マギアクエスト!

友坂 悠

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湧き出す魔。

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 湧き出す魔。
 それまで、ただの夜空だったそこに醜悪な光景が広がっていく。
 ドロドロとおどろおどろしく周囲に広がるように湧いているその魔は目玉のような丸い泡をいくつもいくつも産み出して。
 そんな気持ちの悪い物が天空を覆おうとしていた。

 その中心にいる影。

 それが声を出す。

「さあ、今からでもいいよ? もう一度ノワールを殺すチャンスをあげる。お前たちにこの魔を授けよう。さあ、ワタシのそばまで来るといいよ」

 そう人の言葉のように聞こえるそんな甲高い声。でも。

「兄さん」

 え?

 ノワール、今なんて?

 超常なそんな宙を見上げノワールが呟くように声を絞り出した。

 って、嘘うそウソ!
 あんなのがノワールの兄王子な訳がないよ!

 だってあれ、魂《レイス》からして違うもの。
 人間、じゃ、あり得ない。
 あんな禍々しい氣を撒き散らしている存在が人間であっていいはずがないもの!

 ゲームの中の魔王ですらまだかわいい。
 あれはまだ理解できた。
 うん。ずいぶんと歪んではいたしそういう設定ではあったけど、まだ人知が及ぶ存在だった。
 だって、そう、人によってそうあるように創られたものであったもの。

 だけど、あれは、違う。
 あたし今、ここにきて初めて震えが止まらなくなっている。
 あれは、だめ。
 あれは、怖いものだ。

 だめ、ノワ。

「大丈夫。マキナ。君は俺は守るから」

 震え出したあたしを優しく包み込むように抱きしめてくれるノワール。
 その体温の温かさに、あたしは少し、心が楽になるのを感じて。

「ありがとう、ノワール」

 そう抱きしめてくれている腕に頬を擦り付け、囁いた。
 はう。少し震えが落ち着いてきた?


「ああ、ノワール。お前もずいぶんと獣臭くなったね。いいよ、お前がもしワタシを受け入れるなら、殺すのをやめてあげてもいいかな?」

 おどろおどろしい甲高い声がそう言った。

 ソユーズたちがふらっと立ち上がる。
 ああ、だめ。

 あの魔を受け入れたらみんな人間じゃなくなっちゃう。
 だめだよ、絶対に、だめ。

 兄王子を騙るその魔の言葉を信じちゃったら、だめ。


 声にならないそんな声を心の中で叫ぶあたし。
 でも。

 通じてくれた?
 ううん、彼らにもちゃんとわかってる?

「俺たちは魔にはならない!」
「そうだよ! レヒト殿下のふりをしたって騙されない」
「そんな禍々しい姿で現れてレヒト様を騙るなんて、いい加減にしてほしいわ!」

 ソユーズ、サイレン、ラプラスの三人は、まるでノワールを護ろうとするかのように。
 あたしたちを庇うように前に立った。
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