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序章 転生先は寄せ植えの世界
異世界転生、大変すぎ。だけど……
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(はぁ……異世界転生、大変すぎ……)
街道の商店街の合間には、石畳の整備された空き地が点在する。本来は火災の延焼を抑える目的で設けられている空間だったが、荷車を引いた荷役夫が休憩を取る場所としても整備されている。
ソーヤもその休憩所に腰を下ろし、薬問屋から駄賃として受け取ったパンを齧った。
(うぅ、空腹にハーブ味は、ちょっと辛いかも……)
薬問屋が試作品に作っていたのは、水分量の少ない固めのパン生地に香味野菜と薬草を練り込んだ物。滋養強壮の効果は有るが、全くの空腹状態に陥っていたソーヤには随分と刺激の強い代物だった。
(ま、水飲み場は有るし……)
パンを齧りながら時折水飲み場で水分を含み、束の間の休息を終えたソーヤは再び歩き出した。
(水筒みたいな物が欲しいな……後、財布も無いし、早くまともな暮らしがしたい……)
太陽が少し傾いた昼下がり、ソーヤは荷車を持って元居た小屋に戻った。
「あ、お帰りー」
小屋の前で金髪の男はブーツの泥を流していた。
「お疲れ様です」
「荷車は小屋に置いとけばいいよ。あ、日当預かってるから、ちょっと待ってて」
「え」
金髪の男は雑に手を拭くと、腰のポーチから封蝋で固めた一枚の紙を出す。
「紙は支払い証明書、中にお金が有るよ。後、紹介状、貰っておいてって」
「え、あ、はい」
戸惑いながらもソーヤは職業紹介所で貰った紹介状を金髪の男に渡した。
「……あのー、雇い主のおばあさんは」
「タンポポ取りに行ってるし、天気もいいから向こうでご飯食べてるんじゃないかな」
「はぁ……」
「あ、そうだ、其処の机の包みにオフラが有るから持って帰って。タンポポのソテー挟んでるよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
硫酸紙に包まれていたのは、小さくない丸パンだった。
「俺の事もばあさんの事も気にしなくていいから、先に帰ってて」
「は、はい……お先に失礼します」
金髪の男は刈り取ったセリを洗いに水場へと向かう。ソーヤは形式的に頭を下げ、来た道を引き返して安宿街を目指した。
食事に困ることはなさそうだと、水飲み場のある宿を取ったソーヤは部屋の中でオフラの包みを開いた。
(オフラって、サンドイッチの事なんだ……中はタンポポのソテー、すぐに腐る事は無いだろうし、半分は朝ごはんだね)
安宿には辛うじて簀子と籠が備え付けられていたが、布団や机は無い。荷物の無いソーヤは籠をひっくり返して机にし、オフラを置いた。
(そうだ、お金は……)
「うわぁ」
日特を確かめようと畳まれた紙を止める封蝋を開けたところ、中から出てきたのは五枚の銀銅貨だった。
(多分、銅貨は百円くらいの価値だから……これは、千円くらい? つまり五千円? 最低でも五日分の宿賃かぁ……これからまだ仕事もするし、だいぶ助かる。あ、待てよ、お金が有るって事は、財布になるもの買わなくちゃ。次の仕事が見つかったら、財布買おうっと)
老婆は得体の知れない不気味な人物で、金髪の男も老婆とどういう間柄か分からず、それどころか名前すらも分らずじまいであったが、暫く分の生活費が入った事でソーヤは満足していた。
その後に齧ったオフラがあまり美味ではなかったとしても。
街道の商店街の合間には、石畳の整備された空き地が点在する。本来は火災の延焼を抑える目的で設けられている空間だったが、荷車を引いた荷役夫が休憩を取る場所としても整備されている。
ソーヤもその休憩所に腰を下ろし、薬問屋から駄賃として受け取ったパンを齧った。
(うぅ、空腹にハーブ味は、ちょっと辛いかも……)
薬問屋が試作品に作っていたのは、水分量の少ない固めのパン生地に香味野菜と薬草を練り込んだ物。滋養強壮の効果は有るが、全くの空腹状態に陥っていたソーヤには随分と刺激の強い代物だった。
(ま、水飲み場は有るし……)
パンを齧りながら時折水飲み場で水分を含み、束の間の休息を終えたソーヤは再び歩き出した。
(水筒みたいな物が欲しいな……後、財布も無いし、早くまともな暮らしがしたい……)
太陽が少し傾いた昼下がり、ソーヤは荷車を持って元居た小屋に戻った。
「あ、お帰りー」
小屋の前で金髪の男はブーツの泥を流していた。
「お疲れ様です」
「荷車は小屋に置いとけばいいよ。あ、日当預かってるから、ちょっと待ってて」
「え」
金髪の男は雑に手を拭くと、腰のポーチから封蝋で固めた一枚の紙を出す。
「紙は支払い証明書、中にお金が有るよ。後、紹介状、貰っておいてって」
「え、あ、はい」
戸惑いながらもソーヤは職業紹介所で貰った紹介状を金髪の男に渡した。
「……あのー、雇い主のおばあさんは」
「タンポポ取りに行ってるし、天気もいいから向こうでご飯食べてるんじゃないかな」
「はぁ……」
「あ、そうだ、其処の机の包みにオフラが有るから持って帰って。タンポポのソテー挟んでるよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
硫酸紙に包まれていたのは、小さくない丸パンだった。
「俺の事もばあさんの事も気にしなくていいから、先に帰ってて」
「は、はい……お先に失礼します」
金髪の男は刈り取ったセリを洗いに水場へと向かう。ソーヤは形式的に頭を下げ、来た道を引き返して安宿街を目指した。
食事に困ることはなさそうだと、水飲み場のある宿を取ったソーヤは部屋の中でオフラの包みを開いた。
(オフラって、サンドイッチの事なんだ……中はタンポポのソテー、すぐに腐る事は無いだろうし、半分は朝ごはんだね)
安宿には辛うじて簀子と籠が備え付けられていたが、布団や机は無い。荷物の無いソーヤは籠をひっくり返して机にし、オフラを置いた。
(そうだ、お金は……)
「うわぁ」
日特を確かめようと畳まれた紙を止める封蝋を開けたところ、中から出てきたのは五枚の銀銅貨だった。
(多分、銅貨は百円くらいの価値だから……これは、千円くらい? つまり五千円? 最低でも五日分の宿賃かぁ……これからまだ仕事もするし、だいぶ助かる。あ、待てよ、お金が有るって事は、財布になるもの買わなくちゃ。次の仕事が見つかったら、財布買おうっと)
老婆は得体の知れない不気味な人物で、金髪の男も老婆とどういう間柄か分からず、それどころか名前すらも分らずじまいであったが、暫く分の生活費が入った事でソーヤは満足していた。
その後に齧ったオフラがあまり美味ではなかったとしても。
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