幻想世界の配達人 ~転生者だけど地図内蔵のチーターです~

詩方夢那

文字の大きさ
9 / 23
序章 転生先は寄せ植えの世界

異世界転生、大変すぎ。だけど……

しおりを挟む
(はぁ……異世界転生、大変すぎ……)
 街道の商店街の合間には、石畳の整備された空き地が点在する。本来は火災の延焼を抑える目的で設けられている空間だったが、荷車を引いた荷役夫が休憩を取る場所としても整備されている。
 ソーヤもその休憩所に腰を下ろし、薬問屋から駄賃として受け取ったパンを齧った。
(うぅ、空腹にハーブ味は、ちょっと辛いかも……)
 薬問屋が試作品に作っていたのは、水分量の少ない固めのパン生地に香味野菜と薬草を練り込んだ物。滋養強壮の効果は有るが、全くの空腹状態に陥っていたソーヤには随分と刺激の強い代物だった。
(ま、水飲み場は有るし……)
 パンを齧りながら時折水飲み場で水分を含み、束の間の休息を終えたソーヤは再び歩き出した。
(水筒みたいな物が欲しいな……後、財布も無いし、早くまともな暮らしがしたい……)
 太陽が少し傾いた昼下がり、ソーヤは荷車を持って元居た小屋に戻った。
「あ、お帰りー」
 小屋の前で金髪の男はブーツの泥を流していた。
「お疲れ様です」
「荷車は小屋に置いとけばいいよ。あ、日当預かってるから、ちょっと待ってて」
「え」
 金髪の男は雑に手を拭くと、腰のポーチから封蝋で固めた一枚の紙を出す。
「紙は支払い証明書、中にお金が有るよ。後、紹介状、貰っておいてって」
「え、あ、はい」
 戸惑いながらもソーヤは職業紹介所で貰った紹介状を金髪の男に渡した。
「……あのー、雇い主のおばあさんは」
「タンポポ取りに行ってるし、天気もいいから向こうでご飯食べてるんじゃないかな」
「はぁ……」
「あ、そうだ、其処の机の包みにオフラが有るから持って帰って。タンポポのソテー挟んでるよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
 硫酸紙に包まれていたのは、小さくない丸パンだった。
「俺の事もばあさんの事も気にしなくていいから、先に帰ってて」
「は、はい……お先に失礼します」
 金髪の男は刈り取ったセリを洗いに水場へと向かう。ソーヤは形式的に頭を下げ、来た道を引き返して安宿街を目指した。
 食事に困ることはなさそうだと、水飲み場のある宿を取ったソーヤは部屋の中でオフラの包みを開いた。
(オフラって、サンドイッチの事なんだ……中はタンポポのソテー、すぐに腐る事は無いだろうし、半分は朝ごはんだね)
 安宿には辛うじて簀子と籠が備え付けられていたが、布団や机は無い。荷物の無いソーヤは籠をひっくり返して机にし、オフラを置いた。
(そうだ、お金は……)
「うわぁ」
 日特を確かめようと畳まれた紙を止める封蝋を開けたところ、中から出てきたのは五枚の銀銅貨だった。
(多分、銅貨は百円くらいの価値だから……これは、千円くらい? つまり五千円? 最低でも五日分の宿賃かぁ……これからまだ仕事もするし、だいぶ助かる。あ、待てよ、お金が有るって事は、財布になるもの買わなくちゃ。次の仕事が見つかったら、財布買おうっと)
 老婆は得体の知れない不気味な人物で、金髪の男も老婆とどういう間柄か分からず、それどころか名前すらも分らずじまいであったが、暫く分の生活費が入った事でソーヤは満足していた。
 その後に齧ったオフラがあまり美味ではなかったとしても。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...