わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

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街を自由に散策したい。

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 夜はめいいっぱいのご馳走を頂いて。
 お婆さまはお酒をいっぱい飲んでらしたけれど流石にまだわたくしはお付き合いもできません。
 それでも。
 美味しい柑橘ドリンクをいただいてお料理に舌鼓を打って。
 お腹いっぱいになってお部屋に戻りました。

 ——アーシャったら酔っ払ってる?

「え? お婆さまはお酒を飲んでらしたけど、わたくしは美味しい柑橘ドリンクをいただいただけですわ?」

 ——そっか。それ少しアルコールが入ってる見たいね。だいぶんと肌が桃色に上気してるし心拍も上がっているわ。

 はわわ。
 お婆さまったら、わかっててわたくしにあのドリンクを進めたのかしら?
 美味しかったからよかったしそんなに酔ってはいないみたいですけど。
 まあお家でこっそりお母様が漬けた果樹酒を舐めて見たことはありましたし。
 わたくしももう十五歳。
 同年の女子はそろそろ社交のパーティとかでそういったお酒と接するお年頃ではありますからね。
 お婆さまが飲んでらしたきついお酒ではなくてああいったジュースみたいのでしたらそんなにようまでは行かなくて大丈夫だってことですよね。

 そうやって自分で納得して。

 ——まあ明日の計画に差し支えない程度だからよかったわ。

「そうです。明日は待ちに待った計画の日ですもの!」

 街を自由に散策したい。

 領地に帰省することになって、わたくしが一番心待ちにしていたのがそれ。
 子供の頃はもちろん、聖女として聖都の聖女宮に詰めることになってからもずっと周囲には護衛の方々がいっぱい詰めてらして。
 街中を自由に見て歩く。
 そんなこと一つまともにできなかったわたくし。
 庶民の暮らしや恋愛、そういった諸々も、御本で読むだけでしたから。
 たまに馬車の窓から見る街の人々の楽しそうな笑い声。
 聖都のお祭りで、舞台の上から眺めるおいしそうな食べ物の屋台。
 そんな雰囲気にずっと憧れていましたから。

 せっかく聖女のお役目も終わってしまったことですし、この機会に少しぐらいはめを外してもバチは当たりませんよね?

 少しくらい、楽しい思いを経験しても、神様は許してくださいますよね?

 わたくしももう十五歳になるのです。
 お父様やお母様とご一緒じゃないこの機会に、自分の足で自由に街を歩いてみたい。

 ここまでくる間の馬車の中で、ずっとそんな計画をファフナと一緒に立てていました。
 実際明日の予定なんて必要なことは何も決まっていないはず。
 お婆さまにも、ゆっくりのんびり過ごしなさい、って、言われたもの。

 ふふ。
 考えるとほんと心が躍ります。

 さあ明日はどこに行きましょうか。
 昔お母様に連れて行って貰ったのは庁舎とかそんなお堅い場所ばかりでしたから。
 かわいいアクセサリーのお店とか、あるかしら?
 御本がいっぱい売っているお店も見てみたい。
 美味しい食べ物のお店だって、きっとあるに違いないもの。

 聖女のお仕事にはちゃんとお給金がでていました。
 お母様ったら、「ちゃんと自分で貯金しておきなさい」って仰ってくれていたから、そのままみんな手付かずで残って居ます。
 侯爵家が経済的に豊かなことも、わたくしの生活に自分のお金なんか使う余地がないこともお母様は充分ご存じだったでしょうに。
 それでも「アナスターシアが稼いだお金はあなた自身の財産です。自分でちゃんと貯金しておきなさい」って。そう口癖のようにおっしゃって。

 だから。

 街で買い物をするお金はそこから出しましょう。
 そうすれば誰にもおねだりしなくてもいいですしね。
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