62 / 74
帝国。
しおりを挟む
今回の旅行はちょっとばかり大所帯となった。
馬車は荷馬車も含めて四両。侍女さんも護衛も引き連れての旅になってしまって。
というのもお父様が、「仮にも一国の公爵家の人間が帝国領を通るのに、着の身着のままろくすっぽ荷物も持たずに行くつもりか!」とおっしゃって、ギディオンさまもそれに納得なさっていたから。
貴族ってめんどう。
ほんとしょうがないなぁ。
侍女さんも連れて護衛の騎士さんも一緒だから大所帯になるのはまあ仕方がない部分もあるけど、正直もう少しこんな大袈裟じゃない旅がしたかった。
ギディオン様と二人楽しく旅行ができたら、それでよかったんだけどな。
商人ギルドの人とか冒険者ギルドの人なら移動の自由がある。犯罪者として手配されている人以外なら、普通帝国内だったらどこでも移動は自由だった。もちろん各地の要所には関所となる街があるけれど、それでもギルドカードさえ所持していれば比較的審査は緩いそうだ。
アランさんは商人ギルドと冒険者ギルド、二枚のカードを所持しているらしい。帝都に行った時の思い出話とかもこの間聞かされたけど、なかなか楽しそうだった。羨ましいな。
今回行くベルクマール大公領は帝都に行くのとは正反対な方向にある。途中、ヘルマウント山脈っていう物騒な名前の山の脇を迂回することになるけど、その先にある聖都は広大な盆地の真ん中にあるらしい。っていうかね、地図を見てみたことがあるんだけど、実はこの世界、帝国のあるエウロパ大陸(ううん、亜大陸って言った方がいいのかな? 今でははるか東の地まで陸が続いていることもわかっている)って、地球のヨーロッパとよく似た地形になっている。
帝都がある場所がローマ、マグナカルロはヴェネツィア、ベルクマールはウィーン。
そんなイメージかな。
もちろんこの世界の地図がどこまで正確なのかわからないし、あたしが覚えている地球の地図だって曖昧だ。
だから完全に一致しているのか、という疑問には答えが出ない。
文化的にもよくわからない状態で、この世界は帝政ローマの時代が長く何千年も続いた後のヨーロッパ、といった雰囲気もある。
帝国。
今年は帝国暦6751年。
すでにその成り立ちから6000年以上の年月を綴っている。
この世界の中心である皇帝が君臨するその帝国は、周囲の多数の国家からなるパクスの地だ。
北方のガリアの地もかつては未開の地と呼ばれていたけれど、今では充分に発展しているし、そのまた北に位置するノーザランドすら人はその営みをはじめている。
帝国を構成する東の端にあるマグネシア周辺から陸路海路を抜けたさらに東には、龍が住まうという華国がある。
南に目を向けると、砂漠の先にカナンという国家があることも知られている。
それらの国家とはほぼほぼ交易のみ。文化的な交流も多少はあるけれど、あまり深入りすることなくゆるくつながっている。そんな状態がここ数千年の長きに渡って続いていた。
地球のように過激な戦争がないのは、ひとえに魔王の脅威が人々の心に染み付いているからかも知れなかった。
帝国が帝国となったのは初代カエサルの時代。小国の連合であったそれまでの国を武力で征服し統一国家を作り上げた初代皇帝だ。
実は初代の魔王と呼ばれる人、その人こそがこの初代皇帝カエサルなのだという。
帝国の歴史を習うと必ず出てくるこの人物。彼が魔王ということは皇帝は魔王の血をひいているって事?
最初はそうも思ったけどどうやら少し事情が違うらしい。
そもそもこの初代魔王皇帝カエサルはそのあまりにも行き過ぎた恐怖政治により民の反感を買い、最終的には自分の甥に暗殺されている。後継者にするべく妹の子オクトバスを養子にしたカエサル。まさかその甥に倒されるとは皮肉な話だ。そのオクトバスが次の皇帝であり現在の皇帝はその血筋なのだと。
ここで実は諸説あるのが、カエサルは暗殺されたのではなく封印されたのだという説。
そしてその封印された時に残されたもの。それが魔王石という存在だった。
以来魔王はおよそ500年の周期で復活し、そして封印されてきた歴史がある。
長い歴史の中でそんな魔王の封印を担ってきたのがベルクマール大公家だったのだということだ。
帝国暦2156年、当時のガイウス帝の治世に復活した魔王に立ち向かい、そしてそれを打ち負かし再度封印する事に成功した勇者オクタヴィアヌス。
そして帝の妹君であった大予言者カッサンドラがその勇者に降嫁し、当時のベルクマール大公国を興したのだという。
オクタビアヌスは大公となり、その後一度もその血を途絶えさす事もなく続いていると。
また、この大公家には必ず帝の血筋のものが公主として祭祀に携わっている。
祭司として、大予言者、大聖女としての能力を持つ帝の血筋の女性が必ず。
時としてそれは大公家との縁組であったりもするが、必ずしもそうではなく。ま、血筋を濃くし過ぎない為でもあったのだろうけれど。
必要なのは、勇者である大公と大予言者である公主がどの時代も必ずこの地に存在する、という事であり。
それがオクタヴィアヌスとカッサンドラから連綿と続くベルクマールの伝統なのだった。
馬車は荷馬車も含めて四両。侍女さんも護衛も引き連れての旅になってしまって。
というのもお父様が、「仮にも一国の公爵家の人間が帝国領を通るのに、着の身着のままろくすっぽ荷物も持たずに行くつもりか!」とおっしゃって、ギディオンさまもそれに納得なさっていたから。
貴族ってめんどう。
ほんとしょうがないなぁ。
侍女さんも連れて護衛の騎士さんも一緒だから大所帯になるのはまあ仕方がない部分もあるけど、正直もう少しこんな大袈裟じゃない旅がしたかった。
ギディオン様と二人楽しく旅行ができたら、それでよかったんだけどな。
商人ギルドの人とか冒険者ギルドの人なら移動の自由がある。犯罪者として手配されている人以外なら、普通帝国内だったらどこでも移動は自由だった。もちろん各地の要所には関所となる街があるけれど、それでもギルドカードさえ所持していれば比較的審査は緩いそうだ。
アランさんは商人ギルドと冒険者ギルド、二枚のカードを所持しているらしい。帝都に行った時の思い出話とかもこの間聞かされたけど、なかなか楽しそうだった。羨ましいな。
今回行くベルクマール大公領は帝都に行くのとは正反対な方向にある。途中、ヘルマウント山脈っていう物騒な名前の山の脇を迂回することになるけど、その先にある聖都は広大な盆地の真ん中にあるらしい。っていうかね、地図を見てみたことがあるんだけど、実はこの世界、帝国のあるエウロパ大陸(ううん、亜大陸って言った方がいいのかな? 今でははるか東の地まで陸が続いていることもわかっている)って、地球のヨーロッパとよく似た地形になっている。
帝都がある場所がローマ、マグナカルロはヴェネツィア、ベルクマールはウィーン。
そんなイメージかな。
もちろんこの世界の地図がどこまで正確なのかわからないし、あたしが覚えている地球の地図だって曖昧だ。
だから完全に一致しているのか、という疑問には答えが出ない。
文化的にもよくわからない状態で、この世界は帝政ローマの時代が長く何千年も続いた後のヨーロッパ、といった雰囲気もある。
帝国。
今年は帝国暦6751年。
すでにその成り立ちから6000年以上の年月を綴っている。
この世界の中心である皇帝が君臨するその帝国は、周囲の多数の国家からなるパクスの地だ。
北方のガリアの地もかつては未開の地と呼ばれていたけれど、今では充分に発展しているし、そのまた北に位置するノーザランドすら人はその営みをはじめている。
帝国を構成する東の端にあるマグネシア周辺から陸路海路を抜けたさらに東には、龍が住まうという華国がある。
南に目を向けると、砂漠の先にカナンという国家があることも知られている。
それらの国家とはほぼほぼ交易のみ。文化的な交流も多少はあるけれど、あまり深入りすることなくゆるくつながっている。そんな状態がここ数千年の長きに渡って続いていた。
地球のように過激な戦争がないのは、ひとえに魔王の脅威が人々の心に染み付いているからかも知れなかった。
帝国が帝国となったのは初代カエサルの時代。小国の連合であったそれまでの国を武力で征服し統一国家を作り上げた初代皇帝だ。
実は初代の魔王と呼ばれる人、その人こそがこの初代皇帝カエサルなのだという。
帝国の歴史を習うと必ず出てくるこの人物。彼が魔王ということは皇帝は魔王の血をひいているって事?
最初はそうも思ったけどどうやら少し事情が違うらしい。
そもそもこの初代魔王皇帝カエサルはそのあまりにも行き過ぎた恐怖政治により民の反感を買い、最終的には自分の甥に暗殺されている。後継者にするべく妹の子オクトバスを養子にしたカエサル。まさかその甥に倒されるとは皮肉な話だ。そのオクトバスが次の皇帝であり現在の皇帝はその血筋なのだと。
ここで実は諸説あるのが、カエサルは暗殺されたのではなく封印されたのだという説。
そしてその封印された時に残されたもの。それが魔王石という存在だった。
以来魔王はおよそ500年の周期で復活し、そして封印されてきた歴史がある。
長い歴史の中でそんな魔王の封印を担ってきたのがベルクマール大公家だったのだということだ。
帝国暦2156年、当時のガイウス帝の治世に復活した魔王に立ち向かい、そしてそれを打ち負かし再度封印する事に成功した勇者オクタヴィアヌス。
そして帝の妹君であった大予言者カッサンドラがその勇者に降嫁し、当時のベルクマール大公国を興したのだという。
オクタビアヌスは大公となり、その後一度もその血を途絶えさす事もなく続いていると。
また、この大公家には必ず帝の血筋のものが公主として祭祀に携わっている。
祭司として、大予言者、大聖女としての能力を持つ帝の血筋の女性が必ず。
時としてそれは大公家との縁組であったりもするが、必ずしもそうではなく。ま、血筋を濃くし過ぎない為でもあったのだろうけれど。
必要なのは、勇者である大公と大予言者である公主がどの時代も必ずこの地に存在する、という事であり。
それがオクタヴィアヌスとカッサンドラから連綿と続くベルクマールの伝統なのだった。
158
あなたにおすすめの小説
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
【完結】王妃はもうここにいられません
なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」
長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。
だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。
私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。
だからずっと、支えてきたのだ。
貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……
もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。
「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。
胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。
周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。
自らの前世と、感覚を。
「うそでしょ…………」
取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。
ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。
「むしろ、廃妃にしてください!」
長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………
◇◇◇
強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。
ぜひ読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる