マギアクエスト!

友坂 悠

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魔力特性値がゼロなのでEランクスタートでした。

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「だからさ嬢ちゃん。おれらについてくれば悪いようにはしないって」

 ナンパ? ううん、違うよね。
 ちょっとガラの悪いおにいさんたちにそう誘われて。
 っていうか絡まれて?

「ごめんなさい」

 とりあえずそう断った。

 ここはギルドの入り口前の大通り。
 はあ。周囲に人が集まっちゃってるよどうしよう。

「俺らこう見えてもCランクのベテランパーティだからさ。初心者ちゃんは大歓迎。先輩が優しく教えてあげるよ~」
「さっき登録してたところ見てたけどさ、嬢ちゃん魔力特性値ほぼなかったんだろ? そんな華奢ななりして魔法も使えないんじゃ、Eランクスタートっていっても先は大変だぜ? その点俺らのパーティに入れば後衛で守られてるだけでそこそこ経験値も入るしさ。良いことづくめだよ?」

「でも」
 うん、とは言えないあたし。
 ちょっと後ずさる。

「これだけ優しく誘ってやってるんだぜ? この辺で首を縦に振っといた方が身の為だよ?」
 いいかげん焦れてきたっぽい目の前のお兄さん。でもね、それでもね。

 別にこの人たちがイケメンじゃないから渋ってる、とかそういうわけじゃない。
 ガラは悪い感じだけれど一番目の前で誘ってくるお兄さんはそこそこのイケメン風ではあるし。

 確かにあたしはさっきギルドで冒険者登録をしたばっかりで、それも石板に表示されたあたしの魔力特性値はなんとゼロ。目を疑ったけれどどうしようもない。そのまま最低のEランクに登録されたあたしはとりあえず冒険者としてのスタートを切ったわけだけど。
 そういう意味では彼らのパーティに混ぜてもらうのはそこまで悪い誘いじゃない。
 優しそうな表情の裏にある、何だかにやけたような笑いがなければあたしもそう意固地にはならなかったかもしれない。

 でも。

 あたしの第六感はさっきから警報を鳴らしているのだ。
 この人たちには裏がある、と。そう。

 ジリジリと迫る彼ら。
 あたしがこんなにも嫌がってるんだから、ただの親切ならいい加減諦めてくれればいいのにそんな気配はない。

 もう、面倒だな。
 このまま大人しいままの仮面を脱ぎ捨てようかどうしようかと一瞬迷ったその時だった。


「悪いが通してもらえないか」

 背後から聞こえたその声に驚いて振り返ったあたし。

 ゾクゾクっとするようなそんな低音ボイスで現れたのは、黒い髪に黒い瞳。すらっと背が高く決して筋肉質なふうには見えないのにその肉体から強靭なオーラが溢れ出る。そんな美麗な男性だった。
(漆黒の勇者、第六王子ノワール?)
 ああ、間違いないよ。
 マギアクエストきっての名ストーリーと言われた「哀しみの勇者ノワ」
 そのメインキャラであり、最終的には魔獣、黒獣《コクジュウ》となってプレイヤーの前に立ちはだかるそのストーリーモードのラスボス、ノワ、その人だ。
 はうう。
 でも、なんで?
 こんな序盤で登場するなんて!

 あたしはそんな彼の、その黒曜石のように黒く光るその瞳に目が釘付けになって。
 呆然と。ただただ呆然としたままその彼の顔をみつめてしまっていた。

 ☆☆☆☆☆





 透き通るような青空。
 都会でこんなに真っ青で気持ちのいい空が拝めるなんて。



 そんなことを考えながらバイト先に向かってたあたし、

 野々華真希那ののはなまきな、18歳。
 今年田舎から出てきてちょっと都会の大学に入学したばっかりのぴちぴちの女子大生、って、ウソじゃナイヨ?
 そりゃあね?
 きらきらした女の子と比べたら、少しだけ地味かもしれない。
 ゲームとか小説が好きで、いっつも本を持ち歩いてるようなこんな眼鏡女子じゃ、男の子にもモテないしね?

 だけど。
 そんな女子がいてもいいじゃない。そう思うんだ。

 バイト先は「マギナプレス」って名前のゲーム会社であたしはもっぱらデバッグ要員。
 まあ好きなゲームをしてお金をもらえるなんていいなとか友達に言われたけどそこはそれ結構めんどくさい。
 使ってるのがデバッグ用のチートキャラじゃなかったら耐えられなかったかも?

 主にやってるのはうちの会社で売り出し中のヒット作。
「マギアクエスト」っていう名前のゲーム。

 最近流行りの携帯ゲーム機「Sowing Magia」
 宝石のような色合いで女の子にも人気だったそれは、ゴテゴテとしたVRゲーム機とはまたちょっと違った味わいなレトロ感も伴って、今手に入れるのも大変なくらいな人気ゲーム機で。
 2Dなレトロなゲーム画面と、3Dホログラムな画面の両方を切り替えて遊べるそれは、いかついゴーグルなんかつけなくても充分そのゲームの世界に入り込め。
 そんな「Sowing Magia」専用のゲームの中でも今一番のヒット作がこれ、「マギアクエスト」っていう名前のRPGだった。
 昔ながらの王道なRPGでありながら、遊びの自由度がハンパなくて。
 ストーリーモードを楽しむのもよし、その世界で自分の好きなことをして遊ぶもよし。
 ひと昔前のMMORPGの携帯版っていうべきものではあるんだけど、気軽にどこでも3Dホログラムで遊べるそれは、そのゲーム機を持ち寄って遊べる手軽さも相まって国民的な人気となっていったのだった。
 熱中して歩きながらゲームをする人の事故とかもあって、歩き3Dホロ禁止機能まで追加されたくらい。社会問題にもなったのだ。





 

 
 その日は暑い日差しが眩しい、そんな夏空で。
 田舎ではよくこんな綺麗な空も当たり前にあったけど、都会に出てきてからはとんと巡り会えなかったから。
 あたしは気分もよく浮き足立っていたぶん、少し集中力に欠けていたのかもしれなかった。
 

 交差点。
 点滅する信号に慌てて横断歩道を渡り切った時、だった。
 すれ違った親子連れの、お母さんに手を引かれてよちよち歩いていた女の子が胸に抱えていたSowing Magiaを落としたのだ。

「あ、ゲーム、落ちた」
 そんな声に振り返ったあたし。
 あっと思うまもなくその子はお母さんの手を振り切り交差点の真ん中までぽたぽた走って戻っていく。
「リカ、待ちなさい」
 お母さんのそんな声が聞こえたと思ったけど、躊躇をしている間は無かった。
 あたしの足はそのまま交差点の真ん中まで取って返して。
 その女の子を抱きかかえた。




 覚えているのはそこまでだ。

 プーっとクラクションを鳴らすトラック。
 キーっとブレーキをかけた音が聞こえたけど、次に襲ってきた衝撃にあたしの意識はそこで途切れたのだった。





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