猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!

友坂 悠

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龍の翼。

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 聖都に着いた所でまず待ち合わせ場所も兼ねて宿を決め、あたしたちは二手に分かれた。

 ティアは近所で買い物する風を装い街の噂を集める。

 あたしは王宮の様子を探る事にして。



 ティアと別れたところでふっと思い出す。あの場末の宿で聞いた御触書の話。

 あたしを雇うな、泊めるな、食事も買い物もさせないようにとそんな意地悪な事が書かれていたらしいそんなもの。

 あれを見れたらな。

 もしかしたら何かわかるかも?


 場末の、木造のあまり綺麗とは言い難いその宿、そのあたしが最後に訪れたその宿を見つけて。路地を曲がった所で人通りが無いことを確認したあたし、そっとその腕にはまった腕輪を外す。

 途端にあたしの髪がそのエメラルドグリーンの色合いから金色のふわふわに変わる。

 たぶん目の色も碧に戻ってるのかな。

 着ていた革鎧を外して籠手も外す。少しでも今どうしてるかを悟られるのを避けたい。

 荷物を全部レイスに収納してからその宿の門を開いた。

 あの時のおじさんが居たら話が早いなぁと思いながらカウンターのベルを鳴らすと、奥からもそもそっと出てきたのは確かに見覚えのある男性。

「あのー」

「悪いな、ここは受付夕刻からなんだ。まだ準備中だ」

 そうこっちを見もせず喋るその人。

「あの。あたしの事覚えてますか?」

 ん? って顔をしてあたしの顔をまじまじと見るそのおじさん。

 まああの時は聖女服だったし今はワンピースだけだから町娘っぽい感じかもだけど。

「おまえさん……。生きてたか……」

 あたしのことがわかったのかなんとも言えないような顔になったおじさん、呟くようにそう言った。

 はう。あたし死んだと思われていた?

「あたし、死んだって思われてるんです?」

 おじさん、右手で頭の後ろをボリボリと掻きながら、バツが悪そうな声で。

「あれからな、おまえさんがとぼとぼと森の方角に歩いて言ったってのを聞いてな……。申し訳なかった。かわいそうだとは思ったんだが俺たちも王宮に睨まれたらおまんまの食い上げだからな……」

 そういうと、両手を合わせて。

「悪かった。実はあれからずっと罪悪感でいたたまれなかったんだ。無事で良かったよ……」

 と。



 根は悪い人じゃないんだな。そんな風に感じつつあたし、

「あたしについての御触書って、どんなんだったんですか? 実は変な根も葉もない噂を聞いて戻ってきてみたんです」

「ああ、あれか。俺も妙だなって思ってはいたんだが……。そもそも触書きはお前さんの容姿特徴名前が書いてあって、『このもの今後一切聖女宮と関わりないものとする』と書かれていただけのもんだったんだけどな。ただそれを手渡されたギルド長が『この女と関わるな!』と言外に圧力があったと言いながら俺らに配って回るもんだからいけねえ」

 はう。

「怖気付いちまってよ。勘弁してくれな……」

 そういう事かぁ。でも。

「じゃぁあの変な噂の方は?」

「お前さんが泥棒して逃げたって話か? あれはどうやら金を貰ってそう言いふらしている奴が居るらしいって言うのは聞いたな。触書きに怖気付いてあんたを見殺しにしたと思ってた俺らにしたら、馬鹿みたいな話だってそう思ってたけどさ」






 ありがとうと声をかけて宿を出たあたし。

 念のために路地裏ですぐ腕輪をつけて。



 龍神族の姿になった途端、怒りが沸沸と湧いてきた。

 どうやらこの容姿になるとあたしも少し性格が変わっているのかもしれない。

 エメラルドグリーンの髪がふわふわと逆立ち持ち上がる。

「許せない! 聖女長もそれに加担してる人も全部!」

 もうどうなってもいいよ。あたし聖女宮に乗り込んでやる!

 ——待って! 落ち着いて! レティ!

 カイヤの叫びは聞こえてたけどあたしの頭の中は真っ赤な怒りに支配されて。

 あたしは背中に龍の翼を生やし、そしてそのまま王宮へと飛んだ。周囲に気を使っているだけの精神的余裕が無くなっていた。
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