婚約者の王子に追放されたら魔族の少年の餌になりました

睡眠不足

文字の大きさ
2 / 20

餌とは ◯

しおりを挟む
「何のためにって、それは」
「君を助けて何か得すること、あるの?」

 面食らってしまい、マトモな返答が出来ない。
 今この状況でヴィクトワールを助けて、この少年が得すること。
 まだ伸びきっていないのが分かる身長に細身の身体の彼が、恵まれた体格の五人もの騎士を相手に戦ってまで得られるものとは何か。
 父に言えば金品くらいは用意してくれるかもしれないが、そもそも彼が無事でいられる保証もない。

 黙りこくるヴィクトワールを不思議そうに見ながら少年は続ける。

「せっかく今から楽しいコトをするのに」
「は?」
「余計なことをしない方が君も嬉しいでしょ?」

 首を傾げながら訊く彼は本気でそう思っているらしい。

「楽しいのはこの男たちだけで、わたくしは全く楽しくも嬉しくもありませんわ!」

 百歩譲って、この中に想い人がいたとしても、こんな場所で複数人に輪姦されて喜ぶ女性はいないだろう。
 ヴィクトワールは必死に訴えた。

「あれ? そうなの? そう言えば『あくまでも想像の中だからもえる』って言ってたような……」

 意味不明なことを呟く彼は、じっと男たちを見る。

「確かにあまり楽しめないかもね。コイツら、体格の割に『お道具』はお粗末みたいだし」

 こういうの、粗チンって言うんだっけ? でも処女ならその方が辛くないか。だけど下手くそっぽいね。しかもこんな上玉なんて普段は相手してもらえないだろうから、三こすり半、いや、挿れる前に暴発かな? それじゃやっぱり快楽は与えられないよね。などと無邪気な顔で続ける少年。
 ヴィクトワールはよく分かっていないが、騎士たちは怒りに顔を染め上げる。

「好きにヤらせてエネルギーだけもらうつもりだったけど、『初物』みたいだし、思った以上に美味しそうだ。
 これは直接の方が良いかな」

 箱入り令嬢ヴィクトワールには意味不明なことを呟いていた少年は、彼女を見てにっこり笑う。

「君に選ばせてあげるよ。
 今ここでコイツらに好き放題ヤられて苦痛に喘ぐか、この先ずっと僕の餌になるかを」
「はい……?」

 早く選んで、時間は有限だとき立てる少年を前に戸惑いを隠せない。
 考えずとも、この場で騎士たちに手籠めにされるなんて死んでも嫌だ。そんな目に遭って、この先の人生を生きていけるとも思えない。

 ヴィクトワールは知らないが、純潔の彼女が、この場でマトモな前戯もなしに、複数人に乱暴に突っ込まれたなら。そんなことになった後に、肉体的にも生き延びられる保証はない。
 少なくとも、夜の森で朝まで持ちこたえる体力は残っていないだろう。

「餌、とは一体?」

 騎士を選ぶ気は更々ないが、餌という言葉も不穏だ。
 この先ずっとと言うからには、今すぐ殺されてどうこうではないだろうが、死ぬよりも苦しい目に遭うのは冗談じゃない。

「基本的には僕にお世話されて、君はエネルギーをくれると良いよ」
「エネルギー」

 意味が分からない。エネルギーとは生気のことだと聞いたことがある。それをどうやって渡すのか。
 いや、そもそも、それを欲するということは。

「貴方、人間ではないのですね」
「あれ? 今更? ただの人間が、こんな時間にこんなところを彷徨うろつかないでしょ?」

 言われなくてもそうだ。ヴィクトワールもおかしいとは思った筈。だが、その後に意味の分からない会話をしたせいで、そんなことは忘れていた。

「早く選んでくれないと、君を助けることは出来なくなるんだけど」
「そんなっ! こんな大事なこと、すぐに決められる筈ないでしょ!!」

 ヴィクトワールは理想的な令嬢と称される自分の仮面が剥がれ落ちるのを自覚している。だけど、もう取り繕っていられない。
 このような重大な局面での選択を、じっくり考える暇もなく迫られるなんて。お上品に振る舞っていられる筈もない。

 しかし彼の言う通り、騎士たちは臨戦態勢になっている。先ほどとは違う意味で。
 剣を抜こうとしている彼らを見た少年は、楽しそうにからかう。

「あれ? そっちの剣を出すの?
 まあ君たちの股間のモノは、剣と言うよりは小型のナイフだもんねえ」
「ふざけるなっ!!」

 煽られて思わず斬りつけた騎士を責めることは出来ない。
 そもそもこの場を目撃された時点で、消すことを考えるのは何もおかしくないことだ。たとえこの少年には、誰かに言うつもりがなかったとしても。
 しかも彼自身が人間ではないと宣言している。なら遠慮は要らない。

 だが斬りつけた先に誰もいなかったせいで、勢いよく向かった騎士は足がもつれている。

「消え……?」
「あーあ、メンドクサイ」

 心底どうでも良さそうな表情かおと声音で、少年が騎士の後ろ姿を眺めた瞬間、騎士の身体が崩れ落ちた。

「このクソガキ、一体何をした!?」
「何って、正当防衛でしょ? 強姦魔に殺されるなんて冗談じゃないからね」

 れっきとした騎士なのに犯罪者呼ばわりされて憤怒をあらわにする男たち。
 人は痛くもない腹を探られた時よりも、痛いところを突かれた時こそ怒り狂うことが多い。

「クソ、もうさっさとっちまえ!」
「えー? 僕、男にられる趣味なんてないよ」

 殺気立ってかかってくる騎士たちを顔色一つ変えずに躱す様は、彼がただ者ではないと知らしめるには充分だった。彼がその気になれば確実に助けてもらえるだろう。
 そしてこんな男たちに弄ばれるのだけは嫌だ。それくらいなら死んだ方がマシだとすら思う。
 ヴィクトワールは迷いを振り切って叫んだ。

「貴方の餌になるわ! だから私を助けて!!」

 その瞬間、周囲の空気が色を変える。
 肌を刺すような殺気がかき消え、甘く、それでいて爽やかな香りが周囲に漂う。
 そして男にしては華奢ではあるが、ヴィクトワールよりも遥かに力強い腕が腰に回される。
 更に肌に纏わりつく妖しい空気。ヴィクトワールにはこれが何か今ひとつ理解できないが、恐らく危険だと本能が告げる。

「離し」
「ダメだよ、君はもう選んだんだ。
 僕の餌として生きる道を」

 愉しげに目を細める少年に抗う間もなく唇を奪われ、意識が閉ざされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【完結】お父様(悪人顔・強面)似のウブな辺境伯令嬢は白い?結婚を望みます。

カヨワイさつき
恋愛
魔物討伐で功績を上げた男勝りの辺境伯の5女は、"子だねがない"とウワサがある王子と政略結婚結婚する事になってしまった。"3年間子ども出来なければ離縁出来る・白い結婚・夜の夫婦生活はダメ"と悪人顔で強面の父(愛妻家で子煩悩)と約束した。だが婚姻後、初夜で……。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

処理中です...