憂鬱は君を灰色にする

如月エイリ

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出会う必然、変わる運命

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 橋の上ではさらに、車の往来が多くなってきた。もう出勤の時間なのだろう。

  そんな雑音も、あたしの耳には入らない。勇気の声しか。

 「俺は、君の運命を変える為に…この時代に来た」

 「あたしの運命!?」

 「そう」

  勇気は頷いた。

  あたしは息を飲み、勇気の次の言葉を待った。

  勇気は、言っていいものか悩んでいた。本人に気づかれずに、運命を変えるつもりだった。なのに、こんなことになるなんて。ミュータントという言葉も、教える訳にはいかなかったのに。 

  なぜならば、勇気は、ミュータントの存在を消す為に来たのだから。

  彼女の運命を変えることができたならば、ミュータントという存在は消えるのだから。

  だけど、ここまでまき込んでしまったら、言わない訳にはいかない。

  言った上で、納得してもらうしかない。

  勇気は、覚悟を決めた。

  あたしの顔を見据え、

 「ミュータントが初めて、産まれたのは…今から次の年」

 「来年に生まれるの?」

  驚いたあたしを見て、勇気は頷き、

 「そう…。だから、俺は…ミュータントを生まれないようにする為に、この世界に来た」

  勇気の言葉には、揺らぎない思いを感じた。

  だからこそ、あたしはきいた。

 「あなたは、ミュータントなんでしょ?」

 「ああ…」

 「だったら、もし…運命が変わったら、あなたは生まれないんじゃ…」

 「それでも、構わない!」

  勇気は、あたしを睨むように見て、

 「それでも…」

 顔をそらした。

 「構わない」

 「ど、どうして?」

  あたしは声を荒げた。

 「ミュータントが生まれてから、五百年にも渡って、人間との戦いは続いている。数えきれない程の人々が、死んだ。ミュータントが生まれなかったら、戦いは起きなかった」

  勇気はあたしを、じっと見つめた。

  勇気の瞳の強さに、あたしは何も言えなくなった。

  それほど、勇気の決意は揺るぎなく、意志は固かった。

 「ミュータントのみんなも納得してくれている…はずだったけど…」

  最後の語尾は、少しだけ声が小さくなった。今まで迷いのなかった勇気の言葉が、揺らいでいた。

  あたしは、そんな勇気に気付いて、少し心配になった。

  だからと言って、簡単に言葉をかけられない。

 「だけど!」

  勇気は、あたしの肩を掴んだ。 

 「俺のやることは、変わらない!この二週間、君の出会いを阻止する!」

 「え」

  あたしは今、初めて気付いた。

 「君はこの二週間で、ある男と出会い…恋をして、子供を産む。それも、双子だ」

  もしかしたらと思っていたけど、今の言葉で、完全に確定した。

(ミュータントを産んだのは…あたし!?)

「その1人が、ミュータントの始祖となる」

(あたしが、来年…双子を産む!?)

 学生であるあたしが…来年はママになる。

  それも、ミュータントの。

  信じられない言葉に、あたしの頭はパニックを飛び越えて、真っ白になった。

 「当時のことは、あまり伝わっていないけど…あなたが、産むことは記録として残っている」

  勇気の言葉に、あたしははっとした。

(相手は、誰なの?)

 ときく前に、勇気が言った。

 「残念だけど…相手はわからない。だから、俺は!」

  勇気は、掴む肩に力を込めると

「君には悪いけど…俺は、この二週間!君と誰かの出会いを邪魔する。それは、君の幸せを奪うことかもしれない。だけど…」

  顔を逸らし、あたしの肩から手を離した。

 「君は、綺麗だから…いずれ、いい人ができて…幸せになるよ」

  勇気は、顔を真っ赤にした。

  慌てて、あたしに背を向け、

 「記録によると、ミュータントを産んだ君の人生は、過酷だったらしい…」

 勇気は空を見上げ、

 「そんな人生を、送らなくてもよくなる」

それから、ゆっくりと視線をあたしに向け、

 「勝手な印象で、もっと気の強い女性を思い描いていた」

 微笑んだ。

 「だけど、あなたは、普通の優しい女の子だった。そんな人が、あんな運命を辿る必要はないんだ。だから…ごめん。君の運命を変える」

(あっ)

 あたしは気付いた。

  勇気は自分で言いながら、気付いていないみたいだけど…。

  もし、あたしが誰かと出会い、恋をして、子供を産むとしたら… 。

  あたしは、じっと勇気を見つめた。

  勇気は、そんなあたしの視線に気付かない。

(あたしはもう…出会い、恋をしている)

 そう…恋をしている。

  あなたに。


 「あ、あのお~」

  それを伝えていいのか…わからなかった。

  鈍感な彼に言ったら、どうなるのだろうか。

 彼 は多分…未来に帰る。

  だけど、もし…未来に帰ったら、どうなるのだろうか。

  彼が、あたしの運命の人だとしたら…。




 「もう…学校に行かないとね。俺はここから、消えるよ」

  テレポートしょうとする勇気の腕を掴んだ。 

 「あのお」

  あたしは、勇気を見上げた。

  今、勇気が帰ったら…帰るべき未来はあるのだろうか。

  あたしは、勇気の腕を握りしめた。

  真実を告げてはいけない。

  彼を、未来に帰してはいけない。

  あたしは、彼に生きてほしい。

  だから、あたしは…。

 「勇気くん!」

  あたしが、気持ちだけを伝えようとした時、彼に生きてほしいと言おうとした瞬間、真上にある橋の一部に、亀裂が走った。

 「危ない!」

  勇気は、あたしを抱えると、橋の下から飛び出した。

  あたし達がいた場所の天井部分だけが、崩れた。

  橋を渡っていた車が落ちることはなかったが、パニックにはなり、すぐに橋は通行止めになった。

 「大丈夫?」

  低空飛行だったけど、勇気に抱かれ、川辺を疾走したあたしは、ドキドキしながらも、勇気がミュータントだと改めて思い知った。





 「フン!」

  橋のそばにいたメグは、勇気に抱かれて、橋の下から飛び出すあたしを見ていた。

 「運命を変える方法が、もう一つあるわ」

  メグは学校に向かって、歩き出した。

  クラクションを鳴らし、騒然となっている橋の上を、悠然と歩いていく。

  前方を睨み、メグは決意した。

 「あたしが、イブになればいいのよ。ミュータントのイブに」

  メグは口元を緩め、

 「その為には…」

 橋を渡り切ると、振り返り…土手の下を見た。

 「睦美。あなたが、邪魔よ」

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