6 / 35
第二話 内緒のキャラメルラテ
scene6 カフェ
しおりを挟む
-透人-
「この間、すみませんでした」
月曜日、朝一で渡辺さんのところへ謝りに行った。
「いいよ、俺もちょっと飲ませすぎたなって反省してるし」
「いえ、自分が自己管理できていないせいで迷惑かけたので。何でもしますから、こき使ってください」
「え、まじ?こき使っていいの?」
渡辺さんの目が輝く。
やばい、余計なことを言った。
「なら昼休みにコーヒー買ってきてもらおっかな」
「コーヒーですね、分かりました」
そんな風に安請け合いしたのが間違いだった。
昼休みになると、渡辺さんは営業部の面々に、名木ちゃんがコーヒー買ってきてくれるぞーと触れ回った。
「まじで?じゃあ俺エクストラコーヒーモカチップフラペチーノ!」
「俺は抹茶フラペチーノにホワイトチョコチップ追加で」
「え、え?ちょっと待ってください、メモりますから!」
大慌てでメモ用紙を掴んでペンを構える。
聞いたことのない名前のフラペチーノやらソイミルク変更やら、訳が分からない要望を書き留めて急いで会社を飛び出した。
会社の二件隣のビル一階にある、有名チェーン店のカフェに入る。
「えっと、エクストラショット……何だっけ」
汚い字で走り書きした自分のメモが読めずに焦る。
すると、店員さんが俺のメモをちらりと覗いて困った顔をした。
「これ、うちで取り扱ってないものですね」
「はい?」
耳を疑う。店員さんは横断歩道の向こう側にある別のカフェを指し示した。
「あちらの店舗の……」
「分かりました、ありがとうございます!」
大慌てて店を飛び出した。急がないと昼休みが終わってしまう。
信号を渡り、さっきのチェーン店よりも落ち着いた雰囲気のカフェへ飛び込んだ。
「すいませんっ、あの……」
注文しようとして、固まった。
「あれ、名木ちゃん!」
桜色の髪が、ふわりと揺れた。
「あ……」
カウンターの中で笑っているのは、この間の。
「さく……あ、えっと……」
名札を見る。アルファベットで「Sakuya.M」と書かれているのが目に入った。
「さくや、だよ、桃瀬朔也。忘れちゃったの?名木ちゃん、ひどいなあ」
あははと笑う桃瀬さんの笑顔に、何故か胸が締め付けられた。
「あ、あの俺、コーヒー買わないといけなくてっ……」
不自然に高鳴った鼓動を誤魔化すようにメモに目を落とす。
「ええと、だーくも、もか……」
「貸して」
色白の手が伸びてきて、素早く俺の手元からメモを奪い取る。
「うわあ、カスタムばっか。新手の嫌がらせ?」
「違います。俺が渡辺さんに、何でもしますって言っちゃったから」
「また裕斗?しょうがないなあ、あいつ」
桃瀬さんは、慣れた手つきでメモを見ながらレジを打っていく。
「分かるんですか、そんなメモで」
走り書きしたから自分でも読めないのに。
「分かるよ、大体予想つくし」
はい、とメモを返してくれる。
「まさか名木ちゃんの奢りじゃないよね?」
「え、でも俺が払うしか……」
「まじー?」
財布を取り出してお会計を済ませると、桃瀬さんはあっという間に領収書を書いて、はい、と渡してくれた。
宛名は、うちの会社になっている。
「裕斗に渡してやりなよ。だめだよ、あんまりいい様に使われてたら」
「あ、ありがとうございます」
「座って待ってて。すぐ作る」
言われて、近くのテーブル席に腰掛けた。
知らず、ため息がこぼれてしまう。
「名木ちゃん、お昼は食べたの?」
コーヒーをドリップしながら桃瀬さんが聞いてくる。
「まだです、とにかくコーヒー買わなきゃって」
「可哀想に、またストレス溜まっちゃうね。せっかくこの間吐き出したばっかりなのに」
言われ、慶ちゃんに言われた事を思い出して青褪めた。
「桃瀬さん、ごめんなさい!俺そういえば、桃瀬さんに担がれて帰ってきたって……!」
「ああ、大丈夫だよ。名木ちゃんほとんど意識無かったから、ちょっと大変だったけどね」
「本当にすみません……」
項垂れる俺に、大丈夫だってば、と桃瀬さんは笑ってくれる。
「はい、お待たせ」
「ありがとうございます」
紙袋を二つ受け取り、桃瀬さんに頭を下げて急いで店を出た。
「この間、すみませんでした」
月曜日、朝一で渡辺さんのところへ謝りに行った。
「いいよ、俺もちょっと飲ませすぎたなって反省してるし」
「いえ、自分が自己管理できていないせいで迷惑かけたので。何でもしますから、こき使ってください」
「え、まじ?こき使っていいの?」
渡辺さんの目が輝く。
やばい、余計なことを言った。
「なら昼休みにコーヒー買ってきてもらおっかな」
「コーヒーですね、分かりました」
そんな風に安請け合いしたのが間違いだった。
昼休みになると、渡辺さんは営業部の面々に、名木ちゃんがコーヒー買ってきてくれるぞーと触れ回った。
「まじで?じゃあ俺エクストラコーヒーモカチップフラペチーノ!」
「俺は抹茶フラペチーノにホワイトチョコチップ追加で」
「え、え?ちょっと待ってください、メモりますから!」
大慌てでメモ用紙を掴んでペンを構える。
聞いたことのない名前のフラペチーノやらソイミルク変更やら、訳が分からない要望を書き留めて急いで会社を飛び出した。
会社の二件隣のビル一階にある、有名チェーン店のカフェに入る。
「えっと、エクストラショット……何だっけ」
汚い字で走り書きした自分のメモが読めずに焦る。
すると、店員さんが俺のメモをちらりと覗いて困った顔をした。
「これ、うちで取り扱ってないものですね」
「はい?」
耳を疑う。店員さんは横断歩道の向こう側にある別のカフェを指し示した。
「あちらの店舗の……」
「分かりました、ありがとうございます!」
大慌てて店を飛び出した。急がないと昼休みが終わってしまう。
信号を渡り、さっきのチェーン店よりも落ち着いた雰囲気のカフェへ飛び込んだ。
「すいませんっ、あの……」
注文しようとして、固まった。
「あれ、名木ちゃん!」
桜色の髪が、ふわりと揺れた。
「あ……」
カウンターの中で笑っているのは、この間の。
「さく……あ、えっと……」
名札を見る。アルファベットで「Sakuya.M」と書かれているのが目に入った。
「さくや、だよ、桃瀬朔也。忘れちゃったの?名木ちゃん、ひどいなあ」
あははと笑う桃瀬さんの笑顔に、何故か胸が締め付けられた。
「あ、あの俺、コーヒー買わないといけなくてっ……」
不自然に高鳴った鼓動を誤魔化すようにメモに目を落とす。
「ええと、だーくも、もか……」
「貸して」
色白の手が伸びてきて、素早く俺の手元からメモを奪い取る。
「うわあ、カスタムばっか。新手の嫌がらせ?」
「違います。俺が渡辺さんに、何でもしますって言っちゃったから」
「また裕斗?しょうがないなあ、あいつ」
桃瀬さんは、慣れた手つきでメモを見ながらレジを打っていく。
「分かるんですか、そんなメモで」
走り書きしたから自分でも読めないのに。
「分かるよ、大体予想つくし」
はい、とメモを返してくれる。
「まさか名木ちゃんの奢りじゃないよね?」
「え、でも俺が払うしか……」
「まじー?」
財布を取り出してお会計を済ませると、桃瀬さんはあっという間に領収書を書いて、はい、と渡してくれた。
宛名は、うちの会社になっている。
「裕斗に渡してやりなよ。だめだよ、あんまりいい様に使われてたら」
「あ、ありがとうございます」
「座って待ってて。すぐ作る」
言われて、近くのテーブル席に腰掛けた。
知らず、ため息がこぼれてしまう。
「名木ちゃん、お昼は食べたの?」
コーヒーをドリップしながら桃瀬さんが聞いてくる。
「まだです、とにかくコーヒー買わなきゃって」
「可哀想に、またストレス溜まっちゃうね。せっかくこの間吐き出したばっかりなのに」
言われ、慶ちゃんに言われた事を思い出して青褪めた。
「桃瀬さん、ごめんなさい!俺そういえば、桃瀬さんに担がれて帰ってきたって……!」
「ああ、大丈夫だよ。名木ちゃんほとんど意識無かったから、ちょっと大変だったけどね」
「本当にすみません……」
項垂れる俺に、大丈夫だってば、と桃瀬さんは笑ってくれる。
「はい、お待たせ」
「ありがとうございます」
紙袋を二つ受け取り、桃瀬さんに頭を下げて急いで店を出た。
12
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
想いの名残は淡雪に溶けて
叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。
そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる