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瑠璃の君。
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☆瑠璃の君。五歳。
あたしがはじめてその子を見たのは五歳の時。
おもうさまに連れられ神社にお参りに行った時のこと。
おたあさまにとっての理想のあたし、理想の瑠璃姫がそこに佇んでいた。
いつもいつも姫らしくしなさいとうるさいおたあさま。でも、そこにいたのはまるでそんなおたあさまがあたしになって欲しいのだろう理想のあたし。
たおやかに扇をあてにっこりと微笑むその姿に、まだ五歳の女児とは思えぬ大人っぽさも相まって、あたしの目は釘付けになっていた。
思わずこいつ誰? っておもうさまに聞いたら、その子も、
この子誰? って指差して。
ちょっと生意気? そう思った時、
「ああ、お前達は二人ともわたしの子、瑠璃、お前達は兄妹なのだよ」とそうおもうさまが言うではないか。
あたしたちはふたりして見つめ合い互いに納得しあったのだった。
池の周りで遊んで。
春の陽気にあてられて出てきたちっちゃなカエルをそっと拾い。
面白半分に、「はい、これあげる」って瑠璃姫にわたしたあたし。
どんな反応をするのかみたかったのもあるけど、たぶん悪戯してやろう、そんな気持ちもあった筈。
そしたら。
手のひらにカエルが乗ったその瞬間。
姫はものすごい勢いで泣き始め。
うっくひっく、うう、とやっと声が小さくなったところであたしはカエルを取り上げ謝まった。
もう、ごめんってば、泣かないで瑠璃姫、お願いだから。
そんな感じで謝ってるうちにあたしまで涙が出てきて。
ふっと、彼女が笑った。
その笑顔がものすごくかわいくて。
あたしも、一緒になって笑ったのだ。
ああ。この子はあたしの半身だ。
この子が悲しければあたしも悲しい。
この子が笑えばあたしも嬉しい。
双子じゃ無いけど、きっと双子みたいな運命なのかな。そう思って。
そのまま二人で遊んだ。
お花を摘んだり花輪を作ったり。まるで女の子みたいな遊びは新鮮で楽しかった。
って、あたし女の子だった筈?
だけど、この子といるとほんとに自然なあたしになれる気がして。
もっともっと一緒にいたい。
そう思ったところで彼女が急に倒れた。
蹲って苦しそうにして。あたしは思わず抱きとめたけど、なんだかものすごく身体が熱くなってて、怖かった。
そのまま大声で人を呼び、なんとか事なきを得たところまでは覚えてる。
あたしもその夜は少し熱を出し、そのまま寝てしまったから。
彼女が理想のあたしなら、あたしは一体なんなんだろう?
そんなこともちょっと思う。
でも。
おたあさまは姫らしくしなさい、とか言うけれど、
あたしはじっとしているのは嫌。
何をするのも女房に任せ、じっとして、そして微笑む。
歌を読むのもするっと喋るだけで書きものだって自分ではさせて貰えない。
こんなの、生きてるって言える?
別に殿方になりたいわけじゃない。
ただ、動き回りたいだけなのだ。
空の青さ。
風の匂い。
水のせせらぎ。
そして、土の感触。
それらを全て自分自身で感じたい。
それだけなのに。
姫だというだけでそれらは全て取り上げられる。
そんなの。おかしいよ。
あるときあたしは言った。
東の瑠璃がいるじゃない。あたしが姫をやらなくてもあの子がいるでしょう?
そう、不満をぶつけ。
そうしたらおたあさま、
東の子はあれはあれで不憫なのですよ、と。
男として産まれたにも関わらず東の方によって姫として育てられたのです。
あなたのように好きに生きているわけではないのですよ。
かわいそうだとはおもわないのですか?
と。
あたしは目の前に雷が落ちたかのような衝撃を受け、そして。
どうか神さま。
あたし、男の子になってもいいです。
だから、瑠璃姫をほんとうの女の子にしてあげてください。
あたしは子供心にそう、祈ったのだった。
あたしがはじめてその子を見たのは五歳の時。
おもうさまに連れられ神社にお参りに行った時のこと。
おたあさまにとっての理想のあたし、理想の瑠璃姫がそこに佇んでいた。
いつもいつも姫らしくしなさいとうるさいおたあさま。でも、そこにいたのはまるでそんなおたあさまがあたしになって欲しいのだろう理想のあたし。
たおやかに扇をあてにっこりと微笑むその姿に、まだ五歳の女児とは思えぬ大人っぽさも相まって、あたしの目は釘付けになっていた。
思わずこいつ誰? っておもうさまに聞いたら、その子も、
この子誰? って指差して。
ちょっと生意気? そう思った時、
「ああ、お前達は二人ともわたしの子、瑠璃、お前達は兄妹なのだよ」とそうおもうさまが言うではないか。
あたしたちはふたりして見つめ合い互いに納得しあったのだった。
池の周りで遊んで。
春の陽気にあてられて出てきたちっちゃなカエルをそっと拾い。
面白半分に、「はい、これあげる」って瑠璃姫にわたしたあたし。
どんな反応をするのかみたかったのもあるけど、たぶん悪戯してやろう、そんな気持ちもあった筈。
そしたら。
手のひらにカエルが乗ったその瞬間。
姫はものすごい勢いで泣き始め。
うっくひっく、うう、とやっと声が小さくなったところであたしはカエルを取り上げ謝まった。
もう、ごめんってば、泣かないで瑠璃姫、お願いだから。
そんな感じで謝ってるうちにあたしまで涙が出てきて。
ふっと、彼女が笑った。
その笑顔がものすごくかわいくて。
あたしも、一緒になって笑ったのだ。
ああ。この子はあたしの半身だ。
この子が悲しければあたしも悲しい。
この子が笑えばあたしも嬉しい。
双子じゃ無いけど、きっと双子みたいな運命なのかな。そう思って。
そのまま二人で遊んだ。
お花を摘んだり花輪を作ったり。まるで女の子みたいな遊びは新鮮で楽しかった。
って、あたし女の子だった筈?
だけど、この子といるとほんとに自然なあたしになれる気がして。
もっともっと一緒にいたい。
そう思ったところで彼女が急に倒れた。
蹲って苦しそうにして。あたしは思わず抱きとめたけど、なんだかものすごく身体が熱くなってて、怖かった。
そのまま大声で人を呼び、なんとか事なきを得たところまでは覚えてる。
あたしもその夜は少し熱を出し、そのまま寝てしまったから。
彼女が理想のあたしなら、あたしは一体なんなんだろう?
そんなこともちょっと思う。
でも。
おたあさまは姫らしくしなさい、とか言うけれど、
あたしはじっとしているのは嫌。
何をするのも女房に任せ、じっとして、そして微笑む。
歌を読むのもするっと喋るだけで書きものだって自分ではさせて貰えない。
こんなの、生きてるって言える?
別に殿方になりたいわけじゃない。
ただ、動き回りたいだけなのだ。
空の青さ。
風の匂い。
水のせせらぎ。
そして、土の感触。
それらを全て自分自身で感じたい。
それだけなのに。
姫だというだけでそれらは全て取り上げられる。
そんなの。おかしいよ。
あるときあたしは言った。
東の瑠璃がいるじゃない。あたしが姫をやらなくてもあの子がいるでしょう?
そう、不満をぶつけ。
そうしたらおたあさま、
東の子はあれはあれで不憫なのですよ、と。
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あなたのように好きに生きているわけではないのですよ。
かわいそうだとはおもわないのですか?
と。
あたしは目の前に雷が落ちたかのような衝撃を受け、そして。
どうか神さま。
あたし、男の子になってもいいです。
だから、瑠璃姫をほんとうの女の子にしてあげてください。
あたしは子供心にそう、祈ったのだった。
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