お飾り妻は離縁されたい。「君を愛する事はできない」とおっしゃった筈の旦那様。なぜか聖女と呼んで溺愛してきます!!

友坂 悠

文字の大きさ
26 / 65

もう限界、だった。

しおりを挟む
 ♢ ♢ ♢

 シルフィーナが旦那様と契約したあの三年の期限もあと少しと迫った冬のある日。

 あれからの日々、シルフィーナはひたすら侯爵夫人として相応しく、その想いだけで過ごしていて。
(わたくし、頑張ったの、ですよ……)
 そう旦那様に言いたくて。
 でもそんなこと言えなくて。


「まあ。シャルル様は絵がお上手なのね」

「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」

 頬を染めそう答えるのはエヴァンジェリンの息子、ロックフェラー公爵家の末の御子息であるシャルル。
 彼も今年の春には貴族院初等部を卒業し貴族の一員と認められるお歳になる。
 本日はエヴァンジェリンとご一緒にいらして、お母様がサイラス様とご用事を済ませている間、シルフィーナとこうしてお絵描きをしながら待っているのだった。
 ロックフェラー公爵には四人の御子息がいらっしゃるのだけど上三人は亡くなった前妻アマリールの御子でこの子だけエヴァンジェリンの御子なのだけれど、どうやら公爵はこの末息子を溺愛しているとの話。
(まあこれだけ可愛らしい御子ならさもありなんと思うのだけど)

 公爵家は王女アウレリアを娶った長子のジークヴァルドが後継者と決まっている。
 次男は子爵位を賜りジークの補佐をし、三男は他家に婿養子に入る事が決まって。
 公爵としては、あとこのシャルルをどうするかで頭を悩ましているのだという噂がシルフィーナの耳にも入っていた。

 もしかして。
 そう思わない事もないけれど、シルフィーナが口を出すことでもないので黙っているけれど。

(もしかしてサイラス様、このシャルル様に侯爵位を継がせるおつもりなのではないのかしら?)

 それならばあの三年という期限の意味もわかる。
 結婚してもご自身に御子ができないのであれば、そういう選択肢をとっても世間的にも納得させられるだろうし。
(独身のままであればあれこれうるさく言われる事もあっただろうけれど)
 まあでも、それならそれで。
 そういう事ならそうと教えてくださってもよかったのに。
 そう恨み言も言いたくなり。

「お待たせしました。シャルル、帰りますよ」

「お母様。私の絵を褒めていただいたのですよ」

「まあまあ。お義姉様、シャルルをみていてくださってありがとうございます」

「いえいえエヴァンジェリン様。とても楽しく過ごさせていただきましたわ。もうご用事はお済みですの?」

「ええ。まあでもお兄様もあれでなかなか頑固なところがありますから、お義姉様もご苦労されてらっしゃるでしょう?」

「旦那様はお優しいので。わたくしは本当に良くして頂いていますから」

「もう、ほんと仲が宜しくて羨ましいわ。またご一緒にお茶でもしましょうね。いろいろとお話ししたいことがありますし」

「ありがとうございますエヴァンジェリン様。その時はまたよろしくお願いしますね」

「ええ。それではごきげんよう」

「ありがとうございますおばさま」

「シャルル様も、またいらしてくださいね」

「ええ。ぜひまた」


 笑顔を振りまいて二人は帰って行った。
 旦那様が見送りもせず部屋に篭ったままだったのが、ちょっと気になって。







 エヴァンジェリンが訪ねてきた翌日から、旦那様はお部屋に篭って出ていらっしゃらなくなった。
 騎士団のお仕事もお休みし、お屋敷のお仕事も全てセバスに丸投げにして。
 お身体の調子が悪いのかとお部屋にお尋ねしても中には入れてもらえなかったシルフィーナ。
 いつも一緒に摂っていた朝食も、別々になって。

 心配で心配で。
 ご飯も喉を通らなくて。
 そういえば元々食が細かった旦那様。
 今はどうされているのだろう? 誰に聞いても答えて貰えず、拒否をされているようで。

(わたしは本当の妻では無いから……)
 心配もさせて貰えないのかと、そう思うと腹が立ち、そして悲しくなる。

(もしかしてこのままわたくしはお払い箱になるのでしょうか。旦那様に会えないまま……)
 それは悲しすぎて。
(旦那様から別れを告げられる前に自分から身を引いた方がいいかもしれません)
 そんなことも考えてしまい。

 十日が経ち。

 流石にもう我慢ができなくなったシルフィーナはこっそりとお部屋に潜り込む決心をして。
 旦那様が心配なのが半分。
 この自分の気持ちを何とかしたいのが半分。
 期待をしてはいけないのは十分わかっていて。
 自分は旦那様にとってはただのお飾りの妻。
 だから。
 もう限界、だった。

 セバスや護衛の方々のガードを掻い潜り部屋の前にたどり着いたシルフィーナ。
 時間は夜半もうそろそろ月が天頂に届く頃。
(今夜なら、月にも力を貸してもらえそう)
 そんな事を思いつつこっそりと扉を開け中を覗く。
 旦那様の寝室は初めて入るので勝手がわからなかったけれど、それでも大体の見当をつけて部屋の奥に進むと。

(あああ)

 まるで人形のような肌の白さになった旦那様がベッドの上に横たわっていた。
 
 それはまるで、命の火が消えかけているように見えて。


 そんな。そんな。
 旦那様。
 嫌だ。
 嫌だ!
 嫌だ!!

 死んじゃいや!

 シルフィーナは旦那様のベッドの脇に縋り付くように跪いて。

 どうか神様。
 わたくしはどうなってもいい。
 どうか旦那様をお助けください。

 お願いキュア。
 力を貸して。
 お願い。
 どうか。

 旦那様の手を握って。
 その冷たい手に心のゲートからマナを注ぎ込み。


 急激に溢れ出すマナに。
 部屋中が光の渦に包まれて。

 いつしかシルフィーナの意識は途切れ。


 そして——
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―

柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。 しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。 「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」 屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え―― 「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。 「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」 愛なき結婚、冷遇される王妃。 それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。 ――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも
恋愛
「今回で最後だ。誓うよ」 これは二度目の『結婚式キャンセル』の時に言われた言葉。 四年間、愛する婚約者ディートリッヒのため尽くし続けてきたイリス。 だがディートリッヒは、イリスの献身を当然のものとし、やがて初恋の令嬢エレノアを優先するようになる。 裏切り、誤解、そして理不尽な糾弾。 心も身体も限界を迎えた夜、イリスは静かに決意した。 ──もう、終わらせよう。 ディートリッヒが「脅しのつもり」で差し出した婚約解消の書類を、イリスは本当に提出してしまう。 すべてを失ってから、ようやく自分の愛に気づいたディートリッヒ。 しかしもう、イリスは振り返らない。 まだ完結まで執筆が終わっていません。 20話以降は不定期更新になります。 設定はゆるいです。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

処理中です...