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第6章
71.呪われた少女と美味しい魔物(2)
荷車を頑張って引いてギルドへ向かう……公認だと裏口から荷車で直接買い取りへ持ち込めるんだっけ。何気にギルドの裏口使うの初めてなんだけどね。
トントンーー
「おう、来たな」
「あれ、マルガスさん……なんで?」
「もうそろそろ来る時期だろうと思ってたら、さっき冒険者が言ってたんだよ。お前が荷車必死こいて引いてたから手伝おうかと声をかけようと思ったけど、キラーバードの威圧に負けたってな」
「……はぁ」
そのブランが荷車に乗ってたから余計に重かったんですけどね。本人的にはリディのブラッドベアを盗られないように威嚇してたんじゃないかな……私のためなんてことはないよ、うん。
「そうですか……こちらはリディとリディの従魔のブランです」
「ん、はじめまして」
「おう、知ってるぞ」
「なんでですか?」
「そりゃ、この街じゃ従魔は滅多にいないから目立つし、エナが後見人なんだから把握してて当然だろ」
確かに……そうかも。
「そうですか。今日はリディたちも一緒でお願いします。あと、荷車のなかを見ても驚かないでくださいね……」
「はあ、お前珍しく荷車で来たかと思えばまたなんかやらかしたのかよ」
いえ、今回は私じゃないんですよね……
通路もギリギリ通れる広さで荷車ごと部屋へ案内された。まぁ、そういう設計なんだろう。いつもより大きくて違う部屋だけど……配置は大体一緒だ。
「じゃ、さっそく本題に入ります」
「おう」
「今日はポーションの納品とブランの羽の買い取り……と、ブラッドベアの買い取りをお願いします」
「……はぁ?」
やばいっ。マルガスさんの眉間のシワが……かつてないほど深くなっているっ。
急いで荷車のカバーを外して……
「それから、今回のブラッドベアはなわばり争いかなんかで弱っていたところをリディとブランが倒したそうなんですが……年齢的に討伐にはならないですよね?」
「ちょっと待て! 本当にこの嬢ちゃんと従魔が倒したってのか」
おーおー、ブランがめっちゃ威嚇してる。マルガスさんには全く効いてないけど……
「ん、私が熊の気を逸らしてブランが頑張った」
「だそうです……ほら、ブラッドベアの眉間に穴があるでしょう」
「……確かに」
マルガスさんは深いため息をついたまま固まってしまった。きっと頭の中で色々と整理してるんだろう。
では、お茶でも入れて待ってますかな……お茶を飲みつつ荷車に乗らなかった残りのポーションを台に並べていると
「はぁ……エナ。悪いがこれはサブマス案件だ」
「やっぱりそうなります?」
「ああ、呼んでくるから待ってろ」
「はい」
マルガスさんは早足で出て行ってしまった。
「リディ、今からくるサブマスは突拍子もないこと言うけどあんまり本気にしなくていいし、嫌だったらハッキリ言わないと伝わらないからね。あと、扉をバーンて開けて人が驚くのを楽しんでる節があるから気をつけて」
「ん……」
これくらい予防線を張っておけば、リディも心の準備ができるだろう。
バーンッ!!
「やあ、エナくん……メリンダに聞いたよ!これまた厄介な家を買ったんだってね」
「はぁ……」
「おや、そっちは噂のお嬢さんとその従魔だね」
「ん、はじめまして。リディ……こっちはブラン」
「はぁ、サブマス。とりあえずさっきの件を」
「そうだったね。んー、2人ともギルドカードを見せてくれるかな?」
「はい」
サブマスはリディと私から受けとったギルドカードをチェックしている。
「んー……残念だけどやっぱり討伐記録が残ってないなぁ」
「そんなことあるんですか?」
「うん、後見人がいる場合そっちに記録が残ることもあるんだけどこっちもないし……あ、別にリディくんと従魔が倒したのを疑ってる訳じゃないからね?」
「っていうかエナ、お前また討伐記録増えてんじゃねぇか!」
「えっ、そうでしたっけ?」
んー、あの時の足元から飛び出して来てびっくりして攻撃したワームかな?それとも木の上から落ちて来て思わず攻撃した蛇かな……あ、でもアント系の魔物はよく遭遇してるしなぁ……なるべく攻撃しないようにしてるんだけどなぁ。
「お前……ワームにポイズンスネーク、ヒュージアントにキラーアント……素材は?」
「あ、ありますっ。魔核以外はいりませんので!」
「はぁ……」
「ねえ、話を戻してもいいかな?」
「ん、別に記録なくてもいい……」
「そうなの? え、じゃあ買い取りだけでもいいの」
「ん、私は別に……ブランも食えないものはいらないって」
食えないものって……食いしん坊みたいな理由だな。
「あ、ブラッドベアのお肉はこっちで使いますので……魔核以外の素材の買い取りをしてほしいんですけど……」
「わかった。マルガス鑑定よろしく」
「ああ」
サブマスはニコニコとご機嫌だ。
「そういえば、以前カーラさんに尋ねていたリディの口座の件なんですけど……」
「あー、それね。いいよ!開設してあげる」
「ほんとですか?」
「うん、ブラッドベアのお肉を少し分けてくれるなら」
あちゃー、この人ブラッドベアのお肉の美味しさを知ってるんだわ。
「リディ、サブマスに分けてもいい?」
「ん、エナが買ったんだから好きにしていい」
それを聞いていたマルガスさんまで
「できれば俺にも少し分けてほしい」
「リディ……どうしよっか」
「……ブランが買い取りに色をつけるならって言ってる」
いやいや、ブランさんどこでそんなこと覚えたの?
「すまん、それはできない。肉を買い取るってのはどうだろうか」
「ん……私はそれでもいい」
「じゃあ、1キロ小銀貨2枚で」
「それはっ、安すぎないかっ?」
「えー、嫌ならいいです」
「……それで頼む」
まあ、3メートルから5メートルにもなるブラッドベアから取れるお肉だから1キロぐらいならいいかなって……
「ただし、他の人に言いふらしちゃダメですよ! 私たちの分がなくなっちゃうので」
「……わかった」
マルガスさんはなんだか嬉しそうに鑑定へ戻った。
「じゃ、僕もちゃっちゃと口座開設しちゃうねー」
「あ、お願いします」
「……口座?」
「リディごめん、勝手に話を進めちゃって。口座っていうのはギルドにお金を預けて好きな時に引き出せるんだけど……ほら、ブランの持てるお金にも限度があるし、大金になると持ち歩くのも不安でしょう」
「ん……」
「もちろん口座に預けたくないなら、それでもいいし作っておいて損はないと思うの」
「ん、わかった。口座、作る」
ブランは自分がいくらでも持つって言ってるみたいだけど、ブランのソレはマジックバッグじゃないから容量に限りがあるんですよ。
「はい、できたよー。受付でギルドカードを出せばいつでも出し入れできるからねー。あと、後見人も被後見人の口座にお金を入れたり出したりできるようになってるから」
「へえ……」
「くれぐれも悪用はしないように」
「いや、しませんから!」
さっそく、ブランが気を逸らしているうちにサブマスにリディ貯金を口座に入れてもらった。
ちょっと耳打ちしただけでこの連携プレーすごいよね。
「鑑定が終わったぞ……少し傷が多いから全部で銀貨8枚と小銀貨7枚ってとこだな」
「ん、それでいい……銀貨5枚は口座に入れて」
「わかった。エナの方はいつも通りだったぞ……素材の代金はどうする?」
「はい。じゃあ、私も金貨は口座に入れてください」
「わかった。ちょっと待ってろ」
リディは残りのお金をブランのリュックと自分の巾着に分けていた。
その間にサブマスとマルガスさんのお肉を取り出す……けど
「なんか、入れ物あります?」
「うん、ほらちゃんと皿を用意した僕ってすごいよね。ほら、マルガスもこれでいいよね」
「ああ……」
なんだか高そうなお皿の上に生肉……いいのかな? 私、しーらない。
「では、また……」
「おう、気をつけてな」
「はい」
「ん」
さて、ギルドへ納品を済ませたし、代金も受け取ったから……頭の中でやることを確認する。次は肝心の料理人のところへ行かないとっ。
「リディ、行こっか」
「……ん」
軽くなった荷車を引きながら向かうのは……もちろん『黄金の羊亭』だ。
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