聖女追放。

友坂 悠

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魔物。

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 目的地までは馬車の旅。
 紅い煉瓦が敷き詰めたれた紅い街道はこの世界の至る所に通じていてその道は聖都に繋がっていると言われている。
 と言ってもこのイベリア属州と聖都の間には高くそびえる山脈があり、そこをつなぐ道は確かにあったけれどあたしが通ってきた道にはこんな煉瓦で舗装された道はなかったし。
 きっともっと平坦な場所ですごく回り道な場所にあるのかな? そんなふうに思ってたけど。
 まあね、あたしとマキナは随分と険しい山道を突き進んできたから。本当は聖都とこの属州の行き来は海を通ってくることが多いってそうも聞く。

 今は町の外れにあるエンターの森へと向かっているこの馬車。
 森に入った平坦な場所にキャンプを張り周囲の魔物を狩る予定。
 そのまま馬車で森の奥まで行くわけでもないらしい。
 まああたしはせいぜいそのキャンプ地で皆に美味しいご飯をふるまって、精気をつけてもらうかな。
 馬車に揺られながらそんなことを考えていた。

 隣に座るマキナはまだこのごに及んでもむっすりとして機嫌が悪い。

 まあね。でもさ。
 この子をここの人たちにちゃんと受け入れてもらうこと。
 皆から認めてもらうこと。
 これってすごく大事だと思ってるんだあたしは。

 人が人として生きていくのに大事なこと。
 やっぱり他人との関わりの中で育んで行く関係性っていうのも大事だよね。そう思うの。

 自分の殻に閉じこもったままで。
 人との接触を経って。
 あたし一人に固執するようなのは、やっぱりダメ。

 自分の力を他の人にもちゃんと認めてもらうこと。
 そういった経験がマキナには無かった。
 だから。
 こうした場でそういう経験をさせてあげたいの。

 魔物には悪いけど。
 それでもね。



 魔が心の奥底を染めてしまうと生き物は魔物と呼ばれる存在に変化する。
 凶暴性が増し人を恐れず無作為に他を襲うようになったそうした魔物は危険で。
 魔獣はもちろん、人はそうした魔物をも人類共通の敵として認定した。
 害獣として駆除が推奨された魔物はもはや通常の生き物とは違う駆除をすることに躊躇はいらないそれが人々の間では常識とされたのだ。

 まあ、魔物ってそんなんばっかりでもないんだけど本当は。

 特にマキナにはそうした魔物は敵意を示さない。
 もちろんこちらから攻撃すれば反撃もされるけれど、それでも基本マキナの魔力に対して魔物は本能的に恐れを感じるのだろう。
 その魔王の残滓に。

 それに。

 魔物の中にだって人に懐く性質を持ったものだって存在する。
 そうした魔物を契約をもって使役する人間も、過去にはちゃんと存在したもの。
 昔のあたしにもいたっけ、黒いもふもふのクロコ。
 使い魔として使役ということになっていたけど彼女はあたしの友達だった。
 猫型の魔物、マジカルキャット。そんな彼女は人の言葉も解するほど賢くキュートだった。
 見た目も普通の猫と変わらない容姿から巨大な猫獣に変化することができて、実はあたしの魔力を浴びているうちに進化したのか最後には人型への変化も可能となっていた。

 ほんと、どうしてるかなクロコ。

 最後に別れたのはもう500年も前の話。
 あたしが魔王を封印し自身も力尽きたあの時。
 倒れたあたしの頬に頬擦りし泣いてくれた彼女。

 ああ。思い出したら会いたくなっちゃった。

 彼女、まだ生きているのかな?
 魔物の生命力は時に通常の生命を凌駕する。

 人に倒されていない限り、彼女はまだこの世界に存在するかもしれない。

 そう感じていた。
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