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序章 転生先は寄せ植えの世界
ヘンプロープからパルースへ
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明くる朝、前日の夜と同じく塩気の無い豆の汁と乾パンを食べたソーヤはカナパに言われるまま村のもう一つの出入り口へと向かった。
「荷物は全部積んだね? くれぐれも野盗には気を付けな!」
荷車の列の先陣を切るのは威勢の良い中年女性。彼女には半分折れた様な犬の耳が有る。
彼女に続く荷車は五台、ソーヤはその最後尾で山積みにされた箱を引いていた。箱の中に詰まっているのは緩衝材に使われる詰草で、内容物よりも外箱の方が重い。
「うわっ」
地面の湿度が高くなってきた辺りで、ソーヤの弾く荷車の車輪は泥濘に取られてしまった。
「手伝うよ」
彼の後に続いていた少年が荷車を押す。
「せーのっ!」
荷車の推し引きを何度か繰り返したところで漸く少年の押し込みとソーヤの勢いが合致し、車輪は泥濘を脱する。
「さ、急ご」
少年はソーヤに先んじて車列を追いかけ、ソーヤは少年を追いかけた。
出発から二時間を超えた頃、ソーヤは湿度が高く車輪と相性の悪い地面が少しだけ固まっている事に気付く。顔を上げると、それまでは鬱蒼としていた森の景色が少し変わり、左手の向こうに集落らしきものが見える。
「そっちはペリスの村。革鞣しの工場が沢山有るんだよ。でも、ハツのシチューの方が僕は好きだけど」
退屈しのぎの様に、少年はその村について語る。
「あと、ペリスの村にはたくさんの豚が居るんだ。湿った土でお芋を育てて、それを餌にしてるとか。だけど、気を付けないと悪い魔術師がやってきて、豚を怖いゴブリンにしてしまう。だから、ペリスの村にはなかなか入らせてくれないんだ」
「そうなんだ。それで、ペリスの村っていうのは、ヘンプロープよりも大きい?」
「そうだなぁ……入口にしか行った事はないけど、多分ウチの村よりは広いんじゃないかな。豚もたくさんいたけど、牛や馬もたくさんいるから、小屋が沢山有ったし、お肉屋さんが沢山有ったよ。お店屋さんの並んでいる所には、沢山の商人が来るから、お店屋さんのところだけは入れるんだ。でも、ソーセージは重いから、運ぶの大変だったよ。美味しいから、みんな喜んでくれるし、僕も大好きなんだけど」
地面が少し固まっていると気付いてから暫く、出発から三時間になろうかという頃、一行は何処かの街の入り口に到着していた。
「クアド、アンタは其処の青果屋に荷物を持って行きな」
「はーい」
ソーヤと話していた少年は背負っていたに籠の中身を青果店へと卸に行き、荷車の一行は女性に続いて荷物置き場へと向かう。
「ヘンプロープのバントよ、ご依頼の緩衝材、持ってきたわ」
事務所らしい小屋から一人の女性が姿を現した。荷車を先導していたバントと並ぶとひどく華奢で、威勢のいいバントに圧倒されてしまいそうな様子だった。
「悪いけど、箱を開けたいの、そっちで詰め替えてくれる?」
「それは無理です。私しかいません」
「それは困るわ。こっちは無い箱をかき集めて持ってきたのよ? いいから、さっさとやりなさいよ」
「無理です。出来ません」
「アンタねえ」
「無理な物は無理です。麻袋なら其処に有ります」
「ちょっと、此処まで運ばせておいてまだ仕事させる気? こっちにも休憩ってモノが」
「だったら、この前渡した木箱代はどうしたんですか。詰草用の箱、買ってないんですか? そもそもこんな大仰な木箱に入れなくてもいい様にって依頼主から受け取ってましたよね?」
詰められ、バントは黙り込む。
「お金に困ってるっていうならこっちで働き口を探せばいいじゃないですか。幾ら獣人だからって、年端も行かない息子まで働かせるくらいなら、こっちに来ればいいんです。とにかく、詰め替えはしません。箱が要るなら袋詰めをして、こっちの荷台に積んでから戻って下さい」
バントは舌打ちし、荷物置き場に戻る。
「さあ、休んでないで仕事だよ! 其処の麻袋に箱の中身を詰め直しな。葉っぱ一枚残すんじゃないよ!」
「荷物は全部積んだね? くれぐれも野盗には気を付けな!」
荷車の列の先陣を切るのは威勢の良い中年女性。彼女には半分折れた様な犬の耳が有る。
彼女に続く荷車は五台、ソーヤはその最後尾で山積みにされた箱を引いていた。箱の中に詰まっているのは緩衝材に使われる詰草で、内容物よりも外箱の方が重い。
「うわっ」
地面の湿度が高くなってきた辺りで、ソーヤの弾く荷車の車輪は泥濘に取られてしまった。
「手伝うよ」
彼の後に続いていた少年が荷車を押す。
「せーのっ!」
荷車の推し引きを何度か繰り返したところで漸く少年の押し込みとソーヤの勢いが合致し、車輪は泥濘を脱する。
「さ、急ご」
少年はソーヤに先んじて車列を追いかけ、ソーヤは少年を追いかけた。
出発から二時間を超えた頃、ソーヤは湿度が高く車輪と相性の悪い地面が少しだけ固まっている事に気付く。顔を上げると、それまでは鬱蒼としていた森の景色が少し変わり、左手の向こうに集落らしきものが見える。
「そっちはペリスの村。革鞣しの工場が沢山有るんだよ。でも、ハツのシチューの方が僕は好きだけど」
退屈しのぎの様に、少年はその村について語る。
「あと、ペリスの村にはたくさんの豚が居るんだ。湿った土でお芋を育てて、それを餌にしてるとか。だけど、気を付けないと悪い魔術師がやってきて、豚を怖いゴブリンにしてしまう。だから、ペリスの村にはなかなか入らせてくれないんだ」
「そうなんだ。それで、ペリスの村っていうのは、ヘンプロープよりも大きい?」
「そうだなぁ……入口にしか行った事はないけど、多分ウチの村よりは広いんじゃないかな。豚もたくさんいたけど、牛や馬もたくさんいるから、小屋が沢山有ったし、お肉屋さんが沢山有ったよ。お店屋さんの並んでいる所には、沢山の商人が来るから、お店屋さんのところだけは入れるんだ。でも、ソーセージは重いから、運ぶの大変だったよ。美味しいから、みんな喜んでくれるし、僕も大好きなんだけど」
地面が少し固まっていると気付いてから暫く、出発から三時間になろうかという頃、一行は何処かの街の入り口に到着していた。
「クアド、アンタは其処の青果屋に荷物を持って行きな」
「はーい」
ソーヤと話していた少年は背負っていたに籠の中身を青果店へと卸に行き、荷車の一行は女性に続いて荷物置き場へと向かう。
「ヘンプロープのバントよ、ご依頼の緩衝材、持ってきたわ」
事務所らしい小屋から一人の女性が姿を現した。荷車を先導していたバントと並ぶとひどく華奢で、威勢のいいバントに圧倒されてしまいそうな様子だった。
「悪いけど、箱を開けたいの、そっちで詰め替えてくれる?」
「それは無理です。私しかいません」
「それは困るわ。こっちは無い箱をかき集めて持ってきたのよ? いいから、さっさとやりなさいよ」
「無理です。出来ません」
「アンタねえ」
「無理な物は無理です。麻袋なら其処に有ります」
「ちょっと、此処まで運ばせておいてまだ仕事させる気? こっちにも休憩ってモノが」
「だったら、この前渡した木箱代はどうしたんですか。詰草用の箱、買ってないんですか? そもそもこんな大仰な木箱に入れなくてもいい様にって依頼主から受け取ってましたよね?」
詰められ、バントは黙り込む。
「お金に困ってるっていうならこっちで働き口を探せばいいじゃないですか。幾ら獣人だからって、年端も行かない息子まで働かせるくらいなら、こっちに来ればいいんです。とにかく、詰め替えはしません。箱が要るなら袋詰めをして、こっちの荷台に積んでから戻って下さい」
バントは舌打ちし、荷物置き場に戻る。
「さあ、休んでないで仕事だよ! 其処の麻袋に箱の中身を詰め直しな。葉っぱ一枚残すんじゃないよ!」
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