嫌気がさす。
素の攻撃力を成長させるには、こうやって何度も敵を倒す必要がある。
他にも、たとえば魔力を成長させたい場合は、何度も魔法を使う。
残念ながら僕の魔力は、これだけ付与術を使っても全然増えていないんだけどね……
「よし……! 次だ、次!」
僕はその調子で、スライムをどんどん倒していった。
付与術は基本、魔力の量の多寡にかかわらず、一定時間で効果が切れる仕組みになっている。
それはどんなに偉大な付与術師でもそうだ。
なので、定期的に付与のかけなおしをする。
「【攻撃力強化(微)】――!」
そうやってスライムを倒しては一定時間おきに付与をして、戦っていく。
いつの間にか、日が翳り、空が暗くなりはじめていた。
「よし、今日はそろそろ終わりにするか……」
一日かけて、五十匹くらいのスライムを倒した。
しかし、ほとんど強くなった気がしない。
まあ、最初のうちはスライム一匹倒すのに、五、六発はかかっていた。
今では四発くらいで倒せるようになってきたから、少しは成長しているのだろうけど……
「はぁ……この調子じゃあ、ゴブリンなんて倒せるのはいったいいつになるんだ……?」
ナメップたちはもっとすぐに成長していたっていうのに……
まあ、僕のもともとの攻撃力が低いから、しかたないのかな。
素の能力が低いってことは、才能がないってことだ。
だから僕の攻撃力の成長が、緩やかになるのは当然だ。
ナメップはスライムくらい、最初から一撃で倒せていたしね。
「これが才能の違いってやつなのか……」
それに、【攻撃力強化(微)】は、もともとの攻撃力を強化する効果の付与術だ。
だから、元の攻撃力が高いほうが、当然強化幅も増える。
確か、文献によると、攻撃力を1・2倍にするとかだったかな。
まあ、本当に微々たる強化だから、追い出されてしまったわけだけど……
「これじゃあ、ナメップの言う通りだよなぁ。くそ」
僕が付与術でちまちま強化するよりも、彼らの成長による強化のほうが、早いくらいだった。
【攻撃力強化(中)】を覚えようにも、僕の魔力があまりにも少ないせいで、それもできない。
新しい付与術を習得するには、余った魔力を捧げる必要がある。
一晩寝れば魔力は回復するけど、僕の場合はそもそもが足りないのだ。
「くよくよしていても仕方がない! 僕は僕で頑張るだけだ!」
この日はそのまま、また死んだように眠ってしまった。
一日中付与術を使っていたので、魔力が底をついてくたくただ。
初めて自分で武器を持って戦ったので、全身が筋肉痛だった。
明日はもう少しだけ強くなれるといいな――
◇
それから、次の日も僕は同じようにスライムを倒し続けた。
魔力量の都合で、一日に使える付与の回数には限りがある。
なので、付与は【攻撃力強化】だけに絞って使った。
しばらく倒していると、昼頃にはスライムを一撃で倒すことができるようになっていた。
「やったぁ……! 案外僕には剣の才能があったのか……!?」
もしかしたら、付与術を選んだのは間違いだったのか?
この成長の早さは、そうとしか思えない。
それからまた次の日、今度はゴブリンに挑んで、倒せるようになった。
そのまた次の日はゴーレム、というふうに、とんとん拍子に強くなっていく。
これじゃあ、まるで冒険者を始めたばかりの――あのころのナメップみたいじゃないか。
そして、ようやく僕は気が付いた。
「あれ……? さすがにこれ、おかしくないか……?」
いくらなんでも、成長が早すぎる。
あれだけ魔力総量が成長しなかった僕が、攻撃力に関しては短期間で面白いように伸びている。
こんなこと、絶対にありえない。
ステータスの中でも特に攻撃力が低かった僕に、攻撃力成長の才能なんて、あるはずがないんだ。
慌てて、僕は自分のステータスを確認する。
すると、そこには驚くほど急成長した攻撃力の値が書かれていた。
「ほ、本当にどういうこと……!?」
――――――――――――――――――
名前 アレン・ローウェン
職業 付与術師
男 16歳
攻撃力 113
防御力 27
魔力 98
魔法耐性 77
敏捷 43
運 32
――――――――――――――――――
「攻撃力113!? わ、わけがわからない……!」
ほんの数日前まで22しかなかった僕の攻撃力が、113まで伸びている。
こんなの、天才じゃないとありえない。
今まで僕はほとんど戦ってこなかったから、僕が攻撃の天才である可能性がないわけではない。
だけど、そんなの……ありえるか?
「おかしい……これは検証してみる必要がありそうだ」
そう考えた僕は、試しにしばらくのあいだ【攻撃力強化(微)】を使わないで狩りをしてみた。
すると、いくらモンスターを倒しても、ステータスが一向に上がらなかった。
ってことは……
もしかして、この急激な成長は僕の付与術のせいなのか……?
だとしたら、すべてが覆る。
でも、なんで……?
そこで僕は、ある数字の関係性に注目した。
22と113――攻撃力の値だ。
地面に数字を書いて、計算してみる。
「えーっと、22を1・2倍すると26・4で……」
そうして何度か1・2をかけて計算を続けると……
「……113・515168。端数を除けばちょうど113……か」
となると、まさか……これは全部僕の付与術による強化なのか!?
僕の攻撃力は、修業によって上がったわけではなく、全部付与術のせいってこと!?
でも、それならこの短期間での異常な強化にも納得が……
いや、やっぱりおかしい。
どんな高名な賢者が使っても、付与術は必ず一定時間で解除されるはずなのだ。
「まさか僕だけ付与術が永続的に積み重ねられるってこと……? いや、そんな馬鹿な……はは……」
自分で言っていて、笑えてくる。
万が一にも考えもしなかったことだ。
そのせいで、僕は今まで一度も気づかなかった。
「この能力って……最強なんじゃ……?」
もし僕の付与術が永続的なものならば、それは無限の成長を意味する。
魔力がある限り、いくらでもステータスを上げ続けることができるじゃないか。
「じゃあ、昨日までに強化した分が全部残っているせいで、僕の魔力は少なかったのか……?」
あれだけ付与術を何度も使った割に、全然魔力が増えなかった。
その原因はこの永続強化にあるんじゃないか……?
そう考えた僕は、推測を重ねる。
魔力を他のステータスに変えて他人に付与する。
これが付与術の本質だ。
あくまで魔力を他人に付与しているだけなのだ。
付与が解除されなかったら、当然その分の魔力は対象の身体に残ったままになる。
魔力は基本、有限だ。
降って湧いてくるようなものじゃない。
それが解除されて一度自然界に戻ることで、はじめて魔力が回復する。
魔力とは、そういう循環する仕組みになっているのだ。
「じゃあ、この……付与術を解除したりなんかしたら……ゴクリ……どうなるんだ……?」
そう思いついたからには、試してみないわけにはいかない。
勝手に解除されないのなら、自分の意思で解除してみるしかないだろう。
もし本当に重ねがけされている付与を解除できたりなんかしたら、僕のこの付与術が永続的なものだっていう証拠にもなる。
「でも、どうやってやるんだ? いや、とりあえずやってみるしかない!」
付与術は、自分で解除することもできる。
放っておいても時間で解除されるので、普通はまったく使わないんだけどね……
魔力暴走のような危険な状態に陥った場合でもなければ、わざわざそんなことはしない。
だけど、それと同じ要領で解除できるのなら……
「えい……! 付与解除……!」
僕がそう唱えると――
――ズリュリュリュリュリュリュ……!!!!
――ズオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
様々な方向から、僕の体内へ魔力が流れ込んできた。
まるで洪水のように、魔力の波に呑み込まれる。
「うわあああああああああああああああああ!?!?!?!?」
軽い立ち眩みに襲われる。
しばらくして、ようやく意識がはっきりしてきた。
「これで……戻ったのか……?」
半信半疑なまま、僕は再び自分のステータスを開いた。
「うえええええええええっ!?!?!?!? んなにこれぇ……!?」
――――――――――――――――――
名前 アレン・ローウェン
職業 付与術師
男 16歳
攻撃力 22
防御力 27
魔力 58298
魔法耐性 77
敏捷 43
運 32
――――――――――――――――――
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