20 / 32
【瑠璃の君】疑心暗鬼。
しおりを挟む
秋も終盤に差し掛かった頃合い。
四の君が出産間近になり右大臣は気もそぞろに祈祷を行わせ、何故か疎遠になった瑠璃の中将への恨み言を左大臣に溢すようになった。
本来であれば自分の子が産まれるのだ、足繁く通い妻の様子を伺うのが本来の姿ではないか?
と。
たまりかねた左大臣も、
「このところ右大臣は落胆し、特に四の君が身重になってからお前の心が離れていくように見えるのを嘆いていた。どうしてそのように振る舞うのだ。人目に見苦しくないように立ち回るべきであろう」
と、そう中将に諭すように話すのだが、理由はわかるだけにそれ以上は強く言えず。
中将は中将で、そもそもこの結婚が間違いだったのだと思ってはいるものの、それを左大臣に咎めるのも気が引け、押し黙ったままであった。
やがて、四の君に可愛らしい女子が産まれ、右大臣家では祝福に包まれた。
瑠璃も世間体をはばかり顔を出さないわけにもいかず、しばらく通うのであったけれど。
そのかわいらしい綺麗な顔を見るにつけ、宰相の中将と生写しであることに心を痛めた。
自分は宰相の中将に嫉妬しているのか?
はたまた、四の君に嫉妬しているのか?
この心の痛みがどちらに起因した物なのか。
そして、この彼女、四の君が自分を内心であざわらっているのではないか。
そんな疑心暗鬼に生来の明るさを失っていったのだった。
そんな鬱な表情の瑠璃を見るにつけ。
宰相の中将はますます想いを募らせていた。
四の君の事は愛おしく思わないでもない。
自分の子が誕生したのだ。ほんとうであったら四の君共々自分の元に置きたい、そうも思う。
だけれどそれはそれ。
あれはもともと瑠璃への気持ちを押し殺すことが出来ず侵入した右大臣家での一夜の間違いだ。
自分にとって本当に大事なのは瑠璃で。
なんとしても。
なんとしても想いを遂げたい。
瑠璃を本来の姿に戻し、自分の妻に迎えるのだ。
それが自分の使命だとも、瑠璃も本当はそれを望んでいるに違いない、と。
今彼女の表情が暗いのも、すべて彼女が間違った生き方をしているからだ、と。
瑠璃を救うのだ。
彼の心はそう、固まっていた。
四の君が出産間近になり右大臣は気もそぞろに祈祷を行わせ、何故か疎遠になった瑠璃の中将への恨み言を左大臣に溢すようになった。
本来であれば自分の子が産まれるのだ、足繁く通い妻の様子を伺うのが本来の姿ではないか?
と。
たまりかねた左大臣も、
「このところ右大臣は落胆し、特に四の君が身重になってからお前の心が離れていくように見えるのを嘆いていた。どうしてそのように振る舞うのだ。人目に見苦しくないように立ち回るべきであろう」
と、そう中将に諭すように話すのだが、理由はわかるだけにそれ以上は強く言えず。
中将は中将で、そもそもこの結婚が間違いだったのだと思ってはいるものの、それを左大臣に咎めるのも気が引け、押し黙ったままであった。
やがて、四の君に可愛らしい女子が産まれ、右大臣家では祝福に包まれた。
瑠璃も世間体をはばかり顔を出さないわけにもいかず、しばらく通うのであったけれど。
そのかわいらしい綺麗な顔を見るにつけ、宰相の中将と生写しであることに心を痛めた。
自分は宰相の中将に嫉妬しているのか?
はたまた、四の君に嫉妬しているのか?
この心の痛みがどちらに起因した物なのか。
そして、この彼女、四の君が自分を内心であざわらっているのではないか。
そんな疑心暗鬼に生来の明るさを失っていったのだった。
そんな鬱な表情の瑠璃を見るにつけ。
宰相の中将はますます想いを募らせていた。
四の君の事は愛おしく思わないでもない。
自分の子が誕生したのだ。ほんとうであったら四の君共々自分の元に置きたい、そうも思う。
だけれどそれはそれ。
あれはもともと瑠璃への気持ちを押し殺すことが出来ず侵入した右大臣家での一夜の間違いだ。
自分にとって本当に大事なのは瑠璃で。
なんとしても。
なんとしても想いを遂げたい。
瑠璃を本来の姿に戻し、自分の妻に迎えるのだ。
それが自分の使命だとも、瑠璃も本当はそれを望んでいるに違いない、と。
今彼女の表情が暗いのも、すべて彼女が間違った生き方をしているからだ、と。
瑠璃を救うのだ。
彼の心はそう、固まっていた。
1
あなたにおすすめの小説
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。
社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~
藤森瑠璃香
恋愛
連日の残業と終わらないプロジェクトの果てに、OLの佐藤美月は過労で意識を失う。次に目覚めた時、そこはアーサー王が治める国「キャメロット」だった。
森で魔物に襲われ絶体絶命の私を救ってくれたのは、「太陽の騎士」と呼ばれる最強の騎士ガウェイン。しかし彼は、強くて純粋だけど、少し子供っぽい脳筋騎士様だった!
「護衛だ!」と宣言しては一日中手を繋いで離さず、他の男性と話しただけであからさまに嫉妬したり……。その過保護で独占欲の強い愛情表現に戸惑いながらも、仕事に疲れた美月の心は、彼の太陽のような笑顔に癒されていく。
やがて王の顧問となった彼女は、現代知識とPMスキルを武器に「魔女」の嫌疑を乗り越え、国を救う「キャメロットの天使」へ。
不器用で一途な騎士様から贈られる、甘すぎるほどの溺愛に満ちた、異世界シンデレラストーリー、ここに開幕!
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる