聖女追放。

友坂 悠

文字の大きさ
15 / 24

魔王石。

しおりを挟む

 一つ心配なのはマキナのこと。

 この町に来てからと言うものマキナはあたしの心配ばかりして自分のしたいことやりたいことそういったことを見つけられずにいる?
 もう半分あたしのボディガードな感じで常に周囲に気を配ってくれているんだけど、それではね。

「ねえマキナ、あなたも何かお仕事とか探してみる?」
 あたしはそうやんわり話してみたんだけど、
「ああ、もうちょっとしたら考えてみるよ」
 ってそう言うだけで。

 うん。
 どうしよっかな。
 このままじゃあまりマキナの精神衛生上良くない気がする。
 あたしに依存しすぎてる?
 彼の生活の全てがあたしを中心に回ってるみたいで。

 そりゃあ、ここに連れてきたのはあたしだ。
 あの村にいてはマキナはがダメになっちゃう。
 そう思ってのはずだった。
 だけど。

 あたしを好きでいてくれるのも嬉しいし、あたしのことを心配してくれるのもまあしょうがないかも知れないんだけど。
 このままだと万一あたしに危険が及んだりした時に彼の心が真っ赤になってしまうかもと思うと本末転倒になってしまう。

 彼の心の奥底にある魔王石。
 元々魔というものは人の感情によってその力を増す。
 初代の魔王はその自らの欲望に飲まれた。
 肥大化した欲望によって真っ赤に燃えた魔王石は、その初代魔王自身の肉体をも取り込み人ならざるものへと変質し。
 そして魔王という概念へと変化したのだった。

 精神生命体でもあった魔王はあたしにも完全に滅ぼす事はできなかった。
 なんとかその本体を封じ、聖都の聖丘の地下深くに封印することに成功したけれど……。
 それでも。

 魔王はその後500年周期で人の体を持って復活する。
 今にして思えばそれにもデウスの思惑が絡んでいたのだろう。
 大霊グレートレイスによらず転生する魔王という存在に、あたしも引きずられるように転生を重ねていった。
 いつの時代もそれは魔王対人という戦いの果てに、あたしはその都度魔王を封じてきた。
 デウスはそれも必要悪だとしていたのか?
 魔王が居ない日々は人の世を淀みの池に沈めるようにも見え。
 その都度あたしは絶望していたものだった。

 でも。

 今度こそ、なんとかしたい。

 こんな不毛な輪廻は断ち切って、魔王に頼らない世の中にしたい。

 それに。

 こんなにも綺麗な心を持っているマキナをみすみす魔王にしてしまいたくはない。

 あたしのわがまま?

 ううん、だって。

 マキナはこんなにも純粋なんだもの。



 今までの魔王とはその魔王がまだ人の心を持っている状態で出会ったことがなかったから。
 だから余計にそう思うのかも知れないけれど。

 このマキナを人の心の淀みを払うための犠牲にしたくはない。
 絶対に、だめ。

 そのためには……。

 そうだ!

 勇者だよ!

 マキナには勇者をやって貰えばいいんだよ!
 そうすればきっと。
 うん。きっと。
 この子にはその力があるんだから!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...