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転生皇女。
まつりごと。
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「ああ、マリアンヌ、サーラ、二人とも今日は午前の講義の後僕の部屋まで来てくれないか?」
食事もそろそろ終わりそう、といタイミングで、おにいさまがそうわたしたちに声をかけた。
「何かありました? ティベリウスお兄様」と、マリア姉様。
「ああ、本日はおとうさまの弟君ユリウス卿がいらっしゃるそうだ。その際にご子息を伴って来られるので、私が歓待することとなったのだ」
「お前達にとっては従兄弟になる。諸国査察より戻ったユリウスの登城は五年ぶりだからな。お前達も会うのは初めてか? マリアは小さい時に会っていたか? 」
「マリアも覚えていないかもですね。まだ三つでしたから」
おかあさまはにっこり笑みをこぼすとグラスを置きながらそういう。
「私は昔遊んでもらった覚えはあるのですが、優しい兄様でしたよ。父上」
「そうかティベリウス。おまえにとっては兄も同然、仲良くするのだよ」
おとうさまは優しい笑顔でそうおにいさまの頭を撫でた。
☆
皇帝クラウディウス。おとうさまが即位された時、世界は不穏な空気に包まれていたという。皇家は決して武力で民を虐げたりはせず、政事は全て宰相を筆頭とする政府に任されている。しかしそれに異を唱える貴族の一部が各地で諍いをおこし、その不穏の種は未だ各地で燻っていた。
宰相を選ぶのは選挙で選ばれた9名の執政官であり、各大臣はそのメンバーの中から宰相が指名する。そして貴族からなる貴族院、独立した裁判権を持つ法務官。皇帝はその全ての上に位置するが、統治は完全に彼らに委任されていた。
ユリウス卿は現在執政官の一人として、各地に赴き現状を調べていたそうだ。
軍事の統帥権は皇帝にある。これは建前、たしかにそういうことになってはいるらしい。
ただし、おとうさまは決して自分の為にそれを行使はしないだろう。わたしにはそれが解る。
軍は民を、世界を守る為にあるのだ。
これがおとうさまの口癖だ。
それなのに。
なんで世の中にはそんな皇家の意思を慮らずに皇帝を担ぎ上げ自身の勢力を増やしたいなどと思う人がいるのだろう?
表向き、自分は皇帝に忠誠を誓ってるとか言うのだ、余計にタチが悪いよ。
午前中の講義は政治経済、そして歴史だった。
おとうさまが即位したあたりから始めて、そして過去に遡る形の講義になる。やっぱり一番知ってなくちゃいけないのは最近の出来事だろうし、ただただ学術的に習う訳ではないからだろう。
この国の政治はほんと前世の日本に似てるなぁって思うのと、あと古代ローマの民主制とか帝政とかの時代の雰囲気だけ移植したみたいな感じもしてなんか変。執政官とか法務官とか、ほんとそう。意味は違うけどわたしが読んだローマの歴史書と名前もいろいろ被ってる。
うん。そんな当時から転生者がいたのかなぁとか。そんな事も考えたりする。
講義が終わりお昼ご飯の前におにいさまのお部屋へ向かう事に。
当然のようにアスターニャに手を引かれて。
……ふふ。サーラさまの手、ちっちゃくてぷにぷにしてて、ほんとかわいいなぁ。
そんなアスターニャの心の声が漏れてくる。
これ、実は誰でもどんな時も見える訳でもないんだよね。
おとうさまやおにいさまおかあさまの表層意識はあんまりはっきりとは見えない。ほとんどの場合ぼんやりとわかるくらい。わたしに対する好意は、それでも充分伝わってくるのだけど。
やっぱり普段からの心の持ち方というか精神的な強さというか、そういうのもあるのかも。わたしに対する警戒感が強い人の心もあまり伝わってはこない、かな。感情は見えるけど。
護衛騎士さまのうち、あまり皇家にいい感情を持ってない人のそんな感情は見える。だけど、そういった人の表層意識は見ようと意識しない限り見えてはこなかった。
本気で観ようと思った時にどれだけ見えるのかは確かめたことはないけれど、それ、は、やっぱりあまりしたくない、事だったから。
人から嫌われるのは怖い。
悪意を向けられたくない。
わたしは、臆病だ。
☆
部屋に入るとそこにはおにいさまとおねえさま、そしておにいさまを少し大きくしたような人がいた。
おにいさまは12歳だから、15歳くらい? この国の成人は15歳だというから、ちょうどそろそろ成人かといった感じの少年だった。
ああ、前世でハイティーンだったわたしにとって、おにいさまもおねえさまも年下にしか思えなかったっていうのは秘密だ。
そんな事をぼんやり考えて。
「初めまして。ラインハルト様。サーラ・トワイエル=アマテラスです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
……お前、転生者、か?
ああ、皮肉屋さんっぽい表情を浮かべているラインハルト様から、そんなダイレクトな意識が見えて。
わたしは固まった。
食事もそろそろ終わりそう、といタイミングで、おにいさまがそうわたしたちに声をかけた。
「何かありました? ティベリウスお兄様」と、マリア姉様。
「ああ、本日はおとうさまの弟君ユリウス卿がいらっしゃるそうだ。その際にご子息を伴って来られるので、私が歓待することとなったのだ」
「お前達にとっては従兄弟になる。諸国査察より戻ったユリウスの登城は五年ぶりだからな。お前達も会うのは初めてか? マリアは小さい時に会っていたか? 」
「マリアも覚えていないかもですね。まだ三つでしたから」
おかあさまはにっこり笑みをこぼすとグラスを置きながらそういう。
「私は昔遊んでもらった覚えはあるのですが、優しい兄様でしたよ。父上」
「そうかティベリウス。おまえにとっては兄も同然、仲良くするのだよ」
おとうさまは優しい笑顔でそうおにいさまの頭を撫でた。
☆
皇帝クラウディウス。おとうさまが即位された時、世界は不穏な空気に包まれていたという。皇家は決して武力で民を虐げたりはせず、政事は全て宰相を筆頭とする政府に任されている。しかしそれに異を唱える貴族の一部が各地で諍いをおこし、その不穏の種は未だ各地で燻っていた。
宰相を選ぶのは選挙で選ばれた9名の執政官であり、各大臣はそのメンバーの中から宰相が指名する。そして貴族からなる貴族院、独立した裁判権を持つ法務官。皇帝はその全ての上に位置するが、統治は完全に彼らに委任されていた。
ユリウス卿は現在執政官の一人として、各地に赴き現状を調べていたそうだ。
軍事の統帥権は皇帝にある。これは建前、たしかにそういうことになってはいるらしい。
ただし、おとうさまは決して自分の為にそれを行使はしないだろう。わたしにはそれが解る。
軍は民を、世界を守る為にあるのだ。
これがおとうさまの口癖だ。
それなのに。
なんで世の中にはそんな皇家の意思を慮らずに皇帝を担ぎ上げ自身の勢力を増やしたいなどと思う人がいるのだろう?
表向き、自分は皇帝に忠誠を誓ってるとか言うのだ、余計にタチが悪いよ。
午前中の講義は政治経済、そして歴史だった。
おとうさまが即位したあたりから始めて、そして過去に遡る形の講義になる。やっぱり一番知ってなくちゃいけないのは最近の出来事だろうし、ただただ学術的に習う訳ではないからだろう。
この国の政治はほんと前世の日本に似てるなぁって思うのと、あと古代ローマの民主制とか帝政とかの時代の雰囲気だけ移植したみたいな感じもしてなんか変。執政官とか法務官とか、ほんとそう。意味は違うけどわたしが読んだローマの歴史書と名前もいろいろ被ってる。
うん。そんな当時から転生者がいたのかなぁとか。そんな事も考えたりする。
講義が終わりお昼ご飯の前におにいさまのお部屋へ向かう事に。
当然のようにアスターニャに手を引かれて。
……ふふ。サーラさまの手、ちっちゃくてぷにぷにしてて、ほんとかわいいなぁ。
そんなアスターニャの心の声が漏れてくる。
これ、実は誰でもどんな時も見える訳でもないんだよね。
おとうさまやおにいさまおかあさまの表層意識はあんまりはっきりとは見えない。ほとんどの場合ぼんやりとわかるくらい。わたしに対する好意は、それでも充分伝わってくるのだけど。
やっぱり普段からの心の持ち方というか精神的な強さというか、そういうのもあるのかも。わたしに対する警戒感が強い人の心もあまり伝わってはこない、かな。感情は見えるけど。
護衛騎士さまのうち、あまり皇家にいい感情を持ってない人のそんな感情は見える。だけど、そういった人の表層意識は見ようと意識しない限り見えてはこなかった。
本気で観ようと思った時にどれだけ見えるのかは確かめたことはないけれど、それ、は、やっぱりあまりしたくない、事だったから。
人から嫌われるのは怖い。
悪意を向けられたくない。
わたしは、臆病だ。
☆
部屋に入るとそこにはおにいさまとおねえさま、そしておにいさまを少し大きくしたような人がいた。
おにいさまは12歳だから、15歳くらい? この国の成人は15歳だというから、ちょうどそろそろ成人かといった感じの少年だった。
ああ、前世でハイティーンだったわたしにとって、おにいさまもおねえさまも年下にしか思えなかったっていうのは秘密だ。
そんな事をぼんやり考えて。
「初めまして。ラインハルト様。サーラ・トワイエル=アマテラスです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
……お前、転生者、か?
ああ、皮肉屋さんっぽい表情を浮かべているラインハルト様から、そんなダイレクトな意識が見えて。
わたしは固まった。
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