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前編
しおりを挟むまるで月の妖精と吟われたプリース伯爵家のラフィルとディーテル伯爵家次期当主のロバートの結婚初夜にそれは起こったーー
こじんまりとして落ち着いた部屋で眠りについていると……ノックもなしに突然、彼が訪ねてきた。
「フッ!失礼するよ。突然だが君を愛することはできない」
……はあ
「私には心に決めた方がいるのだっ」
「はぁ」
なぜか前髪を振り回し、ものすごく芝居臭い動きをしていますね。若干鬱陶しいです。
「だが、彼女との間に私の子供は望めないのだ……いや、望むことすらおこがましい。だから君が産んでくれないか?その努力はしよう」
「はぁ?」
なんなんでしょうか、この展開は……結婚の準備で疲れ果てたわたしの貴重な眠りを妨げてまですることなのかしら?
枕のひとつでも目の前の男に投げつけてやろうかしら……
「ってなるよなぁー」
ええ、それよりもノックもなしに突然部屋にはいってこられては困るんですけど。
「でも、旦那様はさぁ……それやっちまったんだよー。新婚初夜の若奥様に」
「……あほなんですか」
あ、申し遅れました。わたしディーテル伯爵家で働いております。フィラと申します。
ちなみに旦那様の物真似をして、貴重な眠りを妨げたのはわたしの遠縁の親戚であり幼なじみのグリスです。
あ、大事なので2度言いましたよ?わたし睡眠大好きなので。
「でさー、若奥様ってさちょっと変わり者っていう噂あったの覚えてるか?」
ああ、帰らないんですね。あと2時間は寝れたはずなのに……仕方ありません。切り替えましょう。
「……ええ」
そういう噂もありましたねぇ。
「どうも噂は真実だったみたいで旦那様の発言聞いてさ、よろこんで事情聴取しはじめたの……」
「え?……というかなんでグリスそんなこと知っているんです?」
「あー……使用人たちで残りもん食いつつ酒盛りを……な?」
「ということは、使用人たちの半数がこの騒ぎを知ってるってことっ!?大事になるのではっ」
「と思うだろ?ここからが若奥様の噂の本領発揮ってわけさ」
グリス曰く……若奥様はその発言を聞いてぽかんとした後、おもむろに旦那様を椅子に座らせ光魔法でまばゆい光を出しおもいっきり顔のそばによせて『吐けー!すべてまるっと吐いてしまえー!田舎のお袋さんが悲しむぞー』ってやりだしたらしい。
この辺りで酒盛り中だった使用人たちは何事かと野次馬と化したとか……
若奥様……単なる噂ではなかったんですね。
貴族のご令嬢は「君を愛すことはできない」といわれたら、そんな反応しませんもの。
んー、それにしても田舎のお袋さんとは?別宅の大奥様のことかしら?
「それって現在進行形なのですか?」
「うん」
「もうすぐ朝になりますけど?」
「俺たちも最初は止めようとしたけど、若奥様は目がキラッキラしててめっちゃ楽しそうでさー……なんか止めるのも忍びなくなってさ」
『これぞまさに取り調べっ!ふふふ。刑事さんみたい。やってみたかったのよねー!』って良く分からない単語を混ぜながら尋問してるらしい。旦那様はキャパオーバーでされるがままなんだって……
たしかにあの美しいお顔をキラキラさせていたら止めづらいわね。さすが(黙っていれば)月の妖精と吟われた若奥様だわ。
ちなみに若奥様の変わり者エピソードは……遠駆けしたとき、急に思い立ったらしく侍女相手に草原で背中合わせに5歩いて振り返ってかわった形の手を突き出してバーンッて言うとか、初めて会ったたお友達に互いの人差し指どうしをくっつけてご挨拶してみたりとか……そういう嘘かまことかわからない噂が腐るほどあり、貴族のご令嬢としてはかなり突飛なようだ。
尾びれや背びれがついた噂だと思っていたけど、なんとなく噂のほとんどが本当だった気がしてきたわ。
それさえなければ学園での成績も優秀で卒業されたし、顔はもちろん心もきれいな引く手あまたな方なんだけど……それを凌駕する変人ぶりだったようだ。
「若奥様についてらした侍女は?野次馬まで集まったら流石に止めるなり、野次馬を追い払おうとするのでは?」
「あー、こうなると満足するまで止まりませんのでって諦めてたよ」
若奥様を知り尽くしているからその反応なのかしら……
「執事のサバス様は?」
「これでいい薬になるでしょう……だってさ!それに最初の『フッ!失礼するよ。突然だが君を愛することはできない~私には心に決めた方がいるのだっ』はサバス様が動作までしっかり教えてくれたぜ!」
うわぁ、サバス様が率先して広めてるじゃないですか……多分、ご当主様か大奥様に旦那様がやらかしたらお灸を据えてやりなさいとでも指示されていたのだろうな。
旦那様も緊張のあまりそんな話し方になったんでしょうけど、知らない人が聞いたらナルシストで嫌なやつみたいですよね。まぁ、美男子なのでグリスよりは前髪ファサッの仕草も似合っていたのでしょう。
「とりあえずこんな面白……大事件をフィラに教えないわけにいかねぇと思って、知らせに来たんだぜ!」
「確かにおもし……興味深いけど、わたしの睡眠が!」
「これでもぎりぎりの許容範囲になるまで待ったんだぞ……あとが怖いし」
確かにあと5分早かったら飛び蹴りの刑でしたね。
あ、わたしが普段から暴力的だとは勘違いしないでいただきたい。どうも睡眠が足りないと目覚めたとき……誰かに起こされたときは特に強襲かと条件反射で攻撃を繰り出す癖があるんですよ……多分、幼い頃の訓練のせいですね。
「それにしても、旦那様も順序を飛ばして話すからややこしいことになったのでは?」
「だよなぁ」
「しかも新婚初夜にそれ言うとか……デリカシーがないです。そういうのは事前に話しておくのが最低限の礼儀ってもんですよ」
「うんうん。若奥様じゃなきゃどうなっていたことか……」
え?不敬ですって?他家に聞かれなければいいよーってご当主様お墨付きですよ!
うーん……若奥様でなければ家どうしのゴタゴタになる可能性もあるし、歪曲された噂が広がって信用がた落ちもあり得ましたかね。もしくはご自分も愛人を家に引き込むとか……
あ、ディーテル伯爵家の使用人はかなり忠誠度高めなのでそこから漏れる心配は少ないですね。野次馬にはなっちゃうんですけどね……
「まあ、そろそろ誤解もとけたはずですし」
「うん。全部ペロッと吐いただろうなー」
旦那様がディーテル伯爵家の契約竜のレファルテ様に夢中だってことが……つまり、『突然だが君を(レファルテ殿より)愛することはできない。だから(契約竜に夢中でもいいなら)君が産んでくれないか?その(よい家族になれる)努力はしよう』って感じに言いたかったと思うんですけど……圧倒的に言葉が足りないですよね……大方テンパったんでしょう。
そもそも『だが、彼女との間に私の子供は望めないのだ……いや、望むことすらおこがましい』って何ですかね?はぁ……ここは、レファルテ様への敬愛が溢れたってことで目をつむりましょう……そうしないと旦那様を見る目が変わってしまいそうなので。
仕方ありません。大分早いですが身支度を整えましょうか……そして、サバス様に物真似を見せていただきましょう!
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