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憤怒
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この日黒田は東雲中学校に来ていた。ある事案の執行内容が確定したためそれを伝えに来た。本来ならば対象者は留置所にいるのだが、対象者の年齢が未成年であり、しかも事案が事案だけに難しいのである。
2年C組に着くと生徒の前で黒田の部下である榎本慎之助は執行内容を読み上げた。
「2月26日、飛び込み自殺により亡くなられた笹本由香里さんの遺書をもとに元凶である千葉麗菜、東大輔、古橋和弘。そして担任の横峯雅美にはSaBによる罰を執行することを許可する。3月21日最高裁判所。」
2月26日、笹本由香里13歳が歩道橋から飛び込み自殺をし、短い生涯に終わりを告げた。原因は千葉、東、古橋と仲の良い上級生による集団リンチだった。時には金銭を要求し、「払えないなら体で払え!」と売春を強要させ、そうでなくても男子生徒に強姦させ、それを写真に撮ったりしていた。担任の横峯にも相談をしたが、聞く耳を持たず挙句の果てに「そんなに嫌なら来なきゃいい。」と突き返されるような事を言われた。その事実を知った笹本の母親は横峯にいじめの解決をお願いするが、解決による兆しどころか実行すらされず、笹本が不登校になっても彼女のLINEに「学校に来ないと裸の写真をばら撒く」と脅され仕方なく学校に行かないといけなくなり、自由を求めた彼女は飛び降りたのだった。
黒田が4人の顔を見ながら説教をする。
「お前らみたいなクズにはどんな罰がふさわしいか頭を悩ませられたよ。だが安心しろ。とっておきのものを用意しておいた。後ろにいる傍観者たちにも自分のやっていたことがいかに愚かで幼稚でくだらないことだという事を教えるためにな。」
「ふざけんなよ。なんで俺たちに罰が下される。勝手に死んだあいつが悪いだろ。」
「そうだよ。俺たちが裁かれる理由はない。嫌なら転校するなりいろいろあっただろう。」
「来なかったら写真をばら撒くなんて嘘に決まってるじゃん。真に受ける方がおかしいよ。」
人1人殺した実感が無いのか勝手な事を言う3人にクラスメイトは恐怖すら感じた。こんな生徒を野放しにしていたのかと横峯は後悔で顔を伏せていた。ぐちぐちと文句を言う3人に腹をたてたのか黒田は教卓を思いっきり叩いた。
「いい加減にしろ!クズ野郎ども。そもそもテメェらがこんな事しなかったら俺たちがここに来るわけねーだろが!間に受ける方が悪い?甘ったれた事言うな!お前らからしたらイタズラレベルかもしれないが、それで人1人死んでんだぞ。それなのにこの後に及んで詫びの一つも言わない。土下座して許しを乞わない。呆れてしまうよ。いや、もはやお笑いものだな。」
黒田は横峯の顔を覗き込みながら「こんな生徒たちを野放しにしていた感想はいかがですか?是非とも聞かせていただきたいですな。」と笑いながら聞いた。
横峯が黙って顔そらすと黒田が頬掴みながら顔を近づけた。
「今さら逃げんなよ。お前にも罰を用意している。多少の後悔はあるかもしれないが、すでに遅い。己のやった仕打ちがいかに酷いか骨の髄まで思い知らせてやるから覚悟しとけ。」
手を離すと榎本に4人を執行場に連れて行くように命じた。暴れて抵抗していたが無理矢理押さえ込み連れて行かれた。黒田はそれを見届けると残ったクラスメイトに「一つ間違えればお前たちがこうなっていたかもしれない。笹本の母親に感謝するんだな。元凶のあいつらと横峯だけ処分してくれればそれ以上は望まないと言ってくれたんでな。これでわかったと思うがSaBには少年法も触法少年も適用されない。大人と同等の扱いになり、同じような罰を実行する。そんなのを受けたくなければ、愚かなことはしない事だな。」
クラスメイトに一礼すると薄気味悪い笑顔を見せながら教室をあとにした。
練馬区第三執行場。ここはSaB専用の罰の執行場である。SaBは練馬区の他に荒川区、八王子市、さらに全都道府県に少なくとも1つは設置するようにと決まりになっている。
そして先程強制的に送還された千葉、東、古橋を立たせていた。
「さてと、クズども。お前らには素晴らしい罰を用意している。誰から説明しようか。ククク…。」
3人の顔を見ながら笑うと黒田は東大輔の前に立った。
「東大輔。お前には個人情報の公開及びオーバドラックの臨床試験の治験体になってもらう。」
「そんな…」
東は反論しようとしたが言う暇も与えず執行場に連れていかれた。呆気に取られている古橋の前に立ち「古橋和弘。お前には個人情報の公開及び酸性洗剤が目や顔、身体に与える影響を調べるための実験体になってもらう。」
「嘘だろ。そんなのありかよ?」
「当然だ。連れて行け。」
黒田の無慈悲な言葉が合図となり古橋は別の執行場に連れて行かれた。
「さてと、残るのはお前だ。千葉麗菜。」
千葉はあまりの恐怖に泣きじゃくっていた。
「もう許して。お願いします。お願いします。」
許しを乞い土下座していたが、黒田は千葉の顔に近づくと「すでに遅いんだよ。恨むなら自分自身を恨むんだな。」と冷たく言い放った。そして地面に額を付けたままの千葉に執行内容を告げる。
「千葉麗菜。お前には個人情報公開及びあの部屋にいる奴らの恵み物になってもらう。」
黒田が指を刺した方向にはたくさんの男達がいた。
千葉が驚いていると黒田が説明した。
「あいつらは明日以降釈放される元犯罪者だ。シャバに戻っても再犯で豚箱に戻られても困るだろう。そこでお前の体で歓迎してやれ。」
「嫌だ。そんなの嫌だ。」
拒む千葉を無視して黒田は部屋にいる男たちに「俺からの餞別だ。この女、出所時間まで好きにしていいぞ。」と言って千葉を執行部屋に放り込んだ。固くドアが閉じられると千葉の断末魔が聞こえたが黒田にとっては心地よい響きなのかもしれない。
一方別の階の執行部屋には横峯と影山がいた。
「横峯雅美。あなたにはカンボジアの小学校の再建及び現地の日本語学校の教師を20年担当する事を命じる。」
横峯は執行内容に驚いた。それは恐怖ではなく内容の軽薄さに驚いていた。反省の意を汲んで影山が無理矢理組んだ罰だった。
「本当に悪いと思うのなら、反省の意を示したいのなら、未来ある子供達を正しい方法で救ってあげてください。渡航は2日後、空港でNPO法人の方と一緒に行ってもらいます。現地には娯楽どころか満足する場所すらありません。現地の方と触れ合い、同じような生活をしながら学校建ててもらいます。脱走しようとしてもGPSによってあなたの居場所は365日24時間特定されます。真摯に向き合い反省の20年を過ごしてください。」
そう言うと影山は執行部屋から出ていった。
吉田はこの罰の経緯を知っているため余計に許可が出たことの安心感を感じている。
この執行内容は元々窃盗罪で捕まった前田睦月に適用しようとした案だったが、許可が出なかったため急遽横峯雅美の執行内容に代用したのだった。黒田は最後まで渋い顔をしていたが、影山も共に説得して心折れた黒田は首を縦に振ったのだ。
「良かったですね。更生させるための案が通って。」
「今までが異常だったんだ。確かに犯罪者は許せないけど、俺たちは悪魔でも閻魔様でもない。何が正しいのか、その判別を間違ってはいけない。俺はそう思ってる。」
影山と吉田が話していると前から山下が困った顔をしながら走って来た。
「部長!」
「どうした。そんな顔をして」
「これを見てください。」
山下から渡されたタブレットには東大輔、千葉麗菜、吉橋和弘の個人情報の公開とSaBによる罰が執行されたことが報道されていた。
「とんでもないことになりましたね。」
「ああ…」
吉田と影山が神妙深い顔していると山下は「問題はその下です。」と言って画面をスクロールした。
そこには中学生の個人情報公開によるバッシングの嵐だった。
「可哀想。政府のやり方についていけない。」
「こんなもの許している国は終わってる。」
「これで遺族が喜んでるならそいつも相当おかしい。」
この他にも読みきれないほどの炎上コメントは多数上がっていた。
「このコメントだけではなく、SaB本部の前に人権派団体がSaB解体を求める講義デモが起こっています。」
山下の見せたタブレットにはデモの様子も生中継で写っていた。玄関前は警備員が塞いでいるが今にも押しつぶされそうな勢いだった。
デモの持っているボードには「人手なし集団は断罪せよ。」
「横暴を許すな。」
「未来ある子供を守れ!」等々たくさんの講義内容が書かれている。
3人は神妙な顔しながら画面を見ていた。
「もしかしたら今日はここから出れないかもしれないですね。」
吉田の言葉に影山は黙って頷いた。家族や友人にSaBに努めていることはトップシークレット。バレてしまえばそれぞれの人生が終わったも同然である。
すると画面から聞こえてくる声がワッと大きくなった。見ると黒田が出てきたのだった。
黒田はゆっくり拍手しながら憎たらしい顔をしていた。
「素晴らしい。未来ある子供達を守れ。よくもまぁそんな偽善な言葉が出てきますね。」
すると群衆から「当然だ!」の言葉が合図のように各々言いたいことを言って来た。
黒田は黙って静まるの待っていた。
「なんとか言えよ!クソ悪魔が!」
「罪の無い人を苦しめるな!」
黒田がその言葉を待ってましたと言わんばかりに笑顔を見せた。
「そこの青と黒のチェックを着た男性。今何て言いました?」
「え?いや、だから罪の無い人間を苦しめるなって…」
男性がそう答えると黒田は大きく笑った。
「こいつは傑作だ。1人の子供の命を奪ったきっかけの人間は無罪だと言うのか?バカバカしい。そんな考えだからいつまでたってもこの国はぬるま湯なんだ。」
あまりの言葉に群衆は黙ってしまった。それを感じた黒田は矢継ぎ早に演説を始めた。
「お前らは犯罪者にも人権をとか訳わからない事を吐かすが、所詮お前らは自分の家族を、友人を、無慈悲に無くしたことがない、失った悲しみを知らないお気楽な奴らなんだよ。」
黒田の顔には眉間に皺を寄せて群衆の前にいる人達に近づいた。
「お前は家族を殺された悲しみを知ってるか?あ?隣にいるお前も、その隣も知ってるのかって聞いてんだ!知りもしないくせに人権だ横暴だなんてほざくんじゃねぇ!SaBはこの国には必要な存在だ!人間生きているうちに16人は犯罪者とすれ違ってんだ。そいつらの犠牲になるのはあんたの家族かもしれない。あんたの友人かもしれない。あんたの恋人かもしれない。あるいはあんた自身かもしれない。それでもまだ文句があるならせいぜい呑気に毎日を過ごしてろ!」
長々とした演説が終わると黒田は本部に戻って行った。不思議なことに黒田の演説が終わると群衆のほとんどが帰っていた。デモの中継もここで終わっていた。
「黒田さんの力ってすごいですね。なんかわからないけどものすごい執念を感じます。」
吉田の言葉に応えるように影山は話した。
「黒田さんは自分の家族を殺されたことがあるんだよ。」
山下も吉田も初耳だったのか驚いた顔をしていた。
「当時、黒田さんは高校生だったらしいが両親を殺した犯人が死刑にならないのを許せなかったらしい。検察に何度も控訴するように説得したが動いてくれなかったそうだ。だからSaBを作ったんだよ。そういう犯罪者を減らすために。」
「そう聞くと黒田さんの気持ちもわからなくないですね。」
山下の言葉に吉田も同調した。
「私たちも群衆と同じぬるま湯に浸っていたのかもしれないね。私はSaBから正義の鉄槌を下せる場所だと思ったから入ったんですけど、そんな軽い気持ちだとダメなんですね。」
「正義の形は人それぞれだ。」
影山がそう言うと山下と吉田を見ながら話した。
「確かに黒田さんの気持ちはわかる。犯罪者を減らすためにはこんなやり方しかないと俺も思っていた。だけど熊田さんが教えてくれたんだ。自分の正義を押し付けてはいけないって。自分の正義は正しいと思っているとそのためなら何をしても構わないという考えに至る。そうなってしまったらそれは単なる暴走だ。誰にも止められなくなる。」
影山は眉間を押さえながら執行部の部屋に戻っていた。山下と吉田はそんな影山を見送ることしかできなかった。
黒田が帰宅するといつもは出迎えてくれる妻の絢香はいなかった。リビングのテーブルには離婚届と「あなたのやり方にはついていけません。さようなら。」と書かれた置き手紙が置いてあった。
黒田はフッと笑うと手紙をぐしゃぐしゃに潰した。わからないやつは所詮その程度のやつなんだと黒田は思った。絢香との関係もそろそろだと思っていた。今日のデモの時に言った言葉が決め手になったんだろう。むしろ向こうから別れを切り出してくれて感謝している。黒田は翌日離婚届を役所に提出した。受付をしていた職員は黒田の顔を見てびっくりしていたが、黒田の睨みを効かせた目にビビり無言で受け取った。
黒田は不思議と清々しい気持ちになっていた。これで何も気にすることなく業務に励むことができる。黒田の心の中は犯罪者を撲滅する。その一点だけだある。
2年C組に着くと生徒の前で黒田の部下である榎本慎之助は執行内容を読み上げた。
「2月26日、飛び込み自殺により亡くなられた笹本由香里さんの遺書をもとに元凶である千葉麗菜、東大輔、古橋和弘。そして担任の横峯雅美にはSaBによる罰を執行することを許可する。3月21日最高裁判所。」
2月26日、笹本由香里13歳が歩道橋から飛び込み自殺をし、短い生涯に終わりを告げた。原因は千葉、東、古橋と仲の良い上級生による集団リンチだった。時には金銭を要求し、「払えないなら体で払え!」と売春を強要させ、そうでなくても男子生徒に強姦させ、それを写真に撮ったりしていた。担任の横峯にも相談をしたが、聞く耳を持たず挙句の果てに「そんなに嫌なら来なきゃいい。」と突き返されるような事を言われた。その事実を知った笹本の母親は横峯にいじめの解決をお願いするが、解決による兆しどころか実行すらされず、笹本が不登校になっても彼女のLINEに「学校に来ないと裸の写真をばら撒く」と脅され仕方なく学校に行かないといけなくなり、自由を求めた彼女は飛び降りたのだった。
黒田が4人の顔を見ながら説教をする。
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「そうだよ。俺たちが裁かれる理由はない。嫌なら転校するなりいろいろあっただろう。」
「来なかったら写真をばら撒くなんて嘘に決まってるじゃん。真に受ける方がおかしいよ。」
人1人殺した実感が無いのか勝手な事を言う3人にクラスメイトは恐怖すら感じた。こんな生徒を野放しにしていたのかと横峯は後悔で顔を伏せていた。ぐちぐちと文句を言う3人に腹をたてたのか黒田は教卓を思いっきり叩いた。
「いい加減にしろ!クズ野郎ども。そもそもテメェらがこんな事しなかったら俺たちがここに来るわけねーだろが!間に受ける方が悪い?甘ったれた事言うな!お前らからしたらイタズラレベルかもしれないが、それで人1人死んでんだぞ。それなのにこの後に及んで詫びの一つも言わない。土下座して許しを乞わない。呆れてしまうよ。いや、もはやお笑いものだな。」
黒田は横峯の顔を覗き込みながら「こんな生徒たちを野放しにしていた感想はいかがですか?是非とも聞かせていただきたいですな。」と笑いながら聞いた。
横峯が黙って顔そらすと黒田が頬掴みながら顔を近づけた。
「今さら逃げんなよ。お前にも罰を用意している。多少の後悔はあるかもしれないが、すでに遅い。己のやった仕打ちがいかに酷いか骨の髄まで思い知らせてやるから覚悟しとけ。」
手を離すと榎本に4人を執行場に連れて行くように命じた。暴れて抵抗していたが無理矢理押さえ込み連れて行かれた。黒田はそれを見届けると残ったクラスメイトに「一つ間違えればお前たちがこうなっていたかもしれない。笹本の母親に感謝するんだな。元凶のあいつらと横峯だけ処分してくれればそれ以上は望まないと言ってくれたんでな。これでわかったと思うがSaBには少年法も触法少年も適用されない。大人と同等の扱いになり、同じような罰を実行する。そんなのを受けたくなければ、愚かなことはしない事だな。」
クラスメイトに一礼すると薄気味悪い笑顔を見せながら教室をあとにした。
練馬区第三執行場。ここはSaB専用の罰の執行場である。SaBは練馬区の他に荒川区、八王子市、さらに全都道府県に少なくとも1つは設置するようにと決まりになっている。
そして先程強制的に送還された千葉、東、古橋を立たせていた。
「さてと、クズども。お前らには素晴らしい罰を用意している。誰から説明しようか。ククク…。」
3人の顔を見ながら笑うと黒田は東大輔の前に立った。
「東大輔。お前には個人情報の公開及びオーバドラックの臨床試験の治験体になってもらう。」
「そんな…」
東は反論しようとしたが言う暇も与えず執行場に連れていかれた。呆気に取られている古橋の前に立ち「古橋和弘。お前には個人情報の公開及び酸性洗剤が目や顔、身体に与える影響を調べるための実験体になってもらう。」
「嘘だろ。そんなのありかよ?」
「当然だ。連れて行け。」
黒田の無慈悲な言葉が合図となり古橋は別の執行場に連れて行かれた。
「さてと、残るのはお前だ。千葉麗菜。」
千葉はあまりの恐怖に泣きじゃくっていた。
「もう許して。お願いします。お願いします。」
許しを乞い土下座していたが、黒田は千葉の顔に近づくと「すでに遅いんだよ。恨むなら自分自身を恨むんだな。」と冷たく言い放った。そして地面に額を付けたままの千葉に執行内容を告げる。
「千葉麗菜。お前には個人情報公開及びあの部屋にいる奴らの恵み物になってもらう。」
黒田が指を刺した方向にはたくさんの男達がいた。
千葉が驚いていると黒田が説明した。
「あいつらは明日以降釈放される元犯罪者だ。シャバに戻っても再犯で豚箱に戻られても困るだろう。そこでお前の体で歓迎してやれ。」
「嫌だ。そんなの嫌だ。」
拒む千葉を無視して黒田は部屋にいる男たちに「俺からの餞別だ。この女、出所時間まで好きにしていいぞ。」と言って千葉を執行部屋に放り込んだ。固くドアが閉じられると千葉の断末魔が聞こえたが黒田にとっては心地よい響きなのかもしれない。
一方別の階の執行部屋には横峯と影山がいた。
「横峯雅美。あなたにはカンボジアの小学校の再建及び現地の日本語学校の教師を20年担当する事を命じる。」
横峯は執行内容に驚いた。それは恐怖ではなく内容の軽薄さに驚いていた。反省の意を汲んで影山が無理矢理組んだ罰だった。
「本当に悪いと思うのなら、反省の意を示したいのなら、未来ある子供達を正しい方法で救ってあげてください。渡航は2日後、空港でNPO法人の方と一緒に行ってもらいます。現地には娯楽どころか満足する場所すらありません。現地の方と触れ合い、同じような生活をしながら学校建ててもらいます。脱走しようとしてもGPSによってあなたの居場所は365日24時間特定されます。真摯に向き合い反省の20年を過ごしてください。」
そう言うと影山は執行部屋から出ていった。
吉田はこの罰の経緯を知っているため余計に許可が出たことの安心感を感じている。
この執行内容は元々窃盗罪で捕まった前田睦月に適用しようとした案だったが、許可が出なかったため急遽横峯雅美の執行内容に代用したのだった。黒田は最後まで渋い顔をしていたが、影山も共に説得して心折れた黒田は首を縦に振ったのだ。
「良かったですね。更生させるための案が通って。」
「今までが異常だったんだ。確かに犯罪者は許せないけど、俺たちは悪魔でも閻魔様でもない。何が正しいのか、その判別を間違ってはいけない。俺はそう思ってる。」
影山と吉田が話していると前から山下が困った顔をしながら走って来た。
「部長!」
「どうした。そんな顔をして」
「これを見てください。」
山下から渡されたタブレットには東大輔、千葉麗菜、吉橋和弘の個人情報の公開とSaBによる罰が執行されたことが報道されていた。
「とんでもないことになりましたね。」
「ああ…」
吉田と影山が神妙深い顔していると山下は「問題はその下です。」と言って画面をスクロールした。
そこには中学生の個人情報公開によるバッシングの嵐だった。
「可哀想。政府のやり方についていけない。」
「こんなもの許している国は終わってる。」
「これで遺族が喜んでるならそいつも相当おかしい。」
この他にも読みきれないほどの炎上コメントは多数上がっていた。
「このコメントだけではなく、SaB本部の前に人権派団体がSaB解体を求める講義デモが起こっています。」
山下の見せたタブレットにはデモの様子も生中継で写っていた。玄関前は警備員が塞いでいるが今にも押しつぶされそうな勢いだった。
デモの持っているボードには「人手なし集団は断罪せよ。」
「横暴を許すな。」
「未来ある子供を守れ!」等々たくさんの講義内容が書かれている。
3人は神妙な顔しながら画面を見ていた。
「もしかしたら今日はここから出れないかもしれないですね。」
吉田の言葉に影山は黙って頷いた。家族や友人にSaBに努めていることはトップシークレット。バレてしまえばそれぞれの人生が終わったも同然である。
すると画面から聞こえてくる声がワッと大きくなった。見ると黒田が出てきたのだった。
黒田はゆっくり拍手しながら憎たらしい顔をしていた。
「素晴らしい。未来ある子供達を守れ。よくもまぁそんな偽善な言葉が出てきますね。」
すると群衆から「当然だ!」の言葉が合図のように各々言いたいことを言って来た。
黒田は黙って静まるの待っていた。
「なんとか言えよ!クソ悪魔が!」
「罪の無い人を苦しめるな!」
黒田がその言葉を待ってましたと言わんばかりに笑顔を見せた。
「そこの青と黒のチェックを着た男性。今何て言いました?」
「え?いや、だから罪の無い人間を苦しめるなって…」
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あまりの言葉に群衆は黙ってしまった。それを感じた黒田は矢継ぎ早に演説を始めた。
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黒田の顔には眉間に皺を寄せて群衆の前にいる人達に近づいた。
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長々とした演説が終わると黒田は本部に戻って行った。不思議なことに黒田の演説が終わると群衆のほとんどが帰っていた。デモの中継もここで終わっていた。
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「当時、黒田さんは高校生だったらしいが両親を殺した犯人が死刑にならないのを許せなかったらしい。検察に何度も控訴するように説得したが動いてくれなかったそうだ。だからSaBを作ったんだよ。そういう犯罪者を減らすために。」
「そう聞くと黒田さんの気持ちもわからなくないですね。」
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「私たちも群衆と同じぬるま湯に浸っていたのかもしれないね。私はSaBから正義の鉄槌を下せる場所だと思ったから入ったんですけど、そんな軽い気持ちだとダメなんですね。」
「正義の形は人それぞれだ。」
影山がそう言うと山下と吉田を見ながら話した。
「確かに黒田さんの気持ちはわかる。犯罪者を減らすためにはこんなやり方しかないと俺も思っていた。だけど熊田さんが教えてくれたんだ。自分の正義を押し付けてはいけないって。自分の正義は正しいと思っているとそのためなら何をしても構わないという考えに至る。そうなってしまったらそれは単なる暴走だ。誰にも止められなくなる。」
影山は眉間を押さえながら執行部の部屋に戻っていた。山下と吉田はそんな影山を見送ることしかできなかった。
黒田が帰宅するといつもは出迎えてくれる妻の絢香はいなかった。リビングのテーブルには離婚届と「あなたのやり方にはついていけません。さようなら。」と書かれた置き手紙が置いてあった。
黒田はフッと笑うと手紙をぐしゃぐしゃに潰した。わからないやつは所詮その程度のやつなんだと黒田は思った。絢香との関係もそろそろだと思っていた。今日のデモの時に言った言葉が決め手になったんだろう。むしろ向こうから別れを切り出してくれて感謝している。黒田は翌日離婚届を役所に提出した。受付をしていた職員は黒田の顔を見てびっくりしていたが、黒田の睨みを効かせた目にビビり無言で受け取った。
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