猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!

友坂 悠

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クマの人。

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 浅黒い肌に真っ黒な体毛。口元はお髭に覆われてもじゃもじゃで。ボサボサに伸びた黒髪の頭の部分に丸い拳大のお団子? が二つ。ずんぐりむっくりとした体型はふさふさの毛皮の服で覆われている。
 第一印象は、熊?
 一瞬そんな熊の魔物かと勘違いしてしまいそうになったその男性。あたしの胸元に筒の先を向け、
「動くな!」
 と、言った。

 うーん。どうしよっか。

「助けてあげたのにそんな反応? もう少しましな出迎え方があるでしょう?」

 あたしは両手を挙げてそう言う。

 あの筒の先から放たれるのはさっきの魔弾、かな?

 魔石を魔力で弾くことで打ち出す魔弾。魔石の中に封じられた魔力によって威力が変わる。

 少ない魔力でも大きな威力の魔砲が放てるって聞いてたけど見るのは初めてだ。

 結局、弾として魔石を使うから、コストもバカにならないからかあまり聖王国では普及してなかった。

 まあこの距離なら撃たれてもなんとか防げるかなぁ?


「お前たち、魔じゃ無いのか?」

「うーん、見てわからない?」

 まあね、龍の翼をはやしたりしてるあたしたちが魔獣に見えるのかもしれない?

「あたしとその子は龍神族、その黒い子は聖獣だから」

 その熊おじさん、あたしたちをじっと見て。そしてその魔弾の筒を下ろした。

「すまない。いや、助けてもらったんだよな。ありがとう、感謝する……、えっと……」

「いいのよ。あたしはレティシア、あなたは?」

「俺はモリノーク。モリノーク・マサンダ。ラウンタークで仕入れた物を持って村に帰る途中だったんだが……」

 村ってグノープルかな。でも。

「待って、この先に魔獣が大量に発生してるの! あの砂塵、あれがそう。魔を感じるから間違い無いよ!」

「なんと!」

「悪いこと言わないからラウンタークまで戻ったほうがいい。あそこならまだ常駐してる兵士も居るし、たぶんまだまし」

「だが……。あの砂塵の方角には俺たちの村グノープルが、一族の仲間がいる。見捨てて逃げるなんてことできるかよ! それに、馬も人も怪我をしてまともに動けない……。動けるものだけでも村に向う!」

「バカね。そしたらここに残していく怪我人まで危険じゃ無い! いいわ、治してあげるから案内しなさい!」

「お前……、治癒の魔法が使えるのか……?」

「ええ。すこしね。だから怪我人のもとに案内して」

「ああ、すまねえ。こっちだ」

 馬車は全部で四つ。それを引く馬も血を流し横たわってる。これも重症、かな。

 一頭は残念ながらもう息をしていなかった。

 あたしは馬には通りすがりながらヒールを飛ばしてその一番酷く幌が破れられている馬車に乗り込んで。

 馬車の幌が食い破られ中まで侵入したハウンドウルフにやられたのか、中には怪我をした女性や子供も居た。

 うん。これなら。

 あたしはそのままその馬車全体に治癒のヒールを掛ける。

 両手を広げたあたしの手のひらから溢れるように漏れ出る金色の光が、中の人全員に降り注いだ。
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