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本編
第九話
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しばらくすると、二人の元に湯気を立てた良い香りのコーヒーが運ばれてくる。
コーヒーに詳しくない潤でも、良い香りだとわかる物だ。
「……いただきます」
潤は恐る恐る、ブラックでコーヒーを啜る。
普段椿の淹れたコーヒーを飲むときは、たっぷりと砂糖を入れて飲むから、ブラックで飲むのなんて初めての経験だ。
こくりと一口飲むと、コーヒーの爽やかでフルーティーな香りが口の中に広がる。
潤は、思わず目を見開いた。
「……美味しい」
潤はそう言うと、二口目を飲む。
「はは、口にあってよかった」
圭介は自分に運ばれてきたコーヒーを飲むと、そう言って笑った。
それを見て、ふと潤は圭介のテーブルを見て疑問を口にする。
「圭介先輩、お腹すいたって言ってませんでした?」
圭介のテーブルにはコーヒーしか置かれていない。
潤は首を傾げると圭介を見上げた。
「ん?ああ、いいんだ。あんなのはここに誘う名目みたいなもんだから」
そう言うと、圭介は微笑みながらコーヒーを飲む。
圭介は、椿とはまた系統の違う美形だ。
涼やかでキリリとした目元、通った鼻筋。
甘くて柔らかな雰囲気の椿とは真逆の魅力を持つ。
潤は少し照れたように視線を落とすと、コーヒーを飲んだ。
と、不意に圭介のスマホがテーブルの上で震え始める。
通話の着信らしい。
スマホには『結人』と表示されている。
「おっと、悪い……結人だ。ちょっと出てくるな」
圭介はそう言って潤に断ると、店の外へ出て行く。
潤はその姿を見送り、自然と窓の外を眺めた。
相変わらず、道には人が溢れている。
潤は飲み終えたカップをソーサーへ置くと、頬杖をついて街ゆく人にぼんやりとした視線を送った。
「それ」は本当に偶然だったように思う。
窓の外で笑いながら話す圭介の背後に、椿の姿が見えたのは。
潤は思わず少し腰を浮かすと、目を凝らしてその姿を目で追う。
瞬間、潤の時は凍り付いたように止まったような気がした。
椿の隣に、女性がいる。
しかも、椿の手はしっかりと女性の腰に回され、女性の方も椿にしっかりとしなだれかかりながら歩いていた。
そんな、まさか。
潤の顔面から血の気が引いていく。
握りしめた指先が白く染まり、カタカタと震え出した。
暑くも無いのに背中からは嫌な汗が流れ、目の前がぼやける。
何が何だかわからない。
潤は窓の外を睨んだまま、固まっていた。
「……おい、潤?」
丁度電話から戻った圭介に声をかけられると、潤はようやく視線を圭介に戻す。
「……圭介、先輩」
明らかにおかしい潤の様子に、圭介は眉根を寄せて潤の肩を叩いた。
「大丈夫か?ひどい顔色だぞ……」
「あ……あの……」
うまく言葉が出てこない。
過呼吸の様に、ヒューヒューと喉から息が漏れる。
「潤……?」
圭介はするりと潤の隣に座ると、その優しく背中を撫でた。
「体調悪かったのか?そんな時に誘って悪ーー」
「違……今……」
潤は込み上げる涙を必死で堪えながら、口を開く。
「ん?」
「今……僕のこ、恋人が……通って」
「……うん」
圭介は優しく潤の背を撫でながら、潤が話すのを根気よく待った。
「他の人と……仲良さそうに……腰を抱いて歩いてて……」
「………」
そこまで言うと、潤の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「あー……その、な。なんか事情があるのかもしれないし」
圭介はそう言うと、くしゃくしゃと潤の髪をかき混ぜた。
「どっち方面行った?ただ、駅に送っていっただけかもしれねえぞ?」
な?と圭介が優しげに言うと、潤は椿の去っていった方を指さす。
瞬間、圭介の表情が一瞬固まった。
そのまま、圭介は自分の髪をぐしゃぐしゃとかきあげる。
その様子を見て、潤はこぼれ落ちる涙をそのままに、圭介を見上げた。
「あっちは、何があるんです?」
「あー……その」
視線を逸らす圭介に、潤は唇を噛む。
「教えてくれないなら、自分で見に行きます!」
「あー!わかったよ!」
圭介は潤の肩を掴むと、ため息をつきながら重い口を開いた。
「その……落ち着いて聞けよ?……ホテル街だ」
瞬間、潤の表情が固まる。
圭介は自分の頭をガシガシとかくと、視線を彷徨わせた。
「……悪かったな……おれが、こんな所に誘っちまったから……」
「……いえ、先輩が悪いわけじゃありません……」
潤は涙を乱暴に拭くと、無理矢理に笑顔を作る。
「それに、本当に何か事情があるかもしれませんから……」
「そう、だな」
圭介はため息をつくと、潤のカバンを持ち立ち上がる。
「……帰ろう。送るよ」
「はい」
そう言って、潤も重い体を引き摺る様に立ち上がった。
コーヒーに詳しくない潤でも、良い香りだとわかる物だ。
「……いただきます」
潤は恐る恐る、ブラックでコーヒーを啜る。
普段椿の淹れたコーヒーを飲むときは、たっぷりと砂糖を入れて飲むから、ブラックで飲むのなんて初めての経験だ。
こくりと一口飲むと、コーヒーの爽やかでフルーティーな香りが口の中に広がる。
潤は、思わず目を見開いた。
「……美味しい」
潤はそう言うと、二口目を飲む。
「はは、口にあってよかった」
圭介は自分に運ばれてきたコーヒーを飲むと、そう言って笑った。
それを見て、ふと潤は圭介のテーブルを見て疑問を口にする。
「圭介先輩、お腹すいたって言ってませんでした?」
圭介のテーブルにはコーヒーしか置かれていない。
潤は首を傾げると圭介を見上げた。
「ん?ああ、いいんだ。あんなのはここに誘う名目みたいなもんだから」
そう言うと、圭介は微笑みながらコーヒーを飲む。
圭介は、椿とはまた系統の違う美形だ。
涼やかでキリリとした目元、通った鼻筋。
甘くて柔らかな雰囲気の椿とは真逆の魅力を持つ。
潤は少し照れたように視線を落とすと、コーヒーを飲んだ。
と、不意に圭介のスマホがテーブルの上で震え始める。
通話の着信らしい。
スマホには『結人』と表示されている。
「おっと、悪い……結人だ。ちょっと出てくるな」
圭介はそう言って潤に断ると、店の外へ出て行く。
潤はその姿を見送り、自然と窓の外を眺めた。
相変わらず、道には人が溢れている。
潤は飲み終えたカップをソーサーへ置くと、頬杖をついて街ゆく人にぼんやりとした視線を送った。
「それ」は本当に偶然だったように思う。
窓の外で笑いながら話す圭介の背後に、椿の姿が見えたのは。
潤は思わず少し腰を浮かすと、目を凝らしてその姿を目で追う。
瞬間、潤の時は凍り付いたように止まったような気がした。
椿の隣に、女性がいる。
しかも、椿の手はしっかりと女性の腰に回され、女性の方も椿にしっかりとしなだれかかりながら歩いていた。
そんな、まさか。
潤の顔面から血の気が引いていく。
握りしめた指先が白く染まり、カタカタと震え出した。
暑くも無いのに背中からは嫌な汗が流れ、目の前がぼやける。
何が何だかわからない。
潤は窓の外を睨んだまま、固まっていた。
「……おい、潤?」
丁度電話から戻った圭介に声をかけられると、潤はようやく視線を圭介に戻す。
「……圭介、先輩」
明らかにおかしい潤の様子に、圭介は眉根を寄せて潤の肩を叩いた。
「大丈夫か?ひどい顔色だぞ……」
「あ……あの……」
うまく言葉が出てこない。
過呼吸の様に、ヒューヒューと喉から息が漏れる。
「潤……?」
圭介はするりと潤の隣に座ると、その優しく背中を撫でた。
「体調悪かったのか?そんな時に誘って悪ーー」
「違……今……」
潤は込み上げる涙を必死で堪えながら、口を開く。
「ん?」
「今……僕のこ、恋人が……通って」
「……うん」
圭介は優しく潤の背を撫でながら、潤が話すのを根気よく待った。
「他の人と……仲良さそうに……腰を抱いて歩いてて……」
「………」
そこまで言うと、潤の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「あー……その、な。なんか事情があるのかもしれないし」
圭介はそう言うと、くしゃくしゃと潤の髪をかき混ぜた。
「どっち方面行った?ただ、駅に送っていっただけかもしれねえぞ?」
な?と圭介が優しげに言うと、潤は椿の去っていった方を指さす。
瞬間、圭介の表情が一瞬固まった。
そのまま、圭介は自分の髪をぐしゃぐしゃとかきあげる。
その様子を見て、潤はこぼれ落ちる涙をそのままに、圭介を見上げた。
「あっちは、何があるんです?」
「あー……その」
視線を逸らす圭介に、潤は唇を噛む。
「教えてくれないなら、自分で見に行きます!」
「あー!わかったよ!」
圭介は潤の肩を掴むと、ため息をつきながら重い口を開いた。
「その……落ち着いて聞けよ?……ホテル街だ」
瞬間、潤の表情が固まる。
圭介は自分の頭をガシガシとかくと、視線を彷徨わせた。
「……悪かったな……おれが、こんな所に誘っちまったから……」
「……いえ、先輩が悪いわけじゃありません……」
潤は涙を乱暴に拭くと、無理矢理に笑顔を作る。
「それに、本当に何か事情があるかもしれませんから……」
「そう、だな」
圭介はため息をつくと、潤のカバンを持ち立ち上がる。
「……帰ろう。送るよ」
「はい」
そう言って、潤も重い体を引き摺る様に立ち上がった。
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