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第四話 永遠なんてないから
scene10 定期検診
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ー朔也ー
心電図の音が、規則正しく響く。
「お疲れ様でした、楽にしてください」
この間からよく見かけるようになった、背の高い新人の看護師さんが検査の装置を外してくれる。
ベッドから起き上がってシャツのボタンを留めながら、隣で難しい顔をして心電図のデータを見ている白衣の幼馴染に声をかけた。
「悪いの?」
「いいわけないわな」
はあ、とため息をついて黒縁の眼鏡を掛け直しているのは、俺の主治医を父親から引き継いだばかりの世良貴之。幼稚園から中学まで一緒に通った幼馴染で、この総合病院の跡取り息子だ。専門は、心臓外科。
「何度も聞いてるけど、手術する気は?」
「んー……だって、成功確率は五分五分なんだろ?」
靴紐を結び直しながら、おざなりに答える。
「わざわざ自分で寿命縮めたくはないかなぁ」
「分かってるのか、桃瀬。このまま放っておいたら、いつどうなるか分からないんだぞ」
苛立ちを隠さない世良に、俺は苦笑を返すしかない。
「別に、今更どうかなったって構わないよ」
「あのなぁ……」
世良は無造作にセットされた前髪をぐしゃぐしゃとかき回すと、心電図のデータを机へ放った。
「まだ時間あるよな?」
「何ー、痛いのは嫌だよ?」
「冠動脈CTと採血する。片倉、検査室の手配」
はい、と返事をして、片倉と呼ばれた長身の看護師さんが院内PHSを手に診察室を出て行く。
「俺に拒否権は無いの?」
勝手に検査を追加された事を抗議すると、世良はこちらをじろりと睨んだ。
「充分拒否させてやってるだろ。手術受けないって言うんなら、せめて検査くらい素直に受けろ」
「それで異常が見つかったら無理やり入院させる材料にするんだろ」
「お前なあ……」
世良は、さっき机に放った心電図のデータを再び手に取る。
「ちゃんと薬飲んでるよな?」
「当たり前じゃん、苦しいのは嫌だし」
「無茶な事は、してないよな?」
世良の言う『無茶』の意味を理解している俺は、ため息混じりに笑ってみせる。
「してないって。あいつと別れたばっかりだし、そっち方面は、とんと御無沙汰」
「……頼むから、無茶はするなよ。そういう意味だけじゃなく」
真顔になった世良に黙って手を振り、診察室を出た。
心電図の音が、規則正しく響く。
「お疲れ様でした、楽にしてください」
この間からよく見かけるようになった、背の高い新人の看護師さんが検査の装置を外してくれる。
ベッドから起き上がってシャツのボタンを留めながら、隣で難しい顔をして心電図のデータを見ている白衣の幼馴染に声をかけた。
「悪いの?」
「いいわけないわな」
はあ、とため息をついて黒縁の眼鏡を掛け直しているのは、俺の主治医を父親から引き継いだばかりの世良貴之。幼稚園から中学まで一緒に通った幼馴染で、この総合病院の跡取り息子だ。専門は、心臓外科。
「何度も聞いてるけど、手術する気は?」
「んー……だって、成功確率は五分五分なんだろ?」
靴紐を結び直しながら、おざなりに答える。
「わざわざ自分で寿命縮めたくはないかなぁ」
「分かってるのか、桃瀬。このまま放っておいたら、いつどうなるか分からないんだぞ」
苛立ちを隠さない世良に、俺は苦笑を返すしかない。
「別に、今更どうかなったって構わないよ」
「あのなぁ……」
世良は無造作にセットされた前髪をぐしゃぐしゃとかき回すと、心電図のデータを机へ放った。
「まだ時間あるよな?」
「何ー、痛いのは嫌だよ?」
「冠動脈CTと採血する。片倉、検査室の手配」
はい、と返事をして、片倉と呼ばれた長身の看護師さんが院内PHSを手に診察室を出て行く。
「俺に拒否権は無いの?」
勝手に検査を追加された事を抗議すると、世良はこちらをじろりと睨んだ。
「充分拒否させてやってるだろ。手術受けないって言うんなら、せめて検査くらい素直に受けろ」
「それで異常が見つかったら無理やり入院させる材料にするんだろ」
「お前なあ……」
世良は、さっき机に放った心電図のデータを再び手に取る。
「ちゃんと薬飲んでるよな?」
「当たり前じゃん、苦しいのは嫌だし」
「無茶な事は、してないよな?」
世良の言う『無茶』の意味を理解している俺は、ため息混じりに笑ってみせる。
「してないって。あいつと別れたばっかりだし、そっち方面は、とんと御無沙汰」
「……頼むから、無茶はするなよ。そういう意味だけじゃなく」
真顔になった世良に黙って手を振り、診察室を出た。
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