「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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アウラの結界。

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「はは! いつみてもしけてんな。客なんか一人しかいねーじゃねーか。いいかげんこんな店は閉めちまって、この場所開け渡してくんねんかなぁ?」

 いかつい顔のちょっと怖いお兄さん。意地の悪そうな表情を浮かべそうのたまった。
 後ろの男たちも剣をちらつかせ威嚇している。

「あんたらが! あんたらがそうやって乗り込んでくるようになったからお客さんも避けるようになっちまったんだろうが! 従業員もみんな怖がって辞めちまうし! どうしてくれんだ!」

「そりゃぁそうだろうよ。そうなるように仕組んでるんだもんなぁ? なあお前たち」

「だからこんな店、さっさと畳んじまえばいいんだよ!」

「そーだそーだ!」

 後ろの荒くれたちもそう声を荒げる。

 ああ、こんなに美味しいお店なのに。
 このおじさんがここの店主さんなんだ。従業員さんもお客もいないのはこいつらのせい?

 そう考えるとなんだか腹が立ってきた。

 何があったのか知らないけれど悪いのはそこの荒くれたち。それは間違いなさそうだ。理不尽に脅してこの土地を手に入れたいのか。そういえばここは場所的には悪くない。人通りも多い街の中心街にあるし隣近所には同じような飲食店も多い。特に近所のモックパンさんなんかだと多分菓子パンも人気で繁盛してるはずだし。ここだってこんなにお客がいないのがそもそもあり得ない状態なのだろう。

 荒くれたちはジリジリ店主さんに近づいて威嚇の圧力を強めている。
 負けじと睨み返す店主さんだったけど、多勢に無勢。
 あわあわとしながら見守っていると、後ろの男の一人が手に持っていたチェーンをむちのように地面に叩きつけた。
 その勢いで床のタイルが弾けて跳ね上がる。

「なんてことを!」

「なあオヤジ、お前の頭もこうなりたいか!?」

 ニタニタふざけた顔をしながらもう一度チェーンを持った手を振り上げた!



 だめだ!!
 店主さんの頭を直接狙ってるわけじゃなさそうだけど、あの角度だとショーケースには間違いなく当たる。
 店主さんの目の前のショーケースが粉々になったら、その破片は店主さんにも降りかかって大怪我をするかもしれない。
 ううん、あれは絶対に危ないよ!!

 あたしは思わず席を立っていた。そのままカウンターの中に飛び込み店主さんを庇うように抱きついて。
 あたしの周囲には風の魔法アウラの結界が張り巡らされている。
 これがあれば少々のガラスの破片なんか通さないから。


 ガッシャン!!
 すごい物音を立ててショーケースのガラスが砕け散った。
 あたしは店主さんを押し倒し庇うように覆い被さって隅っこに丸まった。

「嬢ちゃん!?」

「ごめんなさい、だけど見てらんなくて」

 ショーケースの中に飾ってあったドーナツもマフィンもガラスの破片とともに散らばっている。
 ああ、もったいないな。
 そんなことを思いながら、ガシャガシャンと散らばって落ちる破片をスローモーションのように感じて。



「どうした! 大丈夫か!!」
 騒ぎに気がついたのか外から数人の人が入ってきた。
 騎士服を着てる? 騎士様、かなぁ。
 薄目を開けてそれだけ確認すると、あたしはそのまま意識が遠のいた。
 あまり使ってこななかった魔法を目一杯使っちゃったから反動でもきちゃったか、な、ぁ……。



 ♢ ♢ ♢

 通りまで響くほどの物音に不審に思い店に飛び込むと、そこにはならず者風な男が四人、剣をぬきチェーンを振り回し、店のショーケースを破壊したのだろうかそこにはさっきまで食べ物であっただろう残骸が撒き散らかされていた。

「貴様ら、一体どういう真似だ!」

「これはこれはお貴族の騎士様か。俺らは頼まれてこの店を解体にきただけですがね」

「そんなわけあるか! そこに蹲っているのはこの店の人間ではないのか!? 乱暴な方法で営業を妨害するのは御法度だ!」

「っち! でもねえ兄さん、この店の土地の権利を持っているのはこっちなんでさぁ。居座ってるのはそこのオヤジでね」

「何? しかし乱暴が許されるわけじゃないぞ!」

「まあいいや。ケチもついたし今日のところは引き上げてやる。でもなぁ、おいオヤジ! これで済むと思ってんじゃねーぞ! とっとと店畳んで田舎に引っ込むんだな!」

 吐き捨てるようにそういうとズカズカと引き上げていく荒くれたち。

「おい、大丈夫か!」

 粉々になったショーケースを覗き込み、声をかける騎士。

「申し訳ねえ。騎士様。面倒に巻き込んじまって」

 かかっているガラスのかけらを払うようにして体を起こす店主。胸には気絶した女性を抱えている。
 16、7ぐらいだろうか。赤い髪の、しかし顔立ちはとても整った美しい女性だった。

「その、女性は?」

「お客さんなんですがね……、あいつらが暴れた時に俺を庇ってくれて……」

「ふむ。気を失っているだけのようだな。不思議なことに怪我も、なさそうだ」

「守り石か何か持っていたんでしょうか」

「そうだなジーニアス、その可能性が高そうだ。あれだけのガラスの破片、触っただけでも怪我をしただろうに」

「はい。ギディオン隊長。よほど強力な守りの魔法だったのでしょう。この少女は貴族でしょうか?」

「かもしれないな。どちらにしても彼女はうちの騎士団の駐屯所に連れて行こう。このままほうってはおけない。いいかな? 店主」

「ええ、申し訳ねえ。もう今日は店じまいだがこの惨状を片付けなきゃなんねえ。嬢ちゃんには悪いがここには介抱してやるベッドもねえ。お願いします騎士様」

「しかし。奴らの言っていたことは本当なのか? 権利は向こうにあるというのは」

「騙されたんで……。去年の原料高の際、輸入砂糖を融通してもらう時に、『預かるだけだから』って言ってやがったくせに、砂糖の代金を返しに行ったらその10倍払わないと権利書は返せないって言い出しやがって。証文も偽造してやがって、役所に訴え出ても正式な証文だと言われ相手にしてもらえねえんだ……。どうにもこうにも、こうやって居座って抵抗するくらいしかできなくってね……」

「ふむ、で、奴らは?」

「表通りのモックパンに雇われた冒険者くずれのならずもの達ですよ。モックパンのジジイめ。困った時はお互い様だとか甘い言葉で近づいてきて、結局うちが目障りだっただけじゃねえか、ってね……。申し訳ねえ。騎士様たちに愚痴っちまった」

「なるほど」

「ほんと迷惑かけちまって申し訳ねえ。もう少し粘るつもりだったが、ここまでかねえ……」

 肩を落とす店主。

 気絶した赤毛の女性はジーニアスと呼ばれた騎士が抱き上げる。

「それでは私たちは行くが、そう気を落とすなよ。この件はこちらでも少し調べてみよう」

「ああ、申し訳ねえ。いや、騎士様たちが肩を持ってくださってもあの証文がある以上どうにもならねえのかもしれねえが。ほんとすまねえ……」


 少しだけ気を持ち直した店主は、彼らが帰るのをいつまでも見送って。
 女性を抱き上げた騎士は、そのまま手慣れた様子で馬に跨り。
 騎士達は街の西にある騎士団の駐屯地へと向かって行ったのだった。
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