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最初の事件
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三
地下室で有三がエアブラシでケーキのサンプルに色を付けている。
見事にケーキになっていくサンプル。
その横に小包が置かれて「来たわよ」と言う河西の声が続く。
有三の手が止まり、それを取って開けると人の顔が彫られたプラスチックが出て来る。
四
高山と島原が住宅街の通りで犬の写真を見せて帽子を被った細身の老婦人と小太りの老婦人に話を聞いている。
「小柄な柴犬で凄く可愛いいんです。何処かでお見かけになってないですか」
と高山が尋ねると帽子の老婦人が
「まあ可愛いお犬ちゃん、お見かけになった事あります」と小太りの老婦人に聞くと
「ちょっと、ないわねえ―」と答える小太りの老婦人。
「お忙しい所申し訳ありませんでした」と言う高山の言葉に
「見ての通り暇でしょうがないんだからお手伝いしたい位なんだけど―」
と言う帽子の老婦人の言葉に小太りの老婦人が
「足手纏いになるだけだからね」と追従する。
「いえいえ、本当に申し訳ありませんでした」と少し笑顔で返す高山。
横田と井江田が商店街の通りで犬の写真を見せてオバサンに話を聞いている。
「こんな何処にでも居そうな犬、見ても覚えてないわよ」
と言うオバサンの言葉に
「そうですよね―」
と答える横田と隣で笑顔を見せている井江田。
五(三時間後)
路上で高山と島原が犬の写真を見せて老人に話を聞いている。
頭を下げる高山と島原。
「今日はこの位にしとくか」
と島原に言ってからスマホを出して電話をする高山。
「横田、今日はこの位にしとこ。家に寄って欲しいって事なの、これから潤君の豪邸に戻るから横田達も来てくれる」と高山が言うと
「あっ、そうですか。判りました」と言う横田の声が返って来る。
「じゃあね」と言って電話を切る高山。
六
潤の家に向かって歩く高山と島原の長く伸びた影が一日の終りが近づいている事を示していたがその陰に響く
「マジ最高っすよ、本場のハンバーガーは肉食ってる感が凄いっんすよ」
と言う島原の声は疲れを知らない様だった・それに対して返って来る高山の声はそれなりである。
「そんな高いハンバーガー食うんならかつ亭のカツ丼食ってるわ」
「確かにあそこのって安くて旨いすよねーそれよりあの坊やの家のケーキめちゃウマらしいすよ」
「有名なパティシエらしいわ―」と言う高山の声を遮る様に
「ワン、ワン」と犬の吠える声がする。
顔を見合わせる高山と島原。
そして潤の立派な家と広い庭に通じる玄関の所にやって来た二人の目に庭に繋がれた犬の姿が入って来る。
七
潤の家の庭で犬とじぁれあっている高山の姿を島原が憮然とした顔で見つめている。
一方、横田と井江田も潤の家の近くまでやって来ていて何となく家の方に目をやっている井江田がいる。
その井江田がベランダにぽつんと一つ干してある枕を見て声を発する。
「何で枕干してんの」
「蒲団だけやなく枕も干す人が居てもええんちゃう」と言う横田の言葉に
「布団干してないですよ」と返す井江田。
横田もベランダの方に目をやっていてその光景に少しは引っ掛かった様で
「そおやなーでもベッドやろ、あの枕ダブルベッド用やない」と言う。
枕の方を見続けている井江田がその様子を写真に撮る。
それから目を外す井江田と横田の視界に庭で犬とじゃれあっている高山の姿が入って来る。
犬の写真を見て確認してから
「高山さん何やってんですか」と言う井江田。
その言葉で二人に気づいた高山が笑顔を見せて言う。
「ご苦労さん」
「ご苦労さんって―」と横田。
「馬鹿犬、勝手に戻って来てらっしゃたみたいよ」と島原が言うと
「ワンワン」と犬が島原に向かって吠える。
「ワンワン」と犬に吠え返す島原。
「馬鹿丸出しですね」と言う井江田の方を島原が睨むと玄関のドアが開き潤が出て来る。そして
「今日は本当に申し訳ありませんでした。お詫びと言ったら何ですけどお茶入れましたからケーキ一杯食べて帰って下さい」とあまり子供らしくない長めの言葉を発する。
「気を使わなくていいよ、大した事やってないんだから」と言う高山に
「何馬鹿な事言ってんの」と言う表情で食べる真似をする島原。
「もう用意してあるんです。食べてくれないとお父さんに怒られます」
と言う潤の言葉に、必死で食べる真似をする島原。
「じゃあ、戴きますか」と横田と井江田に向かって言う高山。
頷く横田と井江田に続いて島原も自分を自分で指差して頷いている。
八
広いリビングの大きなテーブルの上に数種類の見事なケーキとティーカップが並んでいる。
「戴いて下さい」と言う潤の言葉に高山達の「戴きまーす」と言う言葉が続きケーキにナイフが入っていく。
「ホント美味しいわ」と高山が言うと
「来た甲斐ありました」と井江田が続くがひたすら食い捲っている島原に横田が
「制限時間がある訳やないで」と言う。
「只々止まんないだけ―」とモグモグと返って来る言葉に呆れ顔で島原の方を見る他の三人だが、食べるのを止める訳ではない。
すると台所の方から母と思しき女の
「潤、ちょっと来て」と言う声が聞こえる。
何故か暗い台所に歩いて来た潤に顔を見せる女。
立ち上がって女の方を向いて
「ご馳走になってます」と頭を下げる高山。
横田と井江田も続いて頭を下げる。
遅れて島原も立ち上がって同様の事を言った様だが実際は口をモグモグさせただけだったし
「遠慮せずに戴いて下さい」
と言う言葉を女が発したがマスク越しの所為か実際はそう言う事を言ったと思えただけだった。
それ程、不思議なくらい不明瞭だった。
そして潤のミルクをダイニングテーブルに置いてリビングとは別室の造りの台所にその母と思しき女は消えて行って仕舞う。
ダイニングテーブルの上のミルクを取る潤だが少しの間。女が消えた台所の方を見つめてから高山達の方に戻って来る。
ケーキが綺麗に無くなったテーブルを高山達四人と潤が囲んでいる。
「甘過ぎないからいくらでも食べれますね」と横田が言う。続いて高山が
「そうね、ホントに綺麗に無くなったわね。半分以上食った島原のお蔭だけど―」と喋っていると
「本当に申し訳ありませんでした」と言う有三の声が割り込んで来る。そして姿を見せて
「潤の父の有三です」と笑顔で言う有三。
「マジ本当に旨かったです」と何故か島原が最速に反応すると高山が立ち上がって
「お忙しいと聞いていたので挨拶もしなくて―」と喋り出す。すると有三が座るように手で押さえて
「ゆっくりしていって下さい。私は今度フランスで行われるパティシエの大会に出る為の準備があるので失礼しますけど」と言う。
高山が「私達もー」と言う言葉を遮って
「この前のサッカーの試合のDVDでもお見せしたら」
と言う有三の言葉に無言で反応の無い潤。
足早に去って行く有三の方をチラッと見る潤だがそのまま去って行く有三に不快そうな表情を浮かべている。
「サッカーやってるんだ」と井江田。
頷く潤。
「上手なの」と横田。
「―そうでもないよ」と潤。
「そろそろ帰りましょう―」と珍しく場の雰囲気を読んだ発言を島原がすると横田がそれを踏みにじる。
「食うもん食ったらそれで終わりか、DVD見さして貰わへん」
「そやな、潤が上手いかどうか見てみよか」と高山が続いて駄目を押す。すると
「だから上手くないと言ってるでしょ」と言う言葉を落ち着かない様子の潤が吐く。
九
繁華街をショップの袋を持った小嶋と峯山がのんびりと歩いている。
「お茶でも飲んでく」と小嶋が言うと
「どっかよって行きますか」と峯山が答える。すると軽く頷く小嶋が何気に呟く。
「高山達、犬見つけたのかな」
「―どうでもいい仕事でしょ」
「なんかあの子供気になるの」
「糞ガキなだけっしょ」
と言う峯山の電話が鳴る。
十
リビングルームの大画面のテレビに潤がサッカーをやっている映像が映し出されていて、それを潤と高山達が見ているが高山だけは電話もしている。
映像は選手が入り込んでいる所を映していてどれが潤だか判らない様な感じである。
電話を切った高山が
「ケーキ買って来てくれれば事務所に戻って待ってるって」と言うと
「事務所に戻るって、小嶋さん達何処にいらっしゃるんですか」と横田。
「表参道歩いてるって」
「事務所の番ほったらかしてですか」
「そうなりますか―ケーキ買って帰る」
と言う高山の言葉に無言で少し高山の方に向けていた視線をテレビに戻す横田。
そのテレビでは潤が見事な足技を見せている所が映っている。
「上手いじゃない」と井江田。
落ち着きがない様子の潤は何も答えない。
十一
店舗になっている部分の奥まった所で有三が河西と小声で喋っている。
「馬鹿女子大生の集団、まだ居るの―」と河西が言うと頷いてから
「もう一度母親役やった方がよくないか、はっきり母親だとは言わなかったんだろ」と返す有三。
「また顔見せるなんて危険なだけ。バレるは、あんな面被ってたらまともに喋れねえんだから―」
「大丈夫かな―」
「多分、母親だと思ってるって」
「多分ー」
「ホント小心者のオヤジだな、少しは―」
河西に店の入り口の方を促す有三。
ドアが開いて高山達四人が入って来る。
有三を一瞥してからショーケースの方に歩いて行く河西。
ショーケースに綺麗に並べられたケーキに高山達四人が見入っている。
「なんか違くないですか、上のホールケーキと下の切り分けてあるのと―」と島原が言うと
「そう言われれば、そうね―」と高山が応える。
「上のはサンプルです、食べれませんよ」と言う河西の声がする。
ショーケースの後ろの河西の方を見る高山達。
隣には店員の木田の姿も見える。
「よく出来てますね」と言う横田に作り笑顔を見せる河西。
「これとこれとこれとこれ二つづつにしません」と島原。
「そんなに買ったらもう無くなって仕舞うわ」と高山。
「面倒なんで全部買い占めますか」と言う島原の言葉に呆れ顔の高山達だが、その耳に有三の
「言って貰えれば好きな物を包みますよ。もう皆さんを最後に店閉めさせて貰うんで」と言う声が聞こえて来る。
やって来た有三が河西に
「潤が頼んだ女子大生探偵の皆さんだから」と言うと少し驚いた様子を作って少し頭を下げる河西。
「いや、買わせて貰いますから」と高山が言うと
「他のメンバーからの要望があっての事ですから」とフォローする横田。
「このケーキの食品サンプルよく出来てますね、マジ旨そうです」と島原が言うと
「判りました―」と反応する有三。
「嫌、店員さんから伺いました」と河西の方を促して言う高山。
「良く出来てるでしょー、店員じゃなくてパティシエですけどね」と有三が言うと
「そうなんですか―」と言って軽く河西に会釈する高山。
河西も笑顔を作って少しだけ会釈する。
「季節商品とか色々あるでしょうからサンプル作られるの大変でしょうね」
と言う横田の言葉に有三が笑顔を作ってから答える。
「そうでもないんですよ、データを送ると3Dプリンターで作って直ぐに送ってくれる新興企業があるんですよ」
「何でも簡単に偽物が作れちゃうって事ですよね、今の世の中は―」と高山が言うと、有三が
「まあ、そうですね」と歯切れ悪く答える。その有三の方を少し見てから
「横田、選んでよ」と高山が言う。
少ししゃがみ込んでショーケースの方を見る横田。
「好きな物選んで貰って、後残った物はサービスしますよ」と言う有三の言葉に
「申し訳ありません」と割り込んできた島原の顔がケーキを選んでいる横田の顔に並んでくる。
その嬉しそうな島原の顔を見る横田。
壁に掛かっている時計は十八時二十分を指している。
十二
駅に着いた電車に高山達四人が乗り込んで行く。
「潤君のお父さんカッコ良かったですね」と井江田が後ろの島原に言うと
「確かにね ―、ケーキも旨かったし言う事ないわ」と島原、
「これからフランスなんですね、あたしも行きたいな」と続ける井江田に
「何でお前が―」と島原が言葉を吐くとドアが閉まる。
笑顔の井江田と島原は電車の中でも何やら喋っている様だが、高山と横田は無言で高山は何か思う所があると言った様子で横田は何か釈然としないと言う感じで立っている。
十三
地下室にある冷凍庫から手袋をした二組の手が冷凍食品を取り出している。
冷凍食品の下には氷が敷いてある。
それを掻き分ける手袋をした二組の手。
人の顔が現れて来る。
それは潤の母、美沙子の顔である。
地下室で有三がエアブラシでケーキのサンプルに色を付けている。
見事にケーキになっていくサンプル。
その横に小包が置かれて「来たわよ」と言う河西の声が続く。
有三の手が止まり、それを取って開けると人の顔が彫られたプラスチックが出て来る。
四
高山と島原が住宅街の通りで犬の写真を見せて帽子を被った細身の老婦人と小太りの老婦人に話を聞いている。
「小柄な柴犬で凄く可愛いいんです。何処かでお見かけになってないですか」
と高山が尋ねると帽子の老婦人が
「まあ可愛いお犬ちゃん、お見かけになった事あります」と小太りの老婦人に聞くと
「ちょっと、ないわねえ―」と答える小太りの老婦人。
「お忙しい所申し訳ありませんでした」と言う高山の言葉に
「見ての通り暇でしょうがないんだからお手伝いしたい位なんだけど―」
と言う帽子の老婦人の言葉に小太りの老婦人が
「足手纏いになるだけだからね」と追従する。
「いえいえ、本当に申し訳ありませんでした」と少し笑顔で返す高山。
横田と井江田が商店街の通りで犬の写真を見せてオバサンに話を聞いている。
「こんな何処にでも居そうな犬、見ても覚えてないわよ」
と言うオバサンの言葉に
「そうですよね―」
と答える横田と隣で笑顔を見せている井江田。
五(三時間後)
路上で高山と島原が犬の写真を見せて老人に話を聞いている。
頭を下げる高山と島原。
「今日はこの位にしとくか」
と島原に言ってからスマホを出して電話をする高山。
「横田、今日はこの位にしとこ。家に寄って欲しいって事なの、これから潤君の豪邸に戻るから横田達も来てくれる」と高山が言うと
「あっ、そうですか。判りました」と言う横田の声が返って来る。
「じゃあね」と言って電話を切る高山。
六
潤の家に向かって歩く高山と島原の長く伸びた影が一日の終りが近づいている事を示していたがその陰に響く
「マジ最高っすよ、本場のハンバーガーは肉食ってる感が凄いっんすよ」
と言う島原の声は疲れを知らない様だった・それに対して返って来る高山の声はそれなりである。
「そんな高いハンバーガー食うんならかつ亭のカツ丼食ってるわ」
「確かにあそこのって安くて旨いすよねーそれよりあの坊やの家のケーキめちゃウマらしいすよ」
「有名なパティシエらしいわ―」と言う高山の声を遮る様に
「ワン、ワン」と犬の吠える声がする。
顔を見合わせる高山と島原。
そして潤の立派な家と広い庭に通じる玄関の所にやって来た二人の目に庭に繋がれた犬の姿が入って来る。
七
潤の家の庭で犬とじぁれあっている高山の姿を島原が憮然とした顔で見つめている。
一方、横田と井江田も潤の家の近くまでやって来ていて何となく家の方に目をやっている井江田がいる。
その井江田がベランダにぽつんと一つ干してある枕を見て声を発する。
「何で枕干してんの」
「蒲団だけやなく枕も干す人が居てもええんちゃう」と言う横田の言葉に
「布団干してないですよ」と返す井江田。
横田もベランダの方に目をやっていてその光景に少しは引っ掛かった様で
「そおやなーでもベッドやろ、あの枕ダブルベッド用やない」と言う。
枕の方を見続けている井江田がその様子を写真に撮る。
それから目を外す井江田と横田の視界に庭で犬とじゃれあっている高山の姿が入って来る。
犬の写真を見て確認してから
「高山さん何やってんですか」と言う井江田。
その言葉で二人に気づいた高山が笑顔を見せて言う。
「ご苦労さん」
「ご苦労さんって―」と横田。
「馬鹿犬、勝手に戻って来てらっしゃたみたいよ」と島原が言うと
「ワンワン」と犬が島原に向かって吠える。
「ワンワン」と犬に吠え返す島原。
「馬鹿丸出しですね」と言う井江田の方を島原が睨むと玄関のドアが開き潤が出て来る。そして
「今日は本当に申し訳ありませんでした。お詫びと言ったら何ですけどお茶入れましたからケーキ一杯食べて帰って下さい」とあまり子供らしくない長めの言葉を発する。
「気を使わなくていいよ、大した事やってないんだから」と言う高山に
「何馬鹿な事言ってんの」と言う表情で食べる真似をする島原。
「もう用意してあるんです。食べてくれないとお父さんに怒られます」
と言う潤の言葉に、必死で食べる真似をする島原。
「じゃあ、戴きますか」と横田と井江田に向かって言う高山。
頷く横田と井江田に続いて島原も自分を自分で指差して頷いている。
八
広いリビングの大きなテーブルの上に数種類の見事なケーキとティーカップが並んでいる。
「戴いて下さい」と言う潤の言葉に高山達の「戴きまーす」と言う言葉が続きケーキにナイフが入っていく。
「ホント美味しいわ」と高山が言うと
「来た甲斐ありました」と井江田が続くがひたすら食い捲っている島原に横田が
「制限時間がある訳やないで」と言う。
「只々止まんないだけ―」とモグモグと返って来る言葉に呆れ顔で島原の方を見る他の三人だが、食べるのを止める訳ではない。
すると台所の方から母と思しき女の
「潤、ちょっと来て」と言う声が聞こえる。
何故か暗い台所に歩いて来た潤に顔を見せる女。
立ち上がって女の方を向いて
「ご馳走になってます」と頭を下げる高山。
横田と井江田も続いて頭を下げる。
遅れて島原も立ち上がって同様の事を言った様だが実際は口をモグモグさせただけだったし
「遠慮せずに戴いて下さい」
と言う言葉を女が発したがマスク越しの所為か実際はそう言う事を言ったと思えただけだった。
それ程、不思議なくらい不明瞭だった。
そして潤のミルクをダイニングテーブルに置いてリビングとは別室の造りの台所にその母と思しき女は消えて行って仕舞う。
ダイニングテーブルの上のミルクを取る潤だが少しの間。女が消えた台所の方を見つめてから高山達の方に戻って来る。
ケーキが綺麗に無くなったテーブルを高山達四人と潤が囲んでいる。
「甘過ぎないからいくらでも食べれますね」と横田が言う。続いて高山が
「そうね、ホントに綺麗に無くなったわね。半分以上食った島原のお蔭だけど―」と喋っていると
「本当に申し訳ありませんでした」と言う有三の声が割り込んで来る。そして姿を見せて
「潤の父の有三です」と笑顔で言う有三。
「マジ本当に旨かったです」と何故か島原が最速に反応すると高山が立ち上がって
「お忙しいと聞いていたので挨拶もしなくて―」と喋り出す。すると有三が座るように手で押さえて
「ゆっくりしていって下さい。私は今度フランスで行われるパティシエの大会に出る為の準備があるので失礼しますけど」と言う。
高山が「私達もー」と言う言葉を遮って
「この前のサッカーの試合のDVDでもお見せしたら」
と言う有三の言葉に無言で反応の無い潤。
足早に去って行く有三の方をチラッと見る潤だがそのまま去って行く有三に不快そうな表情を浮かべている。
「サッカーやってるんだ」と井江田。
頷く潤。
「上手なの」と横田。
「―そうでもないよ」と潤。
「そろそろ帰りましょう―」と珍しく場の雰囲気を読んだ発言を島原がすると横田がそれを踏みにじる。
「食うもん食ったらそれで終わりか、DVD見さして貰わへん」
「そやな、潤が上手いかどうか見てみよか」と高山が続いて駄目を押す。すると
「だから上手くないと言ってるでしょ」と言う言葉を落ち着かない様子の潤が吐く。
九
繁華街をショップの袋を持った小嶋と峯山がのんびりと歩いている。
「お茶でも飲んでく」と小嶋が言うと
「どっかよって行きますか」と峯山が答える。すると軽く頷く小嶋が何気に呟く。
「高山達、犬見つけたのかな」
「―どうでもいい仕事でしょ」
「なんかあの子供気になるの」
「糞ガキなだけっしょ」
と言う峯山の電話が鳴る。
十
リビングルームの大画面のテレビに潤がサッカーをやっている映像が映し出されていて、それを潤と高山達が見ているが高山だけは電話もしている。
映像は選手が入り込んでいる所を映していてどれが潤だか判らない様な感じである。
電話を切った高山が
「ケーキ買って来てくれれば事務所に戻って待ってるって」と言うと
「事務所に戻るって、小嶋さん達何処にいらっしゃるんですか」と横田。
「表参道歩いてるって」
「事務所の番ほったらかしてですか」
「そうなりますか―ケーキ買って帰る」
と言う高山の言葉に無言で少し高山の方に向けていた視線をテレビに戻す横田。
そのテレビでは潤が見事な足技を見せている所が映っている。
「上手いじゃない」と井江田。
落ち着きがない様子の潤は何も答えない。
十一
店舗になっている部分の奥まった所で有三が河西と小声で喋っている。
「馬鹿女子大生の集団、まだ居るの―」と河西が言うと頷いてから
「もう一度母親役やった方がよくないか、はっきり母親だとは言わなかったんだろ」と返す有三。
「また顔見せるなんて危険なだけ。バレるは、あんな面被ってたらまともに喋れねえんだから―」
「大丈夫かな―」
「多分、母親だと思ってるって」
「多分ー」
「ホント小心者のオヤジだな、少しは―」
河西に店の入り口の方を促す有三。
ドアが開いて高山達四人が入って来る。
有三を一瞥してからショーケースの方に歩いて行く河西。
ショーケースに綺麗に並べられたケーキに高山達四人が見入っている。
「なんか違くないですか、上のホールケーキと下の切り分けてあるのと―」と島原が言うと
「そう言われれば、そうね―」と高山が応える。
「上のはサンプルです、食べれませんよ」と言う河西の声がする。
ショーケースの後ろの河西の方を見る高山達。
隣には店員の木田の姿も見える。
「よく出来てますね」と言う横田に作り笑顔を見せる河西。
「これとこれとこれとこれ二つづつにしません」と島原。
「そんなに買ったらもう無くなって仕舞うわ」と高山。
「面倒なんで全部買い占めますか」と言う島原の言葉に呆れ顔の高山達だが、その耳に有三の
「言って貰えれば好きな物を包みますよ。もう皆さんを最後に店閉めさせて貰うんで」と言う声が聞こえて来る。
やって来た有三が河西に
「潤が頼んだ女子大生探偵の皆さんだから」と言うと少し驚いた様子を作って少し頭を下げる河西。
「いや、買わせて貰いますから」と高山が言うと
「他のメンバーからの要望があっての事ですから」とフォローする横田。
「このケーキの食品サンプルよく出来てますね、マジ旨そうです」と島原が言うと
「判りました―」と反応する有三。
「嫌、店員さんから伺いました」と河西の方を促して言う高山。
「良く出来てるでしょー、店員じゃなくてパティシエですけどね」と有三が言うと
「そうなんですか―」と言って軽く河西に会釈する高山。
河西も笑顔を作って少しだけ会釈する。
「季節商品とか色々あるでしょうからサンプル作られるの大変でしょうね」
と言う横田の言葉に有三が笑顔を作ってから答える。
「そうでもないんですよ、データを送ると3Dプリンターで作って直ぐに送ってくれる新興企業があるんですよ」
「何でも簡単に偽物が作れちゃうって事ですよね、今の世の中は―」と高山が言うと、有三が
「まあ、そうですね」と歯切れ悪く答える。その有三の方を少し見てから
「横田、選んでよ」と高山が言う。
少ししゃがみ込んでショーケースの方を見る横田。
「好きな物選んで貰って、後残った物はサービスしますよ」と言う有三の言葉に
「申し訳ありません」と割り込んできた島原の顔がケーキを選んでいる横田の顔に並んでくる。
その嬉しそうな島原の顔を見る横田。
壁に掛かっている時計は十八時二十分を指している。
十二
駅に着いた電車に高山達四人が乗り込んで行く。
「潤君のお父さんカッコ良かったですね」と井江田が後ろの島原に言うと
「確かにね ―、ケーキも旨かったし言う事ないわ」と島原、
「これからフランスなんですね、あたしも行きたいな」と続ける井江田に
「何でお前が―」と島原が言葉を吐くとドアが閉まる。
笑顔の井江田と島原は電車の中でも何やら喋っている様だが、高山と横田は無言で高山は何か思う所があると言った様子で横田は何か釈然としないと言う感じで立っている。
十三
地下室にある冷凍庫から手袋をした二組の手が冷凍食品を取り出している。
冷凍食品の下には氷が敷いてある。
それを掻き分ける手袋をした二組の手。
人の顔が現れて来る。
それは潤の母、美沙子の顔である。
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