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31 【ジークSide】2
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エリカが妻のエーリカだったと知ったあの日。
俺は迷いに迷い、父ジークバルトの元を訪ねた。
「こんな夜更けにどうした? ジークハルト」
「すまない父さん、聞いてもらいたい話があるんだ」
快く部屋に入れてくれた父。
相変わらずの飄々とした表情に少しいつものようにイラッとするけれどそれでも、今の俺にはほかに頼る者もいない。
きっとこの親父は全ての事情を知っているに違いない。ならば、まずそれを聞かないことにはどうしたらいいのかわからないじゃないか。
パリッとした白いシャツ姿の父。
寝る時にも紳士な姿を崩さないのかこの人は。
そんな感想を持って。
侯爵という高位な貴族であるというのに偉ぶった姿を見たこともない。
いつも飄々として掴み所のない、そんな父。
俺は、物心ついた時からこの父が嫌いだった。
あんなふうに周りに笑みを振りまいて生きなきゃいけないのなら、俺は侯爵なんて位はいらない。
はっきりそう宣言したわけじゃないけれどそれでも、ヘラヘラして周りを気にして生きるのは、性に合わない。そう思っていて。
怒っていても表情は笑っている。感情を表には決して出さないそんな父。
ある意味化け物だと、そううすら気味悪く感じていた。
「なあ、あんたはエーリカがエリカとして俺のメイドになっていたこと、知っていたんだろう?」
単刀直入にそう聞いてみる。
とぼけるならとぼけてもいい。
しらを切るなら切れば良い。
少しでも反応を見せてくれれば。そう思って。
でも。
「ああ、バレたんだ。しかしまあ、自分の妻の顔も分からなかっただなんて迂闊だな、ジークハルト」
そう笑うくそ親父。
その顔はいつもと違い、ちゃんと感情が表に出ているような、そんな気がした。
ベッドに腰掛けたまま俺にソファーを指し示す親父。
「ほら、立ってないで座ったらどうだ?」
そう微笑む。
本当に憎たらしい笑みで。こいつ、本心から面白がっていやがるのか?
ボスんとソファーの黒革の上に沈み込む。
もう、なんだか力が抜けた。
結局俺はこいつの掌の上でもがいていただけなのか?
そんな気分にもなって。
「ああ。そうだよ。俺は自分の妻の顔なんか見ちゃいなかった。どうせただのお飾り妻。俺の地位目当てできた女なんかに一雫の興味も持てなかったからな」
そう開き直る。
それに。
「それにあいつはあんたが連れてきただけの女だ。元々俺はどこの誰とも覚えちゃいない。どうせどこぞの貴族の令嬢の誰かだろうって、それくらいにしか思っていなかった。そもそもあいつに触れることも、近寄らせるつもりもなかったんだ。元々は」
そう吐き捨て。
「そうか。そうだろうな。しかし、今はそのことに後悔しているんだろう? でなかったら、お前がこんな夜更けにこの部屋に来るなんてことも有り得なかった。そうだろう?」
チェストに置かれていた寝酒のローゼワインをグラスに注ぎ、優雅な仕草せ一口味わったクソ親父。
にやりとこちらを眺めながら、そう云った。
俺は迷いに迷い、父ジークバルトの元を訪ねた。
「こんな夜更けにどうした? ジークハルト」
「すまない父さん、聞いてもらいたい話があるんだ」
快く部屋に入れてくれた父。
相変わらずの飄々とした表情に少しいつものようにイラッとするけれどそれでも、今の俺にはほかに頼る者もいない。
きっとこの親父は全ての事情を知っているに違いない。ならば、まずそれを聞かないことにはどうしたらいいのかわからないじゃないか。
パリッとした白いシャツ姿の父。
寝る時にも紳士な姿を崩さないのかこの人は。
そんな感想を持って。
侯爵という高位な貴族であるというのに偉ぶった姿を見たこともない。
いつも飄々として掴み所のない、そんな父。
俺は、物心ついた時からこの父が嫌いだった。
あんなふうに周りに笑みを振りまいて生きなきゃいけないのなら、俺は侯爵なんて位はいらない。
はっきりそう宣言したわけじゃないけれどそれでも、ヘラヘラして周りを気にして生きるのは、性に合わない。そう思っていて。
怒っていても表情は笑っている。感情を表には決して出さないそんな父。
ある意味化け物だと、そううすら気味悪く感じていた。
「なあ、あんたはエーリカがエリカとして俺のメイドになっていたこと、知っていたんだろう?」
単刀直入にそう聞いてみる。
とぼけるならとぼけてもいい。
しらを切るなら切れば良い。
少しでも反応を見せてくれれば。そう思って。
でも。
「ああ、バレたんだ。しかしまあ、自分の妻の顔も分からなかっただなんて迂闊だな、ジークハルト」
そう笑うくそ親父。
その顔はいつもと違い、ちゃんと感情が表に出ているような、そんな気がした。
ベッドに腰掛けたまま俺にソファーを指し示す親父。
「ほら、立ってないで座ったらどうだ?」
そう微笑む。
本当に憎たらしい笑みで。こいつ、本心から面白がっていやがるのか?
ボスんとソファーの黒革の上に沈み込む。
もう、なんだか力が抜けた。
結局俺はこいつの掌の上でもがいていただけなのか?
そんな気分にもなって。
「ああ。そうだよ。俺は自分の妻の顔なんか見ちゃいなかった。どうせただのお飾り妻。俺の地位目当てできた女なんかに一雫の興味も持てなかったからな」
そう開き直る。
それに。
「それにあいつはあんたが連れてきただけの女だ。元々俺はどこの誰とも覚えちゃいない。どうせどこぞの貴族の令嬢の誰かだろうって、それくらいにしか思っていなかった。そもそもあいつに触れることも、近寄らせるつもりもなかったんだ。元々は」
そう吐き捨て。
「そうか。そうだろうな。しかし、今はそのことに後悔しているんだろう? でなかったら、お前がこんな夜更けにこの部屋に来るなんてことも有り得なかった。そうだろう?」
チェストに置かれていた寝酒のローゼワインをグラスに注ぎ、優雅な仕草せ一口味わったクソ親父。
にやりとこちらを眺めながら、そう云った。
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