5 / 18
2章
琥珀色のフレンチトーストとキミの名と02
しおりを挟む
「わぁ、美味しそう!!」
目の前に置かれた盛り付けられたフレンチトーストを見て、感激で私は大きく目を見張る。
琥珀色に焼けていて、香ばしい甘い匂い鼻腔をくすぐる。しかも、食べやすいように、一口大に切っている。見た目は、文句なしの100点だ。
「どうぞ、召し上がれ」
柔らかく微笑む彼。私は、いただきます、と手を合わせてから、フレンチトーストにフォークを刺して口へ運ぶ。
「ん!」
口の中に入れれば、ぷりぷりとした食感に、ふわっと広がる甘み。冗談抜きで、美味しい。お店とかで、出ているレベル。昨日特売で買った5切れ98円の食パンだとは思えない。
思わず無我夢中で食べていると
「マスターは、本当に美味しそうに食べるね」
と彼はくすりと笑う。
「その、マスターっていうの、ちょっと……慣れないな。私、小野寺理子っていうんだけれど」
「知っているよ、契約が結ばれたから。マスターの名前は」
何か書面に書いて手続き的なことしたっけ?なんて思い返していると
「昨晩、俺を月明かりに当ててくれたでしょ。あれで、契約されるんだよ」
私の心の中の疑問を答えるように付け加えた。そして
「だから、契約が結ばれている以上、マスターは、俺の主人で、俺は同居ドールだから。契約上、マスターと呼ぶしかないからね」
“ごめんね”と彼は言う。
「……決まりなら仕方ないね」
そういって、私はふとあることに思い至った。
「そうだ、名前は?あなたの名前は?」
そう尋ねれば
「俺?俺は、同居ドールだよ。名前なんてないよ」
彼は、わずかに困ったように笑う。
「え…?」
「俺は、同居ドール。俺の存在意義は、契約関係を結んだ主人に安らぎを与えること。だから、名前は必要ないんだ」
それは、なんだか……。
「……寂しいな」
心の中で思っていたことがつい口に出てしまった。
「寂しい?どうして?」
不思議そうに私を見る彼。私は、手にしていたフォークを置いて、彼を見返す。
「名前っていうのは、みんなが当たり前のように持っているけれど、一人一人に意味が込められてつけられた特別なものだわ。だから、同居ドールだからという理由で、ないっていうのは、なんか寂しいっていうか…」
“なんか、うまく言えないけれど…”と付け足せば、“いや、なんとなく、マスターの言いたいことわかったよ”と彼は首を1度縦に振ってから
「じゃあ、マスターがつけてよ」
にこりと笑って私を見る。
「私が?」
「うん、マスターが」
「私が、名前で呼ぶのは、契約に違反しないの?」
「うん。だから、マスターが呼びたい名で呼んでほしい」
それは、もう期待のこもった眼差しで。
うぅ…、眩しすぎる。正直、咄嗟に何も思いつかない。
「え~…、じゃあ、好きなものとか」
とりあえず、彼に関連したものから尋ねようと思えば、彼は嬉しそうに私を見て言う。
「マスター」
即答か!
こんな美形にまっすぐに見られたら、人形だとはわかっていながらも、さすがに照れる。
「じゃあ、趣味とか?」
「…俺は、同居ドールだから、趣味とかはいらないから」
「う~ん、結構難しいな…」
太郎?次郎?三郎?駄目だ。どう考えても、純日本人みたいな名前は合わないだろう、画伯な私は、どうもネーミングセンスまでないようだ。
「…ん~」
はて、どうしたものかと左から右に部屋を見渡して、視野の端に“あるもの”が目に入った。彼も、私の視線を辿り、気が付いたようで、その名を言う。
「シロツメクサ…?」
棚の上に置かれた花瓶に生けられたシロツメクサの造花が目に入ったのである。棚の上に、何も置いていないのは、なんとなく寂しかったので、以前、買ってきたんだった。造花なので、水の入れ替え必要ないしね。
「…綺麗だね」
しげしげと造花のシロツメクサを見て、彼は聞いてきた。
どこにでも生えるから、雑草といわれやすい花だけれども、私はこの花がわりと気に入っている。たまたま行った雑貨屋に置いてあり、迷わず購入してきた。
「本物は、いつみられるの?」
「4月ころかな?この近くの河原にたくさん咲いているのが見られるよ」
「へぇ…」
「見たことないの?」
「うん。バンボラは、ゼラニウムの花はよく飾るんだけどね」
そういって、どこか眩しそうにそれを見る彼を見て、両手を合わせた。
「…じゃあ、一緒に見に行こう」
「…え?」
「春になったらね」
私がそういうと、“やった”と小さくつぶやく彼。そんな彼を見て、ふと思いつく。
「…ハル…」
「え…?」
「名前、ハルっていうのは、どう?」
我ながら、彼に、とてもぴったりな名前な気がする。
「…ハル…」
そう繰り返して嬉しそうにふんわりと笑う彼を見て、なんとなくその要因がわかった。
「素敵な響きだね。ありがとうマスター」
“ハル”の優しい気遣いや笑顔は、なんだか、春の陽だまりに似ているのだ。
「マスター、これからよろしくね」
「こちらこそ、ハル」
代り映えのしない、目標もなく、目的もなく、生きがいもなく、ただ死んだように生きる日々を送っていた私の日常が、確かに変わっていく予感がした。
目の前に置かれた盛り付けられたフレンチトーストを見て、感激で私は大きく目を見張る。
琥珀色に焼けていて、香ばしい甘い匂い鼻腔をくすぐる。しかも、食べやすいように、一口大に切っている。見た目は、文句なしの100点だ。
「どうぞ、召し上がれ」
柔らかく微笑む彼。私は、いただきます、と手を合わせてから、フレンチトーストにフォークを刺して口へ運ぶ。
「ん!」
口の中に入れれば、ぷりぷりとした食感に、ふわっと広がる甘み。冗談抜きで、美味しい。お店とかで、出ているレベル。昨日特売で買った5切れ98円の食パンだとは思えない。
思わず無我夢中で食べていると
「マスターは、本当に美味しそうに食べるね」
と彼はくすりと笑う。
「その、マスターっていうの、ちょっと……慣れないな。私、小野寺理子っていうんだけれど」
「知っているよ、契約が結ばれたから。マスターの名前は」
何か書面に書いて手続き的なことしたっけ?なんて思い返していると
「昨晩、俺を月明かりに当ててくれたでしょ。あれで、契約されるんだよ」
私の心の中の疑問を答えるように付け加えた。そして
「だから、契約が結ばれている以上、マスターは、俺の主人で、俺は同居ドールだから。契約上、マスターと呼ぶしかないからね」
“ごめんね”と彼は言う。
「……決まりなら仕方ないね」
そういって、私はふとあることに思い至った。
「そうだ、名前は?あなたの名前は?」
そう尋ねれば
「俺?俺は、同居ドールだよ。名前なんてないよ」
彼は、わずかに困ったように笑う。
「え…?」
「俺は、同居ドール。俺の存在意義は、契約関係を結んだ主人に安らぎを与えること。だから、名前は必要ないんだ」
それは、なんだか……。
「……寂しいな」
心の中で思っていたことがつい口に出てしまった。
「寂しい?どうして?」
不思議そうに私を見る彼。私は、手にしていたフォークを置いて、彼を見返す。
「名前っていうのは、みんなが当たり前のように持っているけれど、一人一人に意味が込められてつけられた特別なものだわ。だから、同居ドールだからという理由で、ないっていうのは、なんか寂しいっていうか…」
“なんか、うまく言えないけれど…”と付け足せば、“いや、なんとなく、マスターの言いたいことわかったよ”と彼は首を1度縦に振ってから
「じゃあ、マスターがつけてよ」
にこりと笑って私を見る。
「私が?」
「うん、マスターが」
「私が、名前で呼ぶのは、契約に違反しないの?」
「うん。だから、マスターが呼びたい名で呼んでほしい」
それは、もう期待のこもった眼差しで。
うぅ…、眩しすぎる。正直、咄嗟に何も思いつかない。
「え~…、じゃあ、好きなものとか」
とりあえず、彼に関連したものから尋ねようと思えば、彼は嬉しそうに私を見て言う。
「マスター」
即答か!
こんな美形にまっすぐに見られたら、人形だとはわかっていながらも、さすがに照れる。
「じゃあ、趣味とか?」
「…俺は、同居ドールだから、趣味とかはいらないから」
「う~ん、結構難しいな…」
太郎?次郎?三郎?駄目だ。どう考えても、純日本人みたいな名前は合わないだろう、画伯な私は、どうもネーミングセンスまでないようだ。
「…ん~」
はて、どうしたものかと左から右に部屋を見渡して、視野の端に“あるもの”が目に入った。彼も、私の視線を辿り、気が付いたようで、その名を言う。
「シロツメクサ…?」
棚の上に置かれた花瓶に生けられたシロツメクサの造花が目に入ったのである。棚の上に、何も置いていないのは、なんとなく寂しかったので、以前、買ってきたんだった。造花なので、水の入れ替え必要ないしね。
「…綺麗だね」
しげしげと造花のシロツメクサを見て、彼は聞いてきた。
どこにでも生えるから、雑草といわれやすい花だけれども、私はこの花がわりと気に入っている。たまたま行った雑貨屋に置いてあり、迷わず購入してきた。
「本物は、いつみられるの?」
「4月ころかな?この近くの河原にたくさん咲いているのが見られるよ」
「へぇ…」
「見たことないの?」
「うん。バンボラは、ゼラニウムの花はよく飾るんだけどね」
そういって、どこか眩しそうにそれを見る彼を見て、両手を合わせた。
「…じゃあ、一緒に見に行こう」
「…え?」
「春になったらね」
私がそういうと、“やった”と小さくつぶやく彼。そんな彼を見て、ふと思いつく。
「…ハル…」
「え…?」
「名前、ハルっていうのは、どう?」
我ながら、彼に、とてもぴったりな名前な気がする。
「…ハル…」
そう繰り返して嬉しそうにふんわりと笑う彼を見て、なんとなくその要因がわかった。
「素敵な響きだね。ありがとうマスター」
“ハル”の優しい気遣いや笑顔は、なんだか、春の陽だまりに似ているのだ。
「マスター、これからよろしくね」
「こちらこそ、ハル」
代り映えのしない、目標もなく、目的もなく、生きがいもなく、ただ死んだように生きる日々を送っていた私の日常が、確かに変わっていく予感がした。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる