【完結】あなたがそうおっしゃったのに。

友坂 悠

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32【ジークSide】3 懇願。

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「ああ、そうだよ! 悪いか!」

 思わずそう吐き出していた。
 相談に来たはずだったのに。もう完全にこのクソ親父を敵にまわしている。

「悪くはないさ。ただね、お前があの子を手放したくないのだったら、真摯に謝るのも必要だとは思わないかい?」

 俺の癇癪など意にも介さない様子でそうさらっと云う親父。
 間違っちゃいない。
 その親父のセリフに間違いなんてない。
 確かに、至極当たり前なアドバイスだった。

 俺が、謝るっていうそんな場面に、今まで遭遇したことがなかっただけ。
 それも、真摯に?
 そんな真似、できるのか?

「彼女の笑顔、また見たいんだろう?」

 ああ……。
 この人のことを見透かしたような態度は本当に気に食わない。
 気に食わない、けれど。
 降参だ。
 強がっていてもどうしようもない。

 俺は多分、この親父に対してはじめて頭を下げた。

「どうしたらいいかわからないんだ。頼む、親父。助けてくれ」

「そうだね。とにかく一度素直に謝って懇願してみよう。私も一緒に話してあげるから」

 ♢

 朝。

 一晩中、結局寝られずに過ごした。
 それでも。一晩中考えても。
 エリカが、彼女が一体どんなに傷ついているのか、俺には理解ができなかった。
 だから。
 真摯に謝る。
 それしか結局俺にはできないんだな。
 そう考える。

 クソ親父の言う通りだ。

 そんなふうに。

 朝日が黄色く瞬いている。
 そろそろエリカがここに来る。
 彼女をどう迎えようかとか、そんなのは考えるだけ無駄だ。
 俺は、懇願するしかできないんだから。


 食堂にエリカがやってきた。
 正面に座る親父しかみえていないのか、給仕の侍従の横にいる俺には目もくれず親父の前に立つ彼女。
 何度も擦ったのか瞼が赤く腫れている。
 一晩中泣いていたのか、真っ赤に充血した瞳が痛々しい。

「おはようございます侯爵様。突然ですみません。わたくし、もうここにはいられません。どうか侯爵家からは離縁していただけませんでしょうか……」

 泣き出しそうなそんなか細い声でそれだけ告げると、深々と頭を下げるエリカ。

「父が頂いた仕度金は何年かかってもお返しいたします。どうかそれでお許しくださいませ」

 涙がボロボロと溢れるように床に落ちた。
 しかし、何だって? 仕度金? そんなものに縛られていたと言うのか?
「好きでこんなところにきたわけじゃない」
 そう叫んだエリカの声が頭の中でリフレインする。

 ああ。
 俺は、なんてことを言ってしまったんだ。
 俺は、なんてことを言ってエリカを傷つけ貶めて……。

 取り返しのつかないことを言ってしまったんだと、今更ながらに気がついた。

 ああ、もう遅いのか?
 俺は……。
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