くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。

くずもち

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第13話くすのきくんの噂

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「―――」

 朝目覚めた時、神木 杏樹は心が軽くなったような錯覚を覚えた。

「……夢だったわけじゃないよね?」

 本気でそう思いかけたが、でもあれは夢じゃない。

 今日はいい一日になる気がした朝は、本当に久しぶりだった。

 登校中もどうにも昨日の一連の騒ぎに現実身が持てずに、頬をつねりたくなったくらいである。

「でも……楠君って、結局何者なんだろう?」

 ただ様々な変化はあったが、結局あの謎のクラスメイト、楠 太平は妖怪達の百鬼夜行よりも謎なのは変わりない。

 その謎を知りたいがために最初から無茶をしたツケは、早速やってきた。



 神木 杏樹はクラスメイトにこんな話を切りだされ、大いに狼狽えた。

「ねぇ……神木さんって怪談とか信じるほう?」

「……! え? な、なな、なんで?」

「そんなに動揺しなくてもいいのに」

 他愛ない雑談ではあったが、あまりにも自分の事情に当てはまる話題だけに気になってしまう。

 つい表情に出すと、自分に話しかけて来た風野 真理という女生徒はニンマリ笑ってその話題を広げ始めた。

「へっへー。実はね? この町って面白い七不思議があるんだよ?」

「面白い七不思議?」

「そうそう。変なモノを見る人がいたりね? 最近目撃例が多いのは、街中を走る戦車! これだね!」

「……せんしゃ」

 不意打ちで、まさかそんなことと笑えない。

 杏樹にはもちろん、元凶に心当たりがあったからだ。

 しかし笑えなかったのがまずかった。

 噂好きらしい真理は杏樹の表情の変化に気が付いたのか、今度は黙ってしまった。

 ヤバい、またやっちゃった。

 杏樹は過去に変に思われた経験を思い出す。

 しかし返って来た真理の反応は思っていたものと違っていた。

「まさか……見たの! 神木さん!」

「え? いやえっと……見てないけど」

 喰いつくような勢いで寄ってきた真理にとっさに嘘をつく。

 するととても真理は残念がっていた。

「そっかー……見れたらすごいラッキーだよ? たまに話題になったりするんだけど、写真に写らないから、直に見ないとダメなんだって!」

「そ、そうなんだ。この町って結構そう言う変な話って沢山あるの?」

 杏樹は戸惑いながらも相手に合わせて話を続けると、真理の目はキラリと輝いた。

「あるよあるある! そう言う話題には事欠かないよ!」

「他にも、何かあるんだ……」

「だって七不思議だから。ああでも、今年は九個だったかな? 去年は確か七個だった気がするけど」

「七不思議じゃすまないんだ……」

 杏樹そっちのけで、おかしな話題は盛り上がってゆく。

 七不思議の話題は他のクラスメイト達の間でも中々ホットな様子で、周囲からも便乗した話題が聞こえてきた。

「へっへー、実は俺も見たことあるんだー戦車」

「えー! 戦車見たの!」

「見た見た! すっげぇデカい奴! こないだ山に入っていったよ!」

「ホントに! 」

 次々に目撃情報が上がってゆく。

 怪談話というよりも、珍しい有名人が町にいるような語り口だと感じるのは気のせいなのだろうか?

 やっぱりこの町は何かおかしいと杏樹は思う。

 妖怪は基本的に見えないものだ。

 噂程度は今までにもあったが、ここまで自分が見た物と似通った怪談を普通の人が語っていたことなんて、今までの杏樹の周りでは全くなかった。

「ところでなんで私にそんな話を?」

 だが振られた話題がなぜ怪談話だったのかというのは気にかかる。

 少なくても、杏樹自身はあの模型部部室以外でその手の話をした覚えなんてない。

 ただ聞かれた方は意外だったのか、真理はきょとんとして言った。

「いやだって……神木さんって楠君と仲がいいんでしょう?」

「な、仲はー良くは……どうなんだろう?」

 正直ちょっと煙たがられている気がしないでもないと杏樹自身は思っていた。

 ただ怪談話を楠君と結び付ける理由の方はとても気になった。

「楠君って怪談とかに詳しいの?」

「うーん直接話を聞いたわけじゃないんだけど……噂がね」

 真理は腕を組んで唸る。

 どうやら楠君は完全にうまくやっているというわけではないらしい。

「へ、へー。その噂って?」

「どんなのってこともないんだけど。先輩たちの間で有名な閉鎖されたお化け教室に消えるのを見たとか。なんかクマの妖精っぽいのと歩いてるのを見たとか?」

「へー……」

 噂がちょっとファンシー。

 あーでも、どれもこれも原因に心当たりがある。

 杏樹はあまりにも直球な噂の数々に思わず笑ってしまいそうになった。

「とにかく楠君ってこの学校の不思議ポイントなんだよ! それで神木さんも興味あるんじゃないかなーって思って!」

 真理は何かを期待しているようだが、杏樹は即席でこんな作り話を用意した。

「実は……楠君に財布を拾ってもらって。接点は今のところそれくらいかなぁ」

「……ああー。そうなんだ」

 ただそれを聞いた真理は納得しつつも、若干不満そうだ。

 そして真理は、これ以上話が広がらないと判断したのか話題を変えて来た。

「ああそう言えば。神木さんってどこか部活に入ったりするの?」

「え? ああ、うん。模型部に入るつもり……なんだけど」

 杏樹がそう口にした瞬間クラスの雑談は止まり、クラスメイト達の表情はどこか顔色が悪い気がした。

「……うちの学校に模型部なんてあったか? 確か入学の時のパンフレットにはなかったよな?」

「……噂のやつじゃ? あのどこにも存在しない部室にあるっていう」

「え? そうだっけ? 部屋を見つけると熊のお化けが現れて食い殺されるって」

「いや真っ白な影についていくと、存在しない部室が目の前にあるとか」

 なんか模型部の存在の方が、戦車より怪談じみて伝わってない?

 それでいいのか楠君と心の中でツッコンでいると、真理から心配された。

「……大丈夫なの? 神木さん?」

「……大丈夫、大丈夫」

 曖昧に頷きながら、杏樹は何とも言えない気分になった。
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