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涙、溢れて。

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 一瞬戸惑って。頭がうまく働かなかった。

「あ。だめ。ごめん——」

 そのまま逃げ出そうとばっと振り向く。

「ごめんセラフィーナ! 逃げないで。会えて嬉しい……」

 足を止めたセラフィーナ。わけがわからなくてルークの方に振り返り彼の顔を見ると、なんだか懇願するようなお顔になっている。
 保安局の局長という立場の時には考えられないだろう、そんな。

「ルーク、さま……?」

 泣き出しそうな表情にも見えるルークヴァルトに、セラフィーナは戸惑って。

「君の手紙、見たよ。真っ黒な子猫がよっこらって運んできたけど、あれは君の猫?」

「うん。森で拾ってティムしたの。賢いんだよ……」

「私は、バカだった。結局君に助けられて。君の体が心配だったのは間違いないのに、助けられたって事実に嬉しくてどうしようもない自分もいて……」

「わたし、旦那様の役に立った?」

「ああ、役に立ったどころじゃないよ。本当にすごく助かったし。こうして君に会えて嬉しくてしょうがないんだ……」

 ゆっくりと近づいてくるルーク。セラフィーナのそばまできたところで跪く。

「君と離れている間、いつも君のことを考えていた」

 跪いたままセラフィーナの手をとる。

「嘘。だって、ルーク様はわたしのことなんてなんとも思っていなかったはずなのに」

「それは違う。最初のうちは君をどう扱っていいかわからなかっただけだ。君には自由にしてもらいたかった。だからあまり干渉するのは良くない、そう思っていたんだ」

「わたしが内気なおとなしいままだったら、ずっと知らん顔してたでしょう?」

「そんな……。いや、それはしかし……」

「いいの。だってそういうふうなわたしだったのは事実なんだもの。わたしが変わったこと、兄様はなんて言ってた?」

「アルバートは何も。みょうに考え込んでいた時期はあったけれど」

「そっか。あのね、ルーク様。わたし、あの最初のお屋敷で『君を愛することはない』って言われた時のその直前、ううん、その前の記憶、途切れてたんだ」

「なんと!」

「今はね、記憶も断片的には思い出したの。でも、当時の感情とかを思い出せなくて」

「そんな、セラフィーナ……」

「結婚する前のわたしは、ルーク様が大好きだったのよ。だから、縁談の話兄様から聞かされた時は舞い上がって。喜んでお屋敷にやってきたはずなの。もうその時の気持ち、思い出せないんだけど」

「今は? どう思ってるの?」

「今は……わかんないの、自分の気持ちが良くわからない。貴方が好きだったわたしじゃもう無いんだって意識もある。でも、それでも、貴方のことが心配でたまらないの。なんでもいい、貴方の役に立ちたくてしょうがないの……」

 最後は涙声になってしまっていた。
 いつの間にか目から溢れる涙に困惑し、それでも。

「ありがとうセラフィーナ。今はそれだけで十分だ。私が貴女を愛しているんだから。だからそれで……」

 すっと立ち上がりセラフィーナを抱きしめるルーク。セラフィーナも、彼の胸に少しだけ身をよせ。そのまま身体を委ねた。
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