訳ありニートと同居ドール

九条りりあ

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2章

嘘と秘密は紙一重01

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♢ ♢ ♢


10月18日

ハルがやってきて3日目。当初は、戸惑っていたが、私の戸惑いも、ハルは完全に払拭されてしまい、この状況に完全に慣れてしまっていた。とにかく、私の安らぎを第一に考えて動いてくれていること、そして、ハルから漂う人畜無害臭、それらすべてが、ハルに対しての警戒心の一切をなくしてしまった。

そんなわけで、あっという間の3日間。たった3日間だけど、ハルと暮らしてみて、人と同じように見えても、やはり人とは違うのだなと思わされることがたびたびあった。

例えば、食事。人形だから、食事はいらないそうで、この3日間、本当に何も食べていない。食べないのに、高級フレンチのレストランのシェフが真っ青なくらいには、料理が上手だ。なんでも、バンボラに仕込まれたらしい。確かに、あの日食べたマカロニグラタン、ガトーショコラは、本当に美味しかった。まぁ、カップ麺にお湯を注ぐ料理しか、最近作っていなかった私よりは全然出来る。あとは、電子レンジでチンするものとか。あれ、とっても便利よね。うん、我ながら、女子力はないな。
当初は、ハルが食べないのに、作ってもらうのは悪いので、自分の分は自分で作ると言ったのだが、“マスターに安らぎを与えるのが、俺の役目だから”と言い張り、さらに、“それに、俺が作った料理を美味しいって食べるマスターを見たいんだ”と付け加えられれば、どう言い返せばいいかわからない。だから、料理を作るのは、完全にハルの役目になってしまった。

あと違う点といえば、汗をかかないし、体温がない。人間と同じような肌質なのに、まったく汗をかかなかったり、動いているのに、体温がなかったり、ぱっと見人間と同じなのに、作りがまったく違うらしい。

 そんなちょっとした違いを見つけるのが、最近は興味深かったりする今日この頃。

「ハルは、こういう服似合いそうよね?」

私がそうハルに声をかけたのは、この日の11時頃。丁度、テレビの午後のバラエティーで、若者の服の特集をしていた番組をソファーに座って見ていた時。テレビの中のタレントが、街頭にいる若者にインタビュー。白い無地のTシャツに、デニムシャツ、黒いスキニーパンツ。とても清潔感があり、さわやかな印象を与える。身長の高くスラリとしているハルにぴったりだ。

「ん?どれ?」
「あ…、CM入っちゃった」

キッチンでお昼ご飯の準備をしていたハルが、こちらに顔を出したときには遅く、丁度CMに入ったところだった。

「ハルって、洋服とか興味ないの?」

ハルはというと、元から着ていた白シャツと泊まるときように置いてある我が弟のTシャツを交互に着ている。弟が着ると、なんだか冴えないそのTシャツをさらりと着こなすあたりは流石だ。亜麻色の髪、空色の瞳、透き通る肌、整った容姿。正直、羨ましすぎる。けれども、ハルが平均身長の弟に比べて、高いハルにとっては、そのTシャツもやや小さく感じる。

「別に特にないかな。極論言えば、俺は同居ドールだから、暑さも寒さも感じないしね」

“着るものはなんでもいいんだ”と肩をすくませる。そんなハルの様子を見て、私は一つ閃いて、“そうだ!!”ぽんと手を叩く。

「ハルの服を買いに行こう!!」
「え……?」

対するハルは、小首をかしげている。

「いつも、美味しいご飯作ってくれるお礼。それに、そろそろ食料が切れそうだし、大きいショッピングモール行こう」

うん、我ながらいい提案な気がする。人というもの感謝の心を忘れてはいけない。……というのは、あくまでも建前で、本音を言えば、着飾ったハルを見てみたかったっていうのもある。

“どうかな?”とハルに言えば、少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに“マスターが言うなら”とどこか楽しそうに答えた。


♢ ♢ ♢


「いらっしゃいませ」

少し離れた大型ショッピングモール。店内に入ると女性の店員が、声をかけてきた。男性物の洋服店。男性物の洋服店なので、男性店員だとばかり思っていたので、今どきの男性物の洋服店は、女性の店員さんもいるんだなと認識を改めなければならないなと思う。

「何か、お探しですか?」

ここぞとばかりに、女性の店員が近づいてきた。一度、捕まるとなかなか離してくれない。しかも、「これ、新作なんですよ~!」と勧められれば、あまり好みでなくとも、無下にはできずに、ついつい買わされてしまう。そうならないためにも、先手必勝。

「今日は、色々見てみようと思いまして。何かあったら、また声をかけます」

失礼のないよう、とりあえずその場を収めるには、持って来いの決まり文句だ。ショッピングをゆっくりと楽しみたい人には、ぜひ使ってほしい。

「かしこまりました。また御用の際は、お申し付けください」

どうだ?してやったりだ。十中八九、こう言ってしまえば、余程のしつこい店員でない限り、こちらが声をかけるまで、話しかけてこない。私は、幾度となくこの言葉でくぐりぬけてきたのだから。心の中で、ガッツポーズをしていると、隣で、くすりと笑う声がした。

「……ん?どうしたの?」

わずかに見上げれば、ハルが口元を緩めていた。

「いや、マスター楽しそうだなって」
「楽しそう?」
「うん、したり顔っていうのかな。会心の一言だったんでしょ」
「え…?顔に出てた!?」

うわ、それは恥ずかしい。

「マスターって、すぐ顔に出るからね」
「……あまり言わないで」

いたたまれなさに思わず両手で顔を覆えば

「マスターのそういう素直なところ、俺はいいと思う」

ハルはまたくすりと笑い、そう答えた。
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