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王国祭。
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「浮かない顔だね、アリーシア。エスコートの相手が僕なのはやっぱり嫌だったかい?」
「いえ、リブラン兄様。お兄様の方こそわたくしなんかをエスコートしてよろしかったのです?」
「はは。エリーチェは身重だからね、今回の王国祭は見送りさ」
「エリーチェお義姉さまの予定日は来月ですものね。ああでもそれならマリアーナのエスコートをしてあげればよかったのでは」
「ああ、そっか。アリーシアはまだ知らなかったね。マリアーナは婚約が決まったからね。今夜はそのお相手が迎えにきていたよ」
え?
「そうなんですか……。それはおめでたいお話ですのに、わたくしは何も聞かされておりませんでした……」
しゅんとうつむいて。
そうと知っていればお祝いの言葉の一つもかけてあげたかった。
わたくしが離縁をされたばかりだから気を遣われたのだろうか。
やっぱり、わたくしだけが蚊帳の外、なだけなのだろうか。
どちらにしても、悲しくて。
「そろそろ迎賓館に着くよ、アリーシア。ほら。顔をあげて」
貴族特有の感情をあまり表に出さないスマイルでわたくしに話しかける兄様の顔も、真っ直ぐに見ることができない。
結局、この兄様だってわたくしに隠し事をしている。
それがわかってしまったから。
馬車を降り真っ赤な絨毯の上に足を下ろす。
どこまでも紳士的なリブラン兄様にエスコートされるまま、ロビーからまっすぐ今回のメイン会場まで歩く。
途中、何人もの煌びやかなドレスに身を包んだ令嬢とすれ違ったけれど、彼女たちもみな自信に溢れているように見えた。
こんな情け無い気分でここにいるのはわたくしだけだ。
また泣き出しそうになったけれど、ダメ。
今日はダメ。
せっかくのお化粧が流れてしまう。
「誰よりも綺麗にしてみせますからね」
と張り切って仕上げてくれたフィリアにも悪い。
そう思ってなんとか堪えて。
王宮の敷地の隣。
樹々がいっぱいな庭園に囲まれたここ迎賓館は、上階は貴賓客の宿泊施設も兼ねているこの国一番の祭場だ。
特に中央の会場はとにかく広い。
天井も高く豪奢なシャンデリアが幾重にも重なって、夜でもまるで日中のような明るさで会場中を照らしている。
入り口から反対側に見える広いバルコニーは、そのまま中庭に降りられるようにもなっている。
お酒も進んだ後、夜風を浴びに降りる者も多く、中庭の真ん中にある噴水の周りにはいくつものベンチも並べてあって、そこで恋を語るカップルも多いって聞いたことがある。
あれは学園に通っていた頃だったろうか。
一度だけ何かの催しでこちらにきた時に同級の誰かがそう噂をしていて。
学園に通う貴族の子女にとって、十五歳の卒業パーティーが社交デビューになることが多いから。
みんな、翌年のその時に備えて色々と情報交換をしていたんだなぁ。って。
ちょっと感慨深い。
十四歳で結婚したわたくしは、結局そんな社交界デビューをすることもなく。
結婚披露は侯爵家で執り行われたしそれ以降も商会のお仕事が忙しく、こういった社交の催しには縁が無かった。
ラインハルト様も、わたくしをエスコートしようだとかそういう気持ちが無かったのだろう。
一度も誘われたことは無かったし、わたくしもそれについて特に疑問に思わなったから。
だからダメだったんだろうとは今ならわかるけれど。しょうがない。
国王陛下の挨拶のあと、宰相閣下の宣言で開会した王国祭。
王国貴族がこの時ばかりはと着飾って踊り楽しむ宴。
大勢の紳士淑女が談笑し、豪華なお食事の数々に舌鼓を打ち、そして楽団の音色に合わせ思い思いにダンスに興じる中。
わたくしだけ一人壁の花と化していた。
お兄様も、お知り合いの方とのお話しに忙しい。ほんと、ここまでエスコートしてもらっただけでもありがたいのだ。これ以上の贅沢は言っちゃいけない。そう思い。
お食事は美味しそうではあったけれど、元々食が細いわたくしではそんなにも食べられない。
それに。
この人人人、人の多さに酔ってしまったわたくしは、壁に設られていた椅子に腰掛け何を見るともなしに人々の様子を眺めていた。
時々飲み物を持ってくるくる回ってくるボーイさんたちから色とりどりのカクテルを勧められたりもしたけれど、そんなものを口にしようものならすぐに人事不省に陥るのが目に見えている。
お水が欲しいなぁ。
と、そうは思ったけれど、カウンターに出向いてお水を頂く勇気も出ないまま、ただただ座っていたのだった。
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