「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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透き通って。

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 ♢ ♢ ♢


 ベルクマール大公領の聖都カサンドラは、古い街並みだけれどなんだか懐かしさを感じる。
 下町のすぐ近くにある大公のお屋敷には大門があり、その奥の中庭にはものすごく大きな木が一本生えていた。
 樹齢何千年? って感じの大きな木。
 これも、どこかで見たことがあるような、そんな気がする。
 どうしてだろう。
 あたしはここにきた覚えはないのに。

「こちら、西側の離れが今日からしばらく私たちが泊まる場所だよ。元々はニーアがこちらにきた時に滞在する館なんだけどね。ちゃんと使っていいって許可ももらってあるから」

「お姉様の?」

「ああ。ニーアはね、帝国聖女宮所属の筆頭聖女であると同時に、大予言者「カッサンドラ」の名を受けつぐこのベルクマール家の公主でもあるんだ。だからこの大公家の屋敷の西の離れに、こうして彼女専用の館を持っているのさ」

「え、それって歴史で習う勇者と公主のお話の、ですか?

「うん。そうだよ。まだ今この時代には魔王は現れていないけどね」

「では、だったら、今代の勇者様は……」

 もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら……。

「うん、一応ね、私ということになっている。少なくとも帝国聖女庁ではそう認定されている、っていうだけだけどね。まあでもそのおかげで聖女庁が所有するマ・ギアを複数所有することが許されているから、こうして君や皆を守る力が今の私にはあるからね。よかったと思っているよ」

 あああ。
 確かにあたしはギディオン様に助けてもらった。
 それが勇者の力というならすごく納得なんだけど、それでも……。

「魔王が現れたら、ギディオン様は戦いの場に赴くこととなるのですか……?」

「はは。それが私の役目だからね。いや、もし私が勇者ではなかったとしても、魔王が現れ君が危険に晒されるようなことになるのなら、きっとこの身に変えてでも君を守るよ。セリーヌ」

「怖くは、ないのですか……?」

 そんな。
 まだ現れてもいない魔王だけれど、そんな魔王が現れた時には率先してかの者たちと戦う運命だなんて。そんな宿命を背負わされていただなんて。

 目頭が熱くなる。まぶたに涙がたまるのが、そして重みに耐えきれずそれが落ちていくのがわかる。

「怖いよ。いつだって怖い。だけど、私は目の前で大事な人が傷つく方がもっと怖い。だから自分にその力があるのなら、それを使うことに躊躇はしない。君のことが大事だから、絶対に守りたいから……」


 あたしの頬の落ちた涙をさっと拭い、そして優しく抱きしめてくれたギディオンさま。

 心臓がドキドキと鳴り止まらなくなって。いつの間にか涙も止まっていた。
 頬の熱さが増して、あたしはそのままギディオンさまをふんわりと見上げる。

 こちらを見つめる彼の瞳が、とても透き通って。
 綺麗だった。
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