七歳差の恋愛事情は苺より甘くてコーヒーよりも苦い

朝比奈歩

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本編

第一話

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その瞬間、激しい雷に打たれたような衝撃が身体を包んだ。
その人物から目が離せない。
心臓が早鐘のように打ち、どんどんと心拍数を上げていく。
初めて感じるこの気持ちに頭が混乱した。
顔に熱が集まり、火照っていくのを感じる。
互いの視線が絡まり、解けず、まるでスローモーションのように時が流れていくような気がした。
「潤にーに!どうしたの?」
とん、と脚にあたった衝撃で、潤は我に帰る。
その瞬間スローモーションは解け、今まで通り時間が流れ始めた。
それは、相手も同様だったのか、絡まっていた視線が緩やかに解けて行く。
下を向けば、保育園児の甥が不思議そうな顔で自分を見上げていた。
「ああ……ごめん、なんでもないよ」
潤は、甥っ子の稔の手を取り、再び先程の人物ーーおそらく甥っ子の担任の先生ーーの姿を見つめた。
その人物は、ゆっくりと微笑みながら潤の方へ近づいてくると、潤の目の前に立ち止まる。
「ええと……羽場稔くんのお母さんの代理の方ですね?はじめまして、俺は保育士の古谷椿と言います」
彼はそう言うと、稔の頭を撫でた。
「あ……弟の都築潤です」
少し遅れて潤が頭を下げると、椿はにっこりと笑う。
「じゃあ、稔くん。また明日ね?」
椿が稔にそう言うと、稔はその小さい手を大きく振る。
「せんせーばいばい!」
「はい、さようなら」
潤はそんな二人を見て、椿に頭を下げる。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん、今日のご飯何かなー?」
「確か、シチューって言っーー」
ピピピピピピピピ……。


軽やかな電子音が鳴り響き、潤は目を開いた。
薄暗い部屋の中を見渡すと、昨日寝たままの光景が広がっている。
ーー夢か。
潤はそう頭の中で理解すると、小さく吐息をついた。
懐かしい夢。
潤が、椿と初めて会った時の事だ。
今でも、あの出会いは鮮明に覚えている。
未だにこうして夢を見るほどに。
自分の隣を見れば、恋人……椿が潤を抱き込む様な形で横になっていた。
その目は既に開き、微かに微笑みながら潤を見つめている。
「おはよう、潤くん」
椿はそう言うと、潤を抱きしめたまま頬にキスを落とした。
「……椿さん、起きてたの?」
「うん。つい10分くらい前にね」
そう言うと、さらりと潤の髪を撫ぜる。
「なら、起こしてくれればよかったのに……」
潤がそう言うと、椿は悪戯っぽく笑った。
「んー。潤くんの寝顔が可愛くて。見ていたかったんだ」
そうさらりと言う椿に、潤はサッと頬を赤くする。
「なっ……」
「ふふ」
椿は微笑みながらその唇を潤の唇に重ねると、やっとその腕を放し潤を解放した。
「夢を見ていたの?」
ベッドの上で頬杖をついて、椿が潤に聞く。
「うん」
「どんな夢?」
「……内緒」
潤はそう言うとベッドから身体を起こし、落ちてきた髪をかき上げた。
そのまま、うーんと身体を伸ばす。
「潤くん、今日は1限から?」
「うん。だからもう起きるよ」
そう言ってベッドから降りると、潤は洗面台へと向かう。
「あ……そうだ、潤くん」
「ん?」
潤は椿の言葉に振り返ると、椿は申し訳なさそうに眉を八の字にしてベッドで頭をかいていた。
「今日、職場の送別会があってね。帰りが少し遅くなるんだ」
潤はそんな椿に視線をやると、再びベッドへ踵を返す。
そのまま椿の頬を両手で挟むと、自分の方へ顔を向けた。
「送別会なら……まあ、仕方ないよ。でも、寂しいから早く帰ってきてね。朝帰りとかしたら、怒るよ」
潤の手を自分の手で包み込む様にして、椿は微笑む。
「ん。早めに帰るよ」
チュ、と軽く唇を重ねると、椿はその手を離した。
潤は再び立ち上がると、朝の支度のために洗面台へと消える。
その背を見届けて椿は一つ伸びをし、ゆったりとベッドから降りた。
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