27 / 28
野営と精霊石 編
幕間 氷雷のルルース
しおりを挟む私たちの可愛い娘アルティアが非常に不愉快な状況下にいると聞きつけ乗り込んだ王城ーー
娘の手前、大人しくしていたけれど、正直すぐにでも第2王子と落ち人とやらをぶちのめしたかった。手足の1本や2本くらいいいじゃない。
散々頼み込まれてこの国に留まったにも関わらずこんなことになるなんてがっかりだわ。
辺境伯の婚約者(仮)っていうのを了解したのだってこれ以上ティアをこの王都にいさせたくなかったから。
何をするにも王都より辺境のほうが目立たずにすむ。「グレッグは研究バカだけどわるい子じゃないものね」その気持ちは本当だ。
ここの王族たちより、よっぽど素直でわきまえているわ……娘が気に入ればいいけど、そうでなかった時に私達が動きやすいのもポイントが高いけど。
ふふ。これでひと安心とでも思ったら大間違いよ。
友人より家族をとるのなんて当然でしょう?
息子のために他人の子を犠牲にしていたあなた達に文句なんて言わせない。
「まぁ、あとはアルティア次第ってとこだな?」
「そうね。アルティアはどうしたい?」
「私は……辺境は危険がある分、聖女が行けば喜ばれるみたいですし……辺境はかつての落ち人が残したレシピで独自に進化した料理がたくさんあるそうですし、ゴタゴタしそうな王都より楽しそうですから行ってみるのもありかなーって」
「「そう……」」
アルティアが聖女をお役御免になって楽しそうだし、美味しいもの巡りの旅行をしたいと言っているからそちらを優先するだけよ。
「じゃあ、俺たちも拠点はあっちに移すわ」
「……そ、そうか」
駄目なんて言わせないわよ。反論は笑顔で封殺していく。王族?不敬?それが何だというの。私達を喜んで受け入れる国は数多あるのよ。
今となってはこの国に留まる理由は娘のみになってしまったもの……信頼回復には時間がかかるものよ。まずは問題をすべて解決してからよ。
娘には荷物をまとめておくように言って送り出し……ここからは大人の時間。
瞬く間に部屋の空気が張り詰めた。
「アルティアが納得しているから今日は引き下がるけどこれが最後の警告よ」
「わ、わかっておる」
「言っとくけどお前らが子どもを大事に思うように俺らだってアルティアを大事に思ってんだぞ」
「そうよ。人様の大事な愛娘、さんざんこき使ってこれで済むと思わないでね」
次に何かあったら、多分私はこの城くらい吹き飛ばしてしまうでしょうね。娘が望むなら本当に辺境伯領を独立させることだって厭わない。
「ええ、最大限譲歩してもらっていると理解しています」
「落ち人関連の調査書類はこちらにもしっかり共有してもらうぞ」
「ああ」
「それと、クズールだっけ?あの家にはそっちの処罰とは別にこっちはこっちで報復はさせてもらうから」
「……ああ」
王家に関してはひとまず保留……クズール侯爵家には報復を進めておく。
これからクズール侯爵領から冒険者が減りそれに敏感な商人も減り、領民すらも少しずついなくなっていき一気に税収が下がったり……とある深夜にクズール侯爵家の屋敷周辺に突然地割れが起きたりするがそれは報復の一部に過ぎないのだ。
その後、合流したアルティアは少しくらい傷ついているかと心配したものの、全く気にしていないみたい。
それよりも食べ歩きに目をキラキラさせて可愛い。神殿の皆に手紙や結界石まで残していくなんてなんていい子……もう少し自分本位になってもいいのに。
何をするのも新鮮なようでアルティアが望むことはなんでもさせてあげたい。
ただ、あの子が髪の毛を切ろうとした時は強硬に止めたわ!私がこれからたくさん飾ってあげるんだから!
冒険者ギルドで冒険者登録を済ませ、ベルガーが持ってきた最低限の防具を買ったけれど……どこかで魔物の調達が必要かもしれない。
息子達に用意させてもいいかも……そのあたりはアルフレッドがやってくれるみたいなので私は久しぶりの親子水入らずの時間を過ごし、必要な用事も済ませ無事王都を脱出した。
◆ ◆ ◆
私達にはない発想で驚かされることもあるけど、やはり娘との旅行は楽しいわ。
少し興が乗って魔物をたくさん狩りすぎちゃったけど……ま、いいわよね。
家族水入らずの野営なんてどれぐらい振りかしら……
きっとティアは精霊石を探しに行くでしょうからあのへんの魔物をさっさと狩ってしまいましょう!子どもでも倒せる魔物はそのままでもいいわよね!
ある程度魔力は節約していたけど、あとは野営だけだからかなり余裕がある。スピード重視で魔法も併用していくつもり。
氷槍で貫きどんどんとマジックバックへいれる。こんな使い方するとあの人が怒るけど、娘のためだもの仕方ないわ。
それに氷槍にしておけば魔物の劣化も防げるし。
あらかた魔物を狩ったので移動して血抜きをし、素材や食料に振り分ける。
あとは何度か地面を殴り大きな穴をあけ、埋めておく。
「もっと、強い魔物いないかしらねぇ……このあたりの魔物弱すぎて手応えがないわ」
とはいえ娘にはそこそこ脅威なのだけどね。あの子の安全のためにももっと鍛えてあげなくちゃ。どこかちょうどいい場所あったかしら……
「うーん……ティアはお肉はオークがいいかしらボアがいいかしら」
このあたりじゃあそれぐらいしか魅力的な食料がいないのよね……あら?
「やだ、美味しそうなのはっけーん!」
はるか上空を飛んでいた魔物は危機を感じる暇もなく狩人とかしたルルースに刈り取られた。
「ふふ、これならティアも喜ぶはず!」
道中、大きな精霊石も見つけたので娘にあげようと適当に拾っておく。
「鳥肉ゲットしたわよー!」
「おぉ、これならスープにしても出汁が出てうまそうだな!」
……それ鳥肉でなくヴィシャスバードだぞ!この場にギルマスがいたらそう突っ込むことだろう。
ヴィシャスバードとは羽を広げたら6メートルはあるBランクの魔物で人を餌としか見てないヤバいヤツ……目をつけられたらどこまでも追いかけ死なない程度に痛めつけ絶望する姿を楽しんでいるとまで言われる魔物である。
なぜそんな凶悪な魔物がBランクかといえばヴィシャスバードは真下に潜り込めれば容易に討伐できるからである。
ヴィシャスバードの腹部は柔らかく非常に攻撃が通りやすい。そして飛行中視野外の真下は警戒を疎かにしがちなのだ。
それにはヴィシャスバードに見つかる前に真下に移動し攻撃する必要があるが誰かが囮になればできないことではない。
隙があるというのはランクが低くなる要因にもなる。
「あ、この羽根……なにかに使えるかしら」
「そうだな……まぁ、ちょっと弱い魔物だけどな」
「この辺りじゃ仕方ないわよ。後で仕分け手伝ってね」
「はいよー」
やはり、Sランクは規模が違う。
「そういえばあの子達から返事きてたわよ『ダンジョン脱出後合流予定』ですって」
「ん?これルルースが送ったやつか?」
「ええ、その履歴ね」
「『アルティア、辺境へ。食いだおれの旅合流求む。』って場所書いてないぞ?」
「あー、魔力ケチったのよね。あの子達なら大丈夫かなーって」
魔力使いすぎると疲れるんだもの。ポーションも美味しくないし自然回復は即効性がないし……
「まあ、マリスあたりが見当つけるだろうけど」
「え、じゃあ一応目的地送っとくわ」
えーっと『第1目的地ラウナード子爵領なり。早く来るべし』よし、これでいいわね!
「ただいまー!」
「おかえり」
◆ ◆ ◆
「ポインッ!」
ポイン!と鳴くからポーちゃんと娘に安易に名付けられたこの子……ほんとに聖なる魔物なのかしら?娘が連れて戻ってきた時は驚いた。
しかも、聖痕よ?聖魔法で魔物に聖痕が浮かぶなんてあり得ると思う?
娘は「なんかパニックで聖魔法使ったらこうなったんだよー」ってのん気にしていたけど、かなり大事なのよ。
面倒だからさっさと討伐したかったけれど、聖痕があるし神罰が下ったら面倒だ。
あのまま、神殿に留まっていたら娘が大聖女になっていたかも……そう思うと大聖女候補者が蔑ろにされていても無反応なくせに、聖痕がある魔物を討伐したくらいで神罰落としてくるのはどういう神経?って思っちゃうのよね。
神罰は雷が多いって話だけど、私も雷魔法は得意なのよ……あら、もしかして神罰の振りして雷を落としてもバレないかしら?
あの時も……私たちの国がなくなった時も……あちらは遅すぎた。
はぁ、あちらの考えなんて私たちに理解できるものではないのでしょうね。だって、この世界を作った神々だもの。
きっと、私は大聖女候補の親だからこそ見逃されている部分もあるのでしょう……めんどくさい。
「ポイン?」
まぁ、害意はないみたいだし様子見かしらね……あら、気が利くわね。なかなかいい座りごこちだわ。
「あら、マッサージまでしてくれるの?」
「ポインッ!」
そうね、なにか悪いことしようとしたら殺さない程度に根性を叩き直せばいいかしら……あら、なんだか疲れが癒されているわ。
「もしかして、ポーちゃんがやったの?」
「ポイン?」
聖痕があると癒しの力が使えるなんてこと……まさかね。
「できたぞー」
「わーい」
ま、いいわ。今はご飯よ!
◆ ◆ ◆
娘にプレゼントされて忘れかけていたけどやはり違う気がする……何か違和感がある。
「ねぇ、あなた」
「な、なんだ?」
「ティアの前髪だけど」
「えぇ、俺は知らないぞっ!火付けようとして前髪焦がして必死に治癒魔法とポーションで治したのなんか知らないぞっ!」
「……ヒヒーン」
「……ブルルル」
「ポインッ?」
そう。そうだったのね……髪にも治癒魔法やポーションって効くのね?
アルティアが恐れていたことに母が気付いた。
髪質がツヤツヤサラサラにも出来る可能性を……早々に母に髪のための研究につきあわされることとなり、前髪も元通りになるのはすぐそこの未来だ。
19
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。
黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!
わたくしを追い出した王太子殿下が、一年後に謝罪に来ました
柚木ゆず
ファンタジー
より優秀な力を持つ聖女が現れたことによってお払い箱と言われ、その結果すべてを失ってしまった元聖女アンブル。そんな彼女は古い友人である男爵令息ドファールに救われ隣国で幸せに暮らしていたのですが、ある日突然祖国の王太子ザルースが――アンブルを邪険にした人間のひとりが、アンブルの目の前に現れたのでした。
「アンブル、あの時は本当にすまなかった。謝罪とお詫びをさせて欲しいんだ」
現在体調の影響でしっかりとしたお礼(お返事)ができないため、最新の投稿作以外の感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
神龍の巫女 ~聖女としてがんばってた私が突然、追放されました~ 嫌がらせでリストラ → でも隣国でステキな王子様と出会ったんだ
マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
恋愛
聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアは、しかしある日突然、公爵令嬢バーバラの嫌がらせでリストラされてしまう。
さらに国まで追放されたクレアは、失意の中、隣国ブリスタニア王国へと旅立った。
旅の途中で魔獣キングウルフに襲われたクレアは、助けに入った第3王子ライオネル・ブリスタニアと運命的な出会いを果たす。
「ふぇぇ!? わたしこれからどうなっちゃうの!?」
幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね
柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』
王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる