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本編
第4話
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今日の講義は全て終わり、潤は電車に揺られていた。
椿とともに住んでいるマンションは、大学と実家の、やや実家寄りにある。
周りからは『なんでそんな中途半端なところに住んでるんだ?』と聞かれるが、椿の勤務先のこともあるから仕方がない。
自分一人ならもっと大学に近いところに住むのだけれど。
夕焼けの景色を見ながら、ぼんやりと朝野崎の言ったことを思い出す。
ーーいっそ、本人に直接言ってみりゃいいんだよ。『ヤキモチくらい妬いて!』ってさ。その方が案外、ホッとして向こうも本音晒してくれるかもしれないぞ?
その言葉を頭の中で反芻する。
今度、言ってみよう。
少し勇気が要るけど、それでこの不安が消えるなら安いものだ。
潤は駅を降りるとコンビニに寄り、夕飯を買ってマンションまでの道を歩く。
一人の食事にわざわざ手料理するのも億劫だ。
腹さえ満たされて、栄養が取れればそれで良い。
潤はコンビニの袋を下げてマンションへ帰ると、扉を開ける。
部屋の中は静まり返り、いつもなら出迎えてくれる椿の姿もない。
潤は手探りで玄関の明かりをつけると、靴を脱いでリビングへと向かった。
ひんやりとした、人の温もりのない部屋。
もちろん、仕事のシフト上潤の方が先に帰る時だってある。
でも、あと少しで椿が帰ってくると言う安心感から、こんな寒々しい気持ちにはならない。
潤はソファにコンビニ袋を放ると、自らの身体もソファに沈めた。
まだ6月の初めのじんわりと這うような暑さに、潤は額の汗を拭う。
完全に陽が落ちてしまえばそこまででもないが、もう汗ばむような暑さは始まっている。
潤はクーラーのリモコンを押すと、再びソファに倒れ込んだ。
早く帰るとは言っていた。
しかし、20時に帰ることはないだろう。
おそらく21時……場合によっては22時を過ぎることもあるかもしれない。
潤は大きく吐息をつくと、時計を見た。
まだ、18時。
潤は僅かに椿の匂いの残るクッションを抱きしめると、目を瞑る。
椿は、モテる。
容姿はもちろん、その性格も穏やかで優しい。
園児の母たちがキャーキャー言っているのも知っているし、現にシングルマザーの中には公然と好意を丸出しにしている者もいる。
街を歩けば逆ナンパをされるし、園児の中には『あたしおとなになったらせんせーとけっこんする!』という子もいた。
……まあ、最後のはいいとして。
実は潤とてモテるのだが、本人はそれに気が付いていない。
しかも、潤の場合は男女ともにモテる。
しかし、本人が気が付いてない上に、気が付いたとしても『だから何?』というスタンスなのだから仕方がない。
とにかく、潤にとっては椿がモテることのみが心配事なのであって、他はどうだっていいのだ。
なぜなら、自分が仮にモテたとしても、自分は椿以外の人物には興味がないから。
しかし、椿の気持ちはどうだろう。
椿と自分は、七歳も歳が離れている。
椿にとって、自分はまだまだ子供に過ぎないのではないか。
本当は、もっと大人の方が良いのではないか?
そんな思いが常に渦巻いている。
いつだって、拗ねたり怒ったりするのは自分だけだ。
嫉妬もヤキモチも、自分しかしない。
もしかしたらーー自分にとって椿は特別なのに、椿にとっての自分は特別ではないのかもしれない。
そんな思いが湧き上がってくる。
何人も付き合ったうちの、一人。
このまま、他にもっと好きな人ができたら、そちらに行ってしまうのではないかーー。
潤はそこまで考えて頭を振ると、ため息をついた。
そんなはずは、ない。
椿はいつだって優しいし、自分を可愛いと言ってくれる。
きっと、自分が不安になっているだけだ。
潤は抱きしめていたクッションを離すと、ノロノロと起き上がりコンビニの袋を手に取った。
さあ、考えても答えの出ないことを考えていないで、さっさと食事をとってレポートに取り掛かろう。
潤はそう決めると、飲み物を淹れるために立ち上がった。
椿とともに住んでいるマンションは、大学と実家の、やや実家寄りにある。
周りからは『なんでそんな中途半端なところに住んでるんだ?』と聞かれるが、椿の勤務先のこともあるから仕方がない。
自分一人ならもっと大学に近いところに住むのだけれど。
夕焼けの景色を見ながら、ぼんやりと朝野崎の言ったことを思い出す。
ーーいっそ、本人に直接言ってみりゃいいんだよ。『ヤキモチくらい妬いて!』ってさ。その方が案外、ホッとして向こうも本音晒してくれるかもしれないぞ?
その言葉を頭の中で反芻する。
今度、言ってみよう。
少し勇気が要るけど、それでこの不安が消えるなら安いものだ。
潤は駅を降りるとコンビニに寄り、夕飯を買ってマンションまでの道を歩く。
一人の食事にわざわざ手料理するのも億劫だ。
腹さえ満たされて、栄養が取れればそれで良い。
潤はコンビニの袋を下げてマンションへ帰ると、扉を開ける。
部屋の中は静まり返り、いつもなら出迎えてくれる椿の姿もない。
潤は手探りで玄関の明かりをつけると、靴を脱いでリビングへと向かった。
ひんやりとした、人の温もりのない部屋。
もちろん、仕事のシフト上潤の方が先に帰る時だってある。
でも、あと少しで椿が帰ってくると言う安心感から、こんな寒々しい気持ちにはならない。
潤はソファにコンビニ袋を放ると、自らの身体もソファに沈めた。
まだ6月の初めのじんわりと這うような暑さに、潤は額の汗を拭う。
完全に陽が落ちてしまえばそこまででもないが、もう汗ばむような暑さは始まっている。
潤はクーラーのリモコンを押すと、再びソファに倒れ込んだ。
早く帰るとは言っていた。
しかし、20時に帰ることはないだろう。
おそらく21時……場合によっては22時を過ぎることもあるかもしれない。
潤は大きく吐息をつくと、時計を見た。
まだ、18時。
潤は僅かに椿の匂いの残るクッションを抱きしめると、目を瞑る。
椿は、モテる。
容姿はもちろん、その性格も穏やかで優しい。
園児の母たちがキャーキャー言っているのも知っているし、現にシングルマザーの中には公然と好意を丸出しにしている者もいる。
街を歩けば逆ナンパをされるし、園児の中には『あたしおとなになったらせんせーとけっこんする!』という子もいた。
……まあ、最後のはいいとして。
実は潤とてモテるのだが、本人はそれに気が付いていない。
しかも、潤の場合は男女ともにモテる。
しかし、本人が気が付いてない上に、気が付いたとしても『だから何?』というスタンスなのだから仕方がない。
とにかく、潤にとっては椿がモテることのみが心配事なのであって、他はどうだっていいのだ。
なぜなら、自分が仮にモテたとしても、自分は椿以外の人物には興味がないから。
しかし、椿の気持ちはどうだろう。
椿と自分は、七歳も歳が離れている。
椿にとって、自分はまだまだ子供に過ぎないのではないか。
本当は、もっと大人の方が良いのではないか?
そんな思いが常に渦巻いている。
いつだって、拗ねたり怒ったりするのは自分だけだ。
嫉妬もヤキモチも、自分しかしない。
もしかしたらーー自分にとって椿は特別なのに、椿にとっての自分は特別ではないのかもしれない。
そんな思いが湧き上がってくる。
何人も付き合ったうちの、一人。
このまま、他にもっと好きな人ができたら、そちらに行ってしまうのではないかーー。
潤はそこまで考えて頭を振ると、ため息をついた。
そんなはずは、ない。
椿はいつだって優しいし、自分を可愛いと言ってくれる。
きっと、自分が不安になっているだけだ。
潤は抱きしめていたクッションを離すと、ノロノロと起き上がりコンビニの袋を手に取った。
さあ、考えても答えの出ないことを考えていないで、さっさと食事をとってレポートに取り掛かろう。
潤はそう決めると、飲み物を淹れるために立ち上がった。
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