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第77話とある研究所の話
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「なんだ? 急に呼び出すなんて……」
黒い眼鏡をかけた白衣の女性は、長い髪をかき上げ不愉快そうに表情をしかめる。
そして彼女を呼び出した、似た顔をしたショートカットの女性は、恭しく頭を下げて謝罪した。
「すみません、カヤ様。コロニーの哨戒任務に出ていたF2タイプなんですが不可解な記憶データが残っていまして。私の手には余ると判断しました」
「不可解?」
「はい。今……出します」
液体に満たされたメンテナンスカプセルの中にいるF2タイプは、とある任務で小隊を一つ壊滅させている。
場合によっては廃棄も検討される事案だったが、ディスプレイに映し出された記憶データを確認したカヤと呼ばれた女性は、思わず眉をハの字に曲げた。
「おい。こいつは、なにかヤバイ薬物でもやっていたんじゃないのか?」
「極めて健康体です。ただ……このF2タイプと共闘したと思われるF3タイプはワープ実験中にロストした個体の様なんです」
そんな報告にカヤは片眉を跳ねさせる。
現在まで、ワープ実験によって消失した生物が生きて確認された報告はなかったからだ。
「ワープ実験? ではワープで消失したと思われていた個体が何らかの要因で生きていたということか?」
「はい、そうなります」
カヤは頷く研究用個体の言葉に黙り込んだ。
記憶データが幻覚でないのならこの調整中のF2個体が持つ記憶は事実だということになる。
しかし追加で映し出されている関連データは、真面目に考察するにはバカげた内容だった。
「……しかしな。このF2が共感した記憶はあまりにも荒唐無稽にすぎないか?」
「そうですね。走馬灯……の様なだと思いますが。極限状態でのことですので判断は難しいです。しかし……最後の戦闘データをご覧ください」
「これは?」
指摘された部分は、共感した記憶データよりもはるかに解像度が高い。
しかし映し出されている記憶は、見たことのないアウターによる圧倒的な戦闘である。
「はい。最後の戦闘記録です。コロニーのアウターに補足されたようですが……このF3個体の乗るアウター、素晴らしい戦闘能力を持っているようです。しかし技術は解析不能。全く未知のテクノロジーによって改造されたのだと思われます」
「ベースは……アーネラか? ずいぶん思い切った改造だが……」
確かに面白い。映像で映し出されているF3は、恐るべき戦闘能力を発揮していた。
その機動力は明らかにコロニーのアウターを上回っているし、不可能と言われるワープ技術さえも完全に制御していることから、とても無視できるものではなかった。
コロニーの連中にはすでに月の強みは解析され、対応されつつある。
かなり予算をつぎ込んだビーム兵器技術も、決定打というには弱い。
そこに現れたこのアウターの力は、大変魅力的だった。
「……とすれば。確かめる価値はあるか」
「はい。しかし肝心のこのイレギュラー個体は行方不明でして……申し訳ありません」
謝罪の声を聴きながら記憶データをあさるカヤだったが、見れば見るほど謎と疑惑の方が強くなるのだから、判断を下すのは極めて難しいだろう。
「話は分かった……なるほどな。確かにこれは混乱する。ちなみに確認するがお前のジョークではないな?」
「もちろんです! 決してそのようなことは……!」
「ならよい。未確認のコロニーに、謎の技術……眉唾だが一定の信憑性がある以上は、確認の価値はある。このF2がワープ現象に巻き込まれて、未確認コロニーに転移したと仮定して座標を割り出せるか?」
「すでに解析は終了しています。その……こちらです」
仕事が早いのはよいことである。
しかし差し出された座標に、カヤは頭痛を覚えた。
「どれどれ……何だこれは? アステロイドベルト? 火星からだって相当な距離がないか?」
「はい。地球圏の組織が、こんな場所でコロニーを建造出来るのかは……はなはだ疑問なんです。それこそ外宇宙から来た生命体の仕業だと言われた方が信憑性があるくらいですよ」
ただ、真面目顔の研究個体にカヤは思わず目を丸くしてしまった。
何も冗談で言っているわけではないとわかるだけに、少しだけツボに入ったのだ。
「フフッ……。研究に特化したお前が外宇宙生命体の方が信憑性があるとは、面白いことを言う」
「す、すみません」
「いや、無理もない。こんなものを見せられては」
そう、無理もない。
最期にカヤが見た記憶データには、トーラス型コロニーの画像に恐ろしく巨大な樹木のようなものが生えている画像がデカデカと表示されていた。
「確かに怪しい幻覚の様な話だが、いいだろう。F3個体を中心に部隊を編成しろ。指揮官には……そうだな。F1一体とF2はこいつを含めて処分予定の個体をつけておけ。失敗でも廃棄予定なら痛手はないだろう」
「了解しました。すぐに」
「では―――現代で宝島探しといこうではないか」
メガネをかけ直し、白衣を翻すカヤという女性。
元は研究者であり、そして自然発生した月人の第一号として知られている彼女は現在、こう呼ばれている。
“月の女王”
呼び名は誇張でも何でもなく、月人すべての元になったオリジナルはこの神秘が死滅しかけた現代において降ってわいたオカルト話に胸を躍らせる。
「いやー、ダメかと思ったけどなんとかなったよ! 見せたかったね! 私の大活躍を!」
「いやー……ホント肝が冷えたよ?」
「ホントだよ! 死ぬかと思った! でも迷い込んで来たあの子も助けたし! 襲い掛かって来た敵は全部やっつけた! まさに全部丸っと解決だね!」
僕は興奮して武勇伝を語るフーさんの無事を喜んでいたが、なぜだか漠然と妙に不安な気持ちになった。
黒い眼鏡をかけた白衣の女性は、長い髪をかき上げ不愉快そうに表情をしかめる。
そして彼女を呼び出した、似た顔をしたショートカットの女性は、恭しく頭を下げて謝罪した。
「すみません、カヤ様。コロニーの哨戒任務に出ていたF2タイプなんですが不可解な記憶データが残っていまして。私の手には余ると判断しました」
「不可解?」
「はい。今……出します」
液体に満たされたメンテナンスカプセルの中にいるF2タイプは、とある任務で小隊を一つ壊滅させている。
場合によっては廃棄も検討される事案だったが、ディスプレイに映し出された記憶データを確認したカヤと呼ばれた女性は、思わず眉をハの字に曲げた。
「おい。こいつは、なにかヤバイ薬物でもやっていたんじゃないのか?」
「極めて健康体です。ただ……このF2タイプと共闘したと思われるF3タイプはワープ実験中にロストした個体の様なんです」
そんな報告にカヤは片眉を跳ねさせる。
現在まで、ワープ実験によって消失した生物が生きて確認された報告はなかったからだ。
「ワープ実験? ではワープで消失したと思われていた個体が何らかの要因で生きていたということか?」
「はい、そうなります」
カヤは頷く研究用個体の言葉に黙り込んだ。
記憶データが幻覚でないのならこの調整中のF2個体が持つ記憶は事実だということになる。
しかし追加で映し出されている関連データは、真面目に考察するにはバカげた内容だった。
「……しかしな。このF2が共感した記憶はあまりにも荒唐無稽にすぎないか?」
「そうですね。走馬灯……の様なだと思いますが。極限状態でのことですので判断は難しいです。しかし……最後の戦闘データをご覧ください」
「これは?」
指摘された部分は、共感した記憶データよりもはるかに解像度が高い。
しかし映し出されている記憶は、見たことのないアウターによる圧倒的な戦闘である。
「はい。最後の戦闘記録です。コロニーのアウターに補足されたようですが……このF3個体の乗るアウター、素晴らしい戦闘能力を持っているようです。しかし技術は解析不能。全く未知のテクノロジーによって改造されたのだと思われます」
「ベースは……アーネラか? ずいぶん思い切った改造だが……」
確かに面白い。映像で映し出されているF3は、恐るべき戦闘能力を発揮していた。
その機動力は明らかにコロニーのアウターを上回っているし、不可能と言われるワープ技術さえも完全に制御していることから、とても無視できるものではなかった。
コロニーの連中にはすでに月の強みは解析され、対応されつつある。
かなり予算をつぎ込んだビーム兵器技術も、決定打というには弱い。
そこに現れたこのアウターの力は、大変魅力的だった。
「……とすれば。確かめる価値はあるか」
「はい。しかし肝心のこのイレギュラー個体は行方不明でして……申し訳ありません」
謝罪の声を聴きながら記憶データをあさるカヤだったが、見れば見るほど謎と疑惑の方が強くなるのだから、判断を下すのは極めて難しいだろう。
「話は分かった……なるほどな。確かにこれは混乱する。ちなみに確認するがお前のジョークではないな?」
「もちろんです! 決してそのようなことは……!」
「ならよい。未確認のコロニーに、謎の技術……眉唾だが一定の信憑性がある以上は、確認の価値はある。このF2がワープ現象に巻き込まれて、未確認コロニーに転移したと仮定して座標を割り出せるか?」
「すでに解析は終了しています。その……こちらです」
仕事が早いのはよいことである。
しかし差し出された座標に、カヤは頭痛を覚えた。
「どれどれ……何だこれは? アステロイドベルト? 火星からだって相当な距離がないか?」
「はい。地球圏の組織が、こんな場所でコロニーを建造出来るのかは……はなはだ疑問なんです。それこそ外宇宙から来た生命体の仕業だと言われた方が信憑性があるくらいですよ」
ただ、真面目顔の研究個体にカヤは思わず目を丸くしてしまった。
何も冗談で言っているわけではないとわかるだけに、少しだけツボに入ったのだ。
「フフッ……。研究に特化したお前が外宇宙生命体の方が信憑性があるとは、面白いことを言う」
「す、すみません」
「いや、無理もない。こんなものを見せられては」
そう、無理もない。
最期にカヤが見た記憶データには、トーラス型コロニーの画像に恐ろしく巨大な樹木のようなものが生えている画像がデカデカと表示されていた。
「確かに怪しい幻覚の様な話だが、いいだろう。F3個体を中心に部隊を編成しろ。指揮官には……そうだな。F1一体とF2はこいつを含めて処分予定の個体をつけておけ。失敗でも廃棄予定なら痛手はないだろう」
「了解しました。すぐに」
「では―――現代で宝島探しといこうではないか」
メガネをかけ直し、白衣を翻すカヤという女性。
元は研究者であり、そして自然発生した月人の第一号として知られている彼女は現在、こう呼ばれている。
“月の女王”
呼び名は誇張でも何でもなく、月人すべての元になったオリジナルはこの神秘が死滅しかけた現代において降ってわいたオカルト話に胸を躍らせる。
「いやー、ダメかと思ったけどなんとかなったよ! 見せたかったね! 私の大活躍を!」
「いやー……ホント肝が冷えたよ?」
「ホントだよ! 死ぬかと思った! でも迷い込んで来たあの子も助けたし! 襲い掛かって来た敵は全部やっつけた! まさに全部丸っと解決だね!」
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