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書き置き。

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 朝が来た。ここはセラフィーナの自室。自分の寝室だということに気がつくまで数秒かかった。
 長い夢を見ていた気がする。エメラ時代の、それも物心がついた当時の夢。
 それにしても。
(わたし、いつの間に王都に戻ったんだろう?)
 マキアベリ侯爵領の屋敷に乗り込んで、魔素の繭からブラドが出てきたところまでは記憶がある。
 だけどその後の記憶が、ぽっかり失われているような……。

 まさかとも思うけれど、流石にマキアベリ領からこの王都までずっと気を失ったまま運ばれたのだとは考えにくい。
 それに。

 なんとはなしに部屋が寒い。
 ベッドから体を起こして窓の外を眺めて見て愕然とした。
 窓の外に広がる壮大な庭園が白銀の世界と化していたから。

(いつの間に? これは雪? 魔法じゃないよね? ほんとに今は冬?)

 マキアベリ領に出向いたにはまだ秋になったばっかりのことだった。
 冬になれば雪深い領地に出向くのは難しい。
 だからその前に。
 そういう計画だったはず。

 まだ冬の訪れまでにはふた月以上あったはず。
 王都に雪がこんなにも積もるのなら、三月は猶予があったはずだった。

 それに。

 よくよく今の自分の格好を確認してみると、持ってはいなかったはずの冬の夜着を身に纏っているのに気がついた。
 ライトグリーンがベースでふんわりとしたもこもこの生地の夜着。
 自分の趣味じゃない。これはまるで。

(まさか!)

 まさかとは思うけれど、気を失っている間の自分は元のセラフィーナだった?
 そんな考えが頭をよぎる。

 自分がセラフィーナの記憶があるだけの魔女エメラの人格だというのは自覚がある。
 いや、仮に自分がセラフィーナ本人なのだとしても、婚姻前の人格は自分のものだと納得はできていなかった。
 子供の頃の思い出、感情には引き摺られていたけれど、それでも。

 記憶喪失。多重人格。
 そんな言葉が頭をよぎる。

 確かにそう考えると納得はできる。

 そのほうが、自分がセラフィーナの体を乗っ取ったのだという怖い想像に囚われるよりはマシだ。そうは思っていた。

 ふっと。

 チェストの引き出しが気になって。
 ああ、もしかして。
 そう思って鍵付きのその引き出しを開けてみる。

 それは、自分が記憶と魂をセラフィーナと共用している証拠にも思えた。
 ふっと「これがここにある」という記憶が頭の中に浮かんできたのだから。

 そこにあったのは、セラフィーナが自分に残した書き置き、だった。

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