6 / 24
治療。
しおりを挟む
そこにはゴホゴホと咳き込む父の姿があった。
「大丈夫? 父さん。今日は女神の花を摘んで来たんだよ。これを煎じて飲めばきっと良くなるから」
ベッドまで駆けつけて父の背中をさすりながらそういうマキナに、
「すまない、マキナ。とうさんはもうダメかもしれないよ」
咳き込みながらそう弱々しく話す父。
「そんな、ああそうだ、今日はお客さんを連れてきたんだよ。医術の心得があるらしいんだ」
そう言って後ろを振り返った。
「ごめん、君のこと紹介もしてなくて」
「ううん。だいじょうぶ。私はマリアンヌと言います。これでも以前教会の手伝いをしていた事があるのですこしは医術の心得があるんですよ。どうかお父様の様子を観させてくださいな」
マリアンヌがそう丁寧に会釈をしながら話すと、マキナの母親も「お願いします」というように奥に通してくれた。
白銀の髪を揺らしゆったりとベッドに近づくその姿に、マキナも、そして彼の両親さえも、女神のような神々しい姿を想い浮かべていた。
#####################
これは……、身体中の臓器が傷んでる。栄養の不足、ね。
村八分が原因で新鮮なお野菜が不足していた事が原因かしら。お父様はきっと足りないお野菜は奥様や息子さんにと、ご自分はお肉ばかりを食べていたのかしら?
そうで無くても偏食が原因なのだろうというのはわかるけど。
ままよ。
まずは治療。
後のことはそれからだわ。
あたしは両手のてのひらをお父さんの体にかざして。
魂のゲートからマナを放出する。
金色の粒子が全身に吸い込まれるように入っていくと、その身体中に再生の魔法を行使した。
表面だけの治療じゃない、体の奥底から本来の細胞の働きを取り戻していく。
この人本来のマトリクスを、そのまま今の傷んだ身体と置き換えるように再生する。
そんな、命の魔法。
再生が行われていたのはほんの数刻。
次第に彼の顔に生気が戻ってくるのがわかった。
############################
「おお……神よ……」
「奇跡だわ……」
金色の光に包まれ次第に顔色が良くなっていく父、レヒト。
「やっぱり、女神さまだ……」
両親の感嘆の声に思わずそう口走っていたマキナは、知らず知らず目の前に両手を掲げ手のひらを合わせ指を組み合わせ眼前のその少女に向かって祈りを捧げていた。
「気分はどうかしら?」
「ああ、信じられないくらいに体が軽くなりました。ありがとうございます、神よ」
「ちょっと待ってくださいな。あたしは神さまじゃありません。これはただの回復魔法ですよ!」
「いえ、これほどの御業、正教会でも見たことはありません。こんな身体の中からまるで生まれ変わったように感じる回復魔法などあるのでしょうか?」
「あるのよ! だからね、そんなに驚かないで」
もう、と困ったように声を漏らすマリアンヌに、レヒトも妻もひたすら感謝の言葉を伝えるのだった。
☆☆☆☆☆
夜も更けて。
結局あたしは晩御飯もご馳走になってそのままマキナのおうちにお泊まりさせてもらうこととなった。
お父様(レヒトさま)にもお母様(カクヤさま)にも神様みたいに思われて困惑したあたし、兎にも角にも思いっきり否定しておいたけどそれでもすごく感謝されて。
「さあ、どんどん食べていってくださいな」
妻のカクヤが袖を捲って料理を運んでくるのをマリアンヌは少し困惑するように見つめていた。
(せっかくお料理を振る舞ってくれるというのだもの、断れないわ)
そうは思うもののそれでなくともマキナ一家はそう裕福な状態でないことはわかっているし、自分がそんなにもご馳走してもらうことに罪悪感もある。
「ああ、でも」
そういえば、と、思い出した。
「そういえばお父様のご病気は栄養不足が原因だと思われましたよ? 身体の中の栄養素が長年不足した時におこる症状が出ていましたもの。これからはなるべく偏食はやめて、お野菜も摂ってくださいね?」
と、かわいく叱るように話すマリアンヌ。
「そうだよ。父さんは肉しか食わないからだめだ」
「そうね。お野菜、なんとか増やしましょうね」
「ああ、気をつけるよ」
本当は妻や子に食べさせたくて自分は残していたのだろうというのはわかる。
でも、それではせっかくこうして治った身体もまたダメになってしまう。
それは避けたかった。
でも。
(もう心配はいらないかも、ね)
こうして仲良く家族で食事をしている景色を眺めながら、マリアンヌの胸は温かい気持ちでいっぱいになっていた。
(お野菜を自給自足できるようになればいいのだけれど)
庭を見ても地面は岩盤でとても植物が育つような環境ではなかった。
土も、水も、足りない。
やはりこの村八分の状態をなんとかしなければいけないのかもしれない。
そう思いながら。
用意してもらった寝床のお布団に潜り込んで、マリアンヌは何かいい方法は無いかと考えているうち。
いつのまにか眠りに落ちていた。
風が少し強めに吹いているのか。ガタガタと揺れる外壁の音が響いていた。
「大丈夫? 父さん。今日は女神の花を摘んで来たんだよ。これを煎じて飲めばきっと良くなるから」
ベッドまで駆けつけて父の背中をさすりながらそういうマキナに、
「すまない、マキナ。とうさんはもうダメかもしれないよ」
咳き込みながらそう弱々しく話す父。
「そんな、ああそうだ、今日はお客さんを連れてきたんだよ。医術の心得があるらしいんだ」
そう言って後ろを振り返った。
「ごめん、君のこと紹介もしてなくて」
「ううん。だいじょうぶ。私はマリアンヌと言います。これでも以前教会の手伝いをしていた事があるのですこしは医術の心得があるんですよ。どうかお父様の様子を観させてくださいな」
マリアンヌがそう丁寧に会釈をしながら話すと、マキナの母親も「お願いします」というように奥に通してくれた。
白銀の髪を揺らしゆったりとベッドに近づくその姿に、マキナも、そして彼の両親さえも、女神のような神々しい姿を想い浮かべていた。
#####################
これは……、身体中の臓器が傷んでる。栄養の不足、ね。
村八分が原因で新鮮なお野菜が不足していた事が原因かしら。お父様はきっと足りないお野菜は奥様や息子さんにと、ご自分はお肉ばかりを食べていたのかしら?
そうで無くても偏食が原因なのだろうというのはわかるけど。
ままよ。
まずは治療。
後のことはそれからだわ。
あたしは両手のてのひらをお父さんの体にかざして。
魂のゲートからマナを放出する。
金色の粒子が全身に吸い込まれるように入っていくと、その身体中に再生の魔法を行使した。
表面だけの治療じゃない、体の奥底から本来の細胞の働きを取り戻していく。
この人本来のマトリクスを、そのまま今の傷んだ身体と置き換えるように再生する。
そんな、命の魔法。
再生が行われていたのはほんの数刻。
次第に彼の顔に生気が戻ってくるのがわかった。
############################
「おお……神よ……」
「奇跡だわ……」
金色の光に包まれ次第に顔色が良くなっていく父、レヒト。
「やっぱり、女神さまだ……」
両親の感嘆の声に思わずそう口走っていたマキナは、知らず知らず目の前に両手を掲げ手のひらを合わせ指を組み合わせ眼前のその少女に向かって祈りを捧げていた。
「気分はどうかしら?」
「ああ、信じられないくらいに体が軽くなりました。ありがとうございます、神よ」
「ちょっと待ってくださいな。あたしは神さまじゃありません。これはただの回復魔法ですよ!」
「いえ、これほどの御業、正教会でも見たことはありません。こんな身体の中からまるで生まれ変わったように感じる回復魔法などあるのでしょうか?」
「あるのよ! だからね、そんなに驚かないで」
もう、と困ったように声を漏らすマリアンヌに、レヒトも妻もひたすら感謝の言葉を伝えるのだった。
☆☆☆☆☆
夜も更けて。
結局あたしは晩御飯もご馳走になってそのままマキナのおうちにお泊まりさせてもらうこととなった。
お父様(レヒトさま)にもお母様(カクヤさま)にも神様みたいに思われて困惑したあたし、兎にも角にも思いっきり否定しておいたけどそれでもすごく感謝されて。
「さあ、どんどん食べていってくださいな」
妻のカクヤが袖を捲って料理を運んでくるのをマリアンヌは少し困惑するように見つめていた。
(せっかくお料理を振る舞ってくれるというのだもの、断れないわ)
そうは思うもののそれでなくともマキナ一家はそう裕福な状態でないことはわかっているし、自分がそんなにもご馳走してもらうことに罪悪感もある。
「ああ、でも」
そういえば、と、思い出した。
「そういえばお父様のご病気は栄養不足が原因だと思われましたよ? 身体の中の栄養素が長年不足した時におこる症状が出ていましたもの。これからはなるべく偏食はやめて、お野菜も摂ってくださいね?」
と、かわいく叱るように話すマリアンヌ。
「そうだよ。父さんは肉しか食わないからだめだ」
「そうね。お野菜、なんとか増やしましょうね」
「ああ、気をつけるよ」
本当は妻や子に食べさせたくて自分は残していたのだろうというのはわかる。
でも、それではせっかくこうして治った身体もまたダメになってしまう。
それは避けたかった。
でも。
(もう心配はいらないかも、ね)
こうして仲良く家族で食事をしている景色を眺めながら、マリアンヌの胸は温かい気持ちでいっぱいになっていた。
(お野菜を自給自足できるようになればいいのだけれど)
庭を見ても地面は岩盤でとても植物が育つような環境ではなかった。
土も、水も、足りない。
やはりこの村八分の状態をなんとかしなければいけないのかもしれない。
そう思いながら。
用意してもらった寝床のお布団に潜り込んで、マリアンヌは何かいい方法は無いかと考えているうち。
いつのまにか眠りに落ちていた。
風が少し強めに吹いているのか。ガタガタと揺れる外壁の音が響いていた。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。
梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。
16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。
卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。
破り捨てられた婚約証書。
破られたことで切れてしまった絆。
それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。
痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。
フェンリエッタの行方は…
王道ざまぁ予定です
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる