お飾り妻は離縁されたい。「君を愛する事はできない」とおっしゃった筈の旦那様。なぜか聖女と呼んで溺愛してきます!!

友坂 悠

文字の大きさ
27 / 65

厄災。

しおりを挟む
 ♢ ♢ ♢

 その年はあとから厄災の年と言われるほど、世界に異変が起きた年だった。
 それはこの国、神に護られた筈の剣と魔法の国、アルメルセデスにおいても例外ではなく。

 魔王が誕生しただのと、そして遠く離れたその国では大聖女がその魔王と対峙しているだのという話が聞こえてきたかと思うと、このアルメルセデスにおいても至る所に魔界へ繋がる門が開き、そこから魔獣が湧いてきて、人々を襲い始めた。

 元々聖なる氣に覆われたこの国ではそういった魔獣が現れることも少なく、人々が平和に慣れすぎていた弊害で、被害は拡大していった。

 魔界とは閉じた泡状のブレーンの内側に存在する魔だまりの世界だった。
 その空間が破れ、こちらの側の世界に溢れてきた生命体とよく似た存在、それが魔獣と呼ばれるものだったのだ。

 まず対処にあたったのは王国の騎士団だった。
 あちらこちらに開いた魔だまり。
 溢れ出る漆黒の魔と多くの魔獣。
 まだ小さいうちに対処が間に合った地域では、それは騎士たちのみでも何とか片付けることが可能だった。相応の被害はあったがそれでも、そこまで大事にならずに収まったのだ。

 しかし。


 中には魔界の門が開ききり、スタンピードと呼ばれる魔獣の大発生が起こった地域もあって。
 そのうちの特に二ヶ所。
 東のスタンフォード侯爵領と西のマーデン男爵領が特に大きい被害に見舞われたのだった。

 スタンフォード侯爵領は、その陣頭指揮に立つべき侯爵が騎士団長という職にあったため、自身の地元を後回しにした上で各地を転戦していたが為。
 マーデン男爵領は、元々力の無い男爵家であったことと最も遠方の領土のため、騎士団が派遣されるまで領内の兵士では対処が間に合わなかった所為。
 結局、最終的に騎士団を二つに分けその対処に当たったのだったけれど。

 斥候の調査の結果、より大きい被害の出ているスタンフォード侯爵領に主力が向かい、マーデン領には騎士団長の息子サイラスが率いる小隊が向かうこととなった。
 そこまでの被害の大きな魔獣が溢れる漆黒の次元の裂け目を閉じるには既存の魔術具では不可能であったため、希代の聖女と呼ばれた先代聖女アデリーンを同行させて対処する必要があり。
 国の東と西に離れた二ヶ所を同時に対応するには無理があった。
 サイラスに任されたのはマーデンの領民を護ること。
 魔獣の被害を極力防ぎ、父騎士団長アッシュバルトが到着するまで持ち堪えること。
 だったのだ。

 サイラスが小隊を率いマーデンの地に到着したのは秋も深まったある日。
 森林の多いこの地では紅葉樹も多く、樹々は真っ赤に色づいていた。
 普段だったらそんな赤とて綺麗な色だと感じた騎士団の面々も、その赤い色から森の中に蠢く大量の魔獣と、被害にあった領民の血を連想し。
 陰鬱な気分のまま領都に入って。

 しかし不思議と、その領都の城壁の内側だけは清浄な空気に満ちていた。
 魔獣が現れるため秋の刈り入れができず困っている領民の姿はあったが、この城壁の中までは魔獣も押し寄せてこないのだと安心して、ほっとしている雰囲気もある。

 領主の館に入った騎士団。
「どういうことなのだ」
 と思わず声に出していたサイラス。
 まるで。
 そこだけは神に護られた空間だとでもいうように。
 魔を寄せ付けない清浄な、まるで聖域とでもいうような、そんなシェルターであるようにさえ感じられた。


 気の弱そうな男爵夫妻。
 負けん気が強そうな長女と、そしてまるで人形のように整った容姿の次女。
 亜麻色の髪の父親と薄い金色の髪の母親から産まれたにしては稀な白銀の髪を持ったその次女は、侍女のお仕着せを真似たような小さなエプロンドレスを着て、ちょこまかと皆の手伝いをしていた。
 長女の髪が黄金の豪奢な髪に対して、次女のそれが白銀で糸のように細いストレートな髪質をしていたことから、屋敷の中でもよく区別がつく。
 男爵夫人や大人に混じり騎士団の面々に弁当を運んだり、飲み物を運んだりと頑張っているその姿は微笑ましかった。

「騎士様、お茶をどうぞ」
 頬をピンクに染めながら、小さな手でお茶を差し出すその少女に。
 サイラスは笑みを返し、「ありがとう」と受け取って。

 時々そうしてお弁当や飲み物を渡してくれるその少女。近づいてきてはくるくるとした瞳で興味深そうにサイラスの顔を覗き見て。
 お礼を言うと満面の笑みをこぼす。

 食べ物のお礼にと頭をくしゃくしゃっと撫でてやるとすごく喜んで。
 次第に猫の子のように懐くようになった彼女が。
 殺伐としていた戦いの中、サイラスにとってそのふれあいが唯一の安らぎだった。


 突然。
 伝書鳩によってそんな知らせが舞い込んだのは、雪が降り出した頃だった。

 父、アッシュバルトの訃報。
 騎士団は壊滅。女だてらに剣をもち、援護に出ていた母も重傷を負ったという。
 母を庇った父は魔獣のボスと差し違え、聖女エデリーンの浄化によって魔界の門は閉じた。
 東のアルルカンドにおける戦線は終結したとのことだったけれど。

 援軍は絶望。
 今いる戦力でこの領都を囲む魔獣たちを倒し突破口を開かないことには、食糧もわずかとなったこの状態では冬を越すのも難しい。

 サイラスは残る騎士を鼓舞し、門の外に向けて打って出たのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―

柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。 しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。 「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」 屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え―― 「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。 「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」 愛なき結婚、冷遇される王妃。 それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。 ――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした

三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。 書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。 ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。 屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』 ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく―― ※他サイトにも掲載 ※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

処理中です...