25 / 65
侯爵夫人という立場。
しおりを挟む
♢ ♢ ♢
「貴女にはあたくしのお仕事の補佐をお願いしたいのよ」
と、そう切り出したのはアウレリアだった。
「お義母様は公爵家の第一夫人としてのお仕事が忙しくなるでしょう? これ以上聖女宮のお仕事も続けられなくて。あたくしも聖女を降りなきゃいけないとしたら、聖女宮も大変になるの」
お茶会がお開きになった後、エヴァンジェリンに促されるままその場に残ったシルフィーナ。
プライベートなお話というのはやっぱりさっきのアウレリアの話で。
(わたくしの聞き違いではなかったのね)
と、安心したシルフィーナに対して、神妙な表情で話し始めたアウレリア。
「聖女自体は学生の令嬢の中から候補が数人決まってるの。でも、エヴァンジェリン様の後任がなかなか決まらなくて。聖女宮長官として全てをまとめる必要があるので難しいのよ」
「わたくしのお仕事は長官なんて名前はついていますけど、完全に裏方の雑用が主ですしね。なかなかやってくださる方がいないのよ」
「聖女は若い女性の憧れでもあるし名誉なお仕事だから、指名すれば受けてくださる方もいらっしゃるのですけどね」
なるほど、とうなづくシルフィーナ。
やはり聖女ともなるとそうしてちゃんと教育を受けたものでないと、とも思う。
「ですから、いっそのことあたくしが聖女を降りて長官の職に就こうと思うのですが、それでもなかなか。一人ではまだ自信もなくて」
「わたくしの時にはエデリーン様が最初補佐について下さったからなんとかなった部分もあるのですけどね」
エデリーン様? 確か伝説の聖女様のように語られていたような。
「エデリーンおばさまはもうお歳だし、ワイマー離宮から出ようとはしてくれませんから」
そう横に首を振るアウレリア。
「ですからね、貴女のその魔力量の多さと特性値の高さを、聖女宮で生かしてもらえないかと思ったのですわ」
「お義姉さまの侯爵夫人というお立場であれば、一筋縄ではいかない王宮の役人を抑えることも出来ますし」
(え?)
「そうね。お役人たちの中には頭の固いおじさまたちも多いから」
と、うんうんというように首を縦にふってエヴァンジェリンの言葉に同意を示すアウレリア。
(もしかして)
侯爵夫人としての立場が求められているのだろうか?
そうであれば。
あと2年と少し経てば自分はお役御免になる。
侯爵家からは離縁されることとなる。
最近やっとその残りの時間を侯爵夫人としてしっかりと努めよう、旦那様に迷惑をかけないようにしよう、そう思えてきたし領地にいるお義母様の手助けもしなくてはと思えるようになってきたけれどそれでも。
もちろん離縁され元の男爵家の娘に戻った後は、できれば領地には帰らず聖都で何かお仕事がしたいとは思っていた。
その方が結果的にマーデン男爵家の役に立つのでは?
そうも思う。
聖女宮のような女性が多く働く職場は興味もあったし、そこでなら自分の魔力も国のために活かすことができるのかも?
そうも考えた。
でも。
(求められているのは侯爵夫人としてのわたくしなのですね……)
「あの。お申し出は大変ありがたいのですが、そういった内容であればわたくしの一存ではお応えすることができません」
シルフィーナは下を向き、そう声を絞り出した。
「そこなのよね。お兄様はどうしても首を縦にふってくださらないのよ」
(ああ、やっぱり旦那様は……)
「もちろんシルフィーナさまが領地にお帰りになっている間はあたくしが頑張って務めますわ。ふたりであれば負担も軽くなりますから、良いアイデアだと思ったのですけど」
「最初のうちはわたくしも時間を作ってなんとか手助けをと考えておりますし、お義姉様だってきっとやりがいを感じてくださると思うのですけど。お兄様に何度もお話ししましたけどダメの一点張りで。一度ちゃんとご本人の気持ちを確かめておきたくて」
自分が本当の侯爵夫人であれば。
きっとこの申し出に喜んでいただろう。
自分の力を国のために活かす機会。
自分が誰かの役に立つお仕事ができる。
それってとっても嬉しいことで。
「すみません……。お申し出は本当に嬉しいのです。でも……」
俯いて泣き出しそうになってしまったシルフィーナに。
「ごめんなさいお義姉様。お義姉様がお兄様に逆らってこういう事を決めることなんてできないのはわかるの。だから、またお兄様を口説いてみますわ。ね?」
エヴァンジェリンにそう言って貰え、この日の話はお開きになった。
悲しそうに俯くシルフィーナに、アウレリアもそれ以上何も言えなくなってしまい。
二人に見送られるまま馬車に乗ったシルフィーナは、そのまま泣き崩れた。
「貴女にはあたくしのお仕事の補佐をお願いしたいのよ」
と、そう切り出したのはアウレリアだった。
「お義母様は公爵家の第一夫人としてのお仕事が忙しくなるでしょう? これ以上聖女宮のお仕事も続けられなくて。あたくしも聖女を降りなきゃいけないとしたら、聖女宮も大変になるの」
お茶会がお開きになった後、エヴァンジェリンに促されるままその場に残ったシルフィーナ。
プライベートなお話というのはやっぱりさっきのアウレリアの話で。
(わたくしの聞き違いではなかったのね)
と、安心したシルフィーナに対して、神妙な表情で話し始めたアウレリア。
「聖女自体は学生の令嬢の中から候補が数人決まってるの。でも、エヴァンジェリン様の後任がなかなか決まらなくて。聖女宮長官として全てをまとめる必要があるので難しいのよ」
「わたくしのお仕事は長官なんて名前はついていますけど、完全に裏方の雑用が主ですしね。なかなかやってくださる方がいないのよ」
「聖女は若い女性の憧れでもあるし名誉なお仕事だから、指名すれば受けてくださる方もいらっしゃるのですけどね」
なるほど、とうなづくシルフィーナ。
やはり聖女ともなるとそうしてちゃんと教育を受けたものでないと、とも思う。
「ですから、いっそのことあたくしが聖女を降りて長官の職に就こうと思うのですが、それでもなかなか。一人ではまだ自信もなくて」
「わたくしの時にはエデリーン様が最初補佐について下さったからなんとかなった部分もあるのですけどね」
エデリーン様? 確か伝説の聖女様のように語られていたような。
「エデリーンおばさまはもうお歳だし、ワイマー離宮から出ようとはしてくれませんから」
そう横に首を振るアウレリア。
「ですからね、貴女のその魔力量の多さと特性値の高さを、聖女宮で生かしてもらえないかと思ったのですわ」
「お義姉さまの侯爵夫人というお立場であれば、一筋縄ではいかない王宮の役人を抑えることも出来ますし」
(え?)
「そうね。お役人たちの中には頭の固いおじさまたちも多いから」
と、うんうんというように首を縦にふってエヴァンジェリンの言葉に同意を示すアウレリア。
(もしかして)
侯爵夫人としての立場が求められているのだろうか?
そうであれば。
あと2年と少し経てば自分はお役御免になる。
侯爵家からは離縁されることとなる。
最近やっとその残りの時間を侯爵夫人としてしっかりと努めよう、旦那様に迷惑をかけないようにしよう、そう思えてきたし領地にいるお義母様の手助けもしなくてはと思えるようになってきたけれどそれでも。
もちろん離縁され元の男爵家の娘に戻った後は、できれば領地には帰らず聖都で何かお仕事がしたいとは思っていた。
その方が結果的にマーデン男爵家の役に立つのでは?
そうも思う。
聖女宮のような女性が多く働く職場は興味もあったし、そこでなら自分の魔力も国のために活かすことができるのかも?
そうも考えた。
でも。
(求められているのは侯爵夫人としてのわたくしなのですね……)
「あの。お申し出は大変ありがたいのですが、そういった内容であればわたくしの一存ではお応えすることができません」
シルフィーナは下を向き、そう声を絞り出した。
「そこなのよね。お兄様はどうしても首を縦にふってくださらないのよ」
(ああ、やっぱり旦那様は……)
「もちろんシルフィーナさまが領地にお帰りになっている間はあたくしが頑張って務めますわ。ふたりであれば負担も軽くなりますから、良いアイデアだと思ったのですけど」
「最初のうちはわたくしも時間を作ってなんとか手助けをと考えておりますし、お義姉様だってきっとやりがいを感じてくださると思うのですけど。お兄様に何度もお話ししましたけどダメの一点張りで。一度ちゃんとご本人の気持ちを確かめておきたくて」
自分が本当の侯爵夫人であれば。
きっとこの申し出に喜んでいただろう。
自分の力を国のために活かす機会。
自分が誰かの役に立つお仕事ができる。
それってとっても嬉しいことで。
「すみません……。お申し出は本当に嬉しいのです。でも……」
俯いて泣き出しそうになってしまったシルフィーナに。
「ごめんなさいお義姉様。お義姉様がお兄様に逆らってこういう事を決めることなんてできないのはわかるの。だから、またお兄様を口説いてみますわ。ね?」
エヴァンジェリンにそう言って貰え、この日の話はお開きになった。
悲しそうに俯くシルフィーナに、アウレリアもそれ以上何も言えなくなってしまい。
二人に見送られるまま馬車に乗ったシルフィーナは、そのまま泣き崩れた。
3
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?
Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とその婚約者のシアン・フロスティ公爵令息の前に、昨年までシアンが留学していた隣国での友人が現れた。
その友人はロベリーと名乗り、シアン不在の時を狙い、キャナリィに何かと声をかけてくる。
キャナリィの幼馴染み兼親友のクラレット・メイズ伯爵令嬢の「必要以上にキャナリィに近付くな」と言う忠告も無視するロベリーと何故かロベリーを受け入れるキャナリィ。
キャナリィの不貞の噂が学園に流れる中開かれた新入生歓迎のガーデンパーティーで、ロベリーに心惹かれた令嬢によってそれは取り返しのつかない事態にまで発展してしまう。
「で、まずはあなたが私に嫌がらせをする理由をお聞かせいだいても宜しいかしら?──」
キャナリィに近付くロベリーの目的は?
不貞を疑われたキャナリィは無事にその場を収めることが出来るのだろうか?
----------
覗いて頂いてありがとうございます。
★2025.4.26HOTランキング1位になりました。読んでくださったかた、ありがとうございます(^-^)
★このお話は「で。」シリーズの第二弾です。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入りました。良かったら覗いてみてくださいね。
(*´▽`人)アリガトウ
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】美しい家庭教師を女主人にはしません、私は短剣をその女に向けたわ。
BBやっこ
恋愛
私は結婚している。子供は息子と娘がいる。
夫は、軍の上層部で高級取りだ。こう羅列すると幸せの自慢のようだ。実際、恋愛結婚で情熱的に始まった結婚生活。幸せだった。もう過去形。
家では、子供たちが家庭教師から勉強を習っている。夫はその若い美しい家庭教師に心を奪われている。
私は、もうここでは無価値になっていた。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる